まいど通信
●作業服を買ってみました
突然のオファーで新編集長となったリニューアル号からはや1カ月。おかげさまで2018年2月号をアップすることができました。
ごぞんじの通り、東京は雪で大混乱。大阪でも池にも氷が張り、ちょうどいま日本は一番寒い時期を迎えています。そんなタイミングの沖縄県のユーザー特集というわけで、なんとなく暖かさを感じていただけたのではないでしょうか?
さて、前回はスペシャル企画で「まいど屋」自体についての話でしたが、今回はいつも通り作業服のユーザーレポートに加えて、商品説明を盛り込んでいます。
これが意外と大変でした。
僕はファッションにはあまり興味がなく、アパレル業界の取材もほとんどしたことがありません。最近まで「テキスタイル」を「テキ屋のスタイル(口調やタオルの巻き方など)」のことだと思ってたくらいですから、「ドビークロス」「ピンストライプ」「トリカット仕様」なんて聞いても、どういうものかわからない。
これはマズいぞ、なんとかしなければ……。
こんなときは実物を体験するに限る。というわけで、自分用の作業服を買ってみることにしました。
まいど屋で買おうとも思ったのですが、はじめての作業服なのでいろいろ試着して選びたい。そんなわけで近所の作業服の店に行ってきました。
綿100%は確かにいいけど、ちょっと値が張るなぁ。最初は手ごろなのにして、自分の求めているものがわかってから上等なやつを買った方がいいかも……。
それで結局、半額以下になっていたセール品の中から、オーソドックスなポリエステル65%、綿35%のベージュのブルゾンを選びました。
36歳にして作業服デビューです。期待に胸を高鳴らせながら着てみました。
●動きやすさのレベルが違う
まず、袖を通して思ったのは「ふわっとしている」ということ。単純な軽さだけでなく、ちょっと肌から浮いているようなライト感というか。細めのルックスから想像できない意外な着心地です。
そして、袖がやや短めになっていることに「なるほど」と思いました。
よく腕時計を見ようとして袖が邪魔になることがあるけれど、これならそんなストレスはない。また、手を洗うときもこれなら腕まくりをしなくてもよさそう。ただのブルゾンのようだけど、よく考えられているな、と。
着てみていちばん驚いたのは、動きやすさでした。
買うとき「腕を曲げやすい立体裁断」といった説明を見ていたので、
「どんなもんかな?」
と何気なく両手をクロスさせた姿勢をしてみたり、かがみこんだり、普通の服でやると必ずどこかが突っ張るような姿勢をしてみると……。
「うおお、こ、これは!」
まったく動きが邪魔されない。いつも着ている綿のシャツも動きやすいと思っていたけれど、はっきり言ってレベルが違う。
いくらカジュアルな服であっても、突っ張りはしなくても生地を引き伸ばすようなかたちになっていたのか、そこで抵抗があったんだなぁ……。これならラジオ体操も快適だろう、と。
非常に気に入ったので、そのまま仕事中も着続けることにしました。
で、いつものように上からダウンジャケットを着て、パソコン作業をしていると、どうもおかしい。なぜか寒いのです。着てる枚数も服の厚さも同じくらいなのに。
「暖房が効いてないのかな?」
いろいろやってても、ずっと寒さを感じる。そこで試しに綿のシャツに着替えてみると暖かくなる。で、また作業服を着てみるとやっぱり寒い。というか袖を通した瞬間、冷たさを感じる。
「あ、わかった。この服はきっと熱伝導がいいんだ」
そう、僕が買った作業服はオールシーズン用。つまり暑い時期にも着て働くためのものなので、体の熱を逃がす仕組みになっているのでしょう。
なるほど、作業服も奥が深い……。
そんなわけで、この服は春になるまでお蔵入りとなりました。
●ベスト本『日本の制服150年』
それから図書館で作業服に関する本も読んでみました。
ユニフォームに関する本はそれほど数はありません。しかも、一般的なワークウェアというより、学生服をはじめ、警察官・自衛隊などの制服の魅力を語る本の方がはるかに多い。
なぜ男はセーラー服に憧れるのか、みたいな話はちょっと違うよなー、と思いながら探していると、すごくいい本に出会いました。2016年発行の『日本の制服150年 イラストで見る制服のデザイン』(渡辺直樹/青柳社)です。
これは活字の本じゃなく、いわゆるイラスト図鑑ですね。制服と言っても軍隊や警察だけでなく、銀行や鉄道、建設、ホテル、飲食店、さらにはコンビニやファストフードの店員までのユニフォームを網羅。しかも明治から現代までのデザインの変遷を見ていくことができます。
著者の渡辺直樹氏は、アパレル企業の依頼を受けて「こういうデザインの服をターゲットの若い女性が着たら、こんな感じになりますよ」という絵を描くイラストレーター。専門用語を使うなら「デザイン画」をリアルな「スタイル画」にするプロ、とのこと。
この本の素晴らしい点は、まず渡辺氏の絵です。絵で服の質感や重さまで伝わってくるだけでもすごいけれど、ユニフォームを着ているポーズや顔つきもいい。ただの写実ではなくマンガっぽくもなく、絶妙にグッとくるものになっている。
明治時代の鉄道員も、昭和の農夫も、平成のOLも、本当にいそうな感じ、実際にしていそうな表情を浮かべているのです。明治の医者はいかにも旧時代のエリートって感じだし、今の医者は患者をリラックスさせる柔らかい表情をしている。平成のセールスドライバーは、きのう荷物を届けにきたあの兄ちゃんみたいな感じ。背格好も顔も、その職業の典型をよくとらえていて舌を巻きます。
うちでは8歳の娘までが食い入るように読んでいたのだから、この画力(とプロに言うのも失礼ですけど)、恐るべしです。
●ウェアと仕事の誇り
この本を読んでいて気が付くのは、けっこう「昔の方がいいかも」というユニフォームがあることです。
明治時代の警察官や消防士はもはや時代劇だけれど、中には昔のデザインが今でも通用しそうなのがある。
その代表が「海女さん」です。本書には伊勢の海女(昭和)、北陸の海女(昭和)、海女(現代)の3人のイラストが載っているのですが、昭和の海女はみんな観光地の看板で見たようなアレなのに対して、平成の海女は上下ウェットスーツに足ひれ。確かに現代のウェアの方が機能的だろうけれど、魅力の方は明らかに……。
あっ違います、いやらしい意味じゃなくて、ひと目見るだけでもハッとさせるような「サマになっている感じ」がなくなったというか。
漁師や大工、裁判官なんかもそうですね。明治や昭和の服装って機能性に劣るのは明らかなんですが(裁判官の「法服」なんて完全にやりすぎ)、いかにも「この道ひとすじ」みたいな迫力があるのは事実なのです。
本書には、ほかにもユニフォームをめぐるおもしろい話が書かれています。
たとえば解説文によると、昔は鉄道で一等車を担当する車掌などの「花形」の職業の人は、既製の製品ではなく腕の立つ職人に採寸してもらい、制服をオーダーメイドしていたそうです。
「彼らは自分たちの仕事に誇りを持っていたからこそ自前で制服を誂えたのであろう」
おおー、かっこいい。
彼らはウェアひとつにすら妥協せず、自分の仕事を追求していた。なんというプロ意識、いや時代に合わせて「職人気質」というべきか……。
本書は子供から大人まで楽しめるだけでなく、そんなことまで考えさせられる「ベスト・ユニフォーム本」です。一家に一冊、置いておいて損はないでしょう。
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では、今月はこんなところで失礼します。来月もお楽しみに!