まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。今回の「11月号:秋冬作業服特集」はいかがでしたか? 「月刊まいど屋」の担当になってもうすぐ1年。自分ではビギナー丸出しでもなく内輪ネタっぽくもなく、ちょうどいい感じで記事が書けるようになってきたと感じています。このテンションが読者の皆さんにも伝わるといいのですが。

●買っちゃいました

今回は初登場のLeeをはじめ、かなり「普通の服」に近い商品を取り上げています。あっ、これは自分もほしいかも……と思う瞬間もちらほら。動きやすいから取材旅行にいいかも、これなら企業インタビューにも着て行けるな、という具合です。

というのも実は長年「ライターの服装はどういうのがいいか?」を考えていたんですね。

いや、上質なスーツと革靴にネクタイ締めて、というのが一番いいってのはわかってるんですよ。先輩のフリーライターでも、取材をはじめ人前に出るときには必ずスーツを着る人がいます。「フリーライターといういいかげんな世界だからこそ、見た目をきっちりしておくことが大事なんだ」と。うん、一理も十理もあると思います。しかし……、ちゃんとした格好してると疲れますよねー。

それに原稿を書くのって意外と追い込まれるもので、肉体的なストレスがあるとけっこうイライラするんですよ。出先や新幹線で仕事するときにスーツというのは、あまりにもツライ。それだったら初めから新聞記者とかやってる方がいいような気もするし……。

要するに「せっかく自由業をやってるのにスーツなんて」と。そう考えると道はある程度、限られてきます。

1:普段着で取材でもなんでもやる
2:ラフなジャケット&パンツスタイル
3:その他「よそ行き」のキレイ目ウェア

「普段着でゴリ押し」は実は同業者にけっこういます。ライターって広告や雑誌といった華やかな世界の出身者も多いから、意外と普段着も洗練されていてファッショナブルなんですよ、とくに女性は。つまり、オシャレな人は普段着もオシャレだから、充分そのままで通用する。むしろ特徴が出ていい。名前も覚えてもらいやすくなります。

ところが、これはオシャレな人に限った話です。ファッションに関心のない人の普段着は「家かよ!」というレベルで、人前に出るのは苦しい。いや、出る人もいます。サブカルチャーとかのライターならジャージとか寝巻みたいな格好でも余裕でOK。ただ、企業取材なんかになると苦しいですね。取材対応してくれる担当者が出てきたとき、「えっ?」みたいな空気になり、仕事に支障が出てしまいます。普段着もピンからキリまで、というわけです。

続いて2の「ジャケパン」ですが、これもある程度のファッションセンスが問われます。自分で買って中のシャツと合わせつつコーディネートしないといけませんから。こういうスタイルが好きで、服を選ぶのも楽しいならそれでいい。しかし、そういった嗜好がない場合はどうでしょう。ただ「人前に出る」だけのために、まったく欲しくもないジャケットを買うというのは無理があります。機能面だけ見れば「夏暑くて冬寒い」のがジャケットです。そんなものに払うカネがあったら国連難民高等弁務官事務所に寄付をしたい、というのがライター的な発想でしょう。

最後の3「よそ行きのキレイ目ウェア」はどうでしょう? 実はこれこそフリーランスになって以来、私が長年採用してきた戦略でした。ふだん服を買うタイミングで「やや上品なヤツ」を2、3枚確保しておくわけですね。たとえばモノトーンの柄シャツとか。で、それは普段着のローテーションには組み込まず「よそ行き」でしか着ないようにする。洗濯回数が少ないから傷みにくい。これなら普段と同じ快適さで、そこそこの清潔感を出せるわけです。

ところが、最近ついに気づいてしまったんです。服ってヘロヘロになるんですよ、わずか数回の洗濯であっても。ええ、原因はわかっています。安いから! カジュアルウェアの量販店で1000円くらいで買ったセール品。これがまあヘタる、感動的なほどヘタる。ただそれでも、捨てるほどじゃないし……と結局は普段着のローテーションに組み込まれ、やがてまた「やや上品なヤツ」を買わねばならなくなるわけです。

「じゃあ、いっそ作業服はどうだろう?」と考えるのは自然な流れでした。カジュアルウェアと違って、作業服や白衣は別格の耐久性を持たせてあるので毎日着て洗濯してもヘタらない。これは月刊まいど屋の取材を通じて得た知識です。作業服なら着心地も機能性も文句なし! とはいうものの、今度はデザインがネックになります。「ザ・作業服」は当然として、ヤンチャな雰囲気のカジュアルワークウェアも面食らう人がいるだろうし……。

というわけで、今回の取材を通じてついに出会ったのが、サービス業用のややラフなワークウェアです。カフェなんかでの接客にも使えそうなシャツをまずは1着、買ってみました。一体どこの商品にしたのか? それは次の取材でお会いしたときたっぷり語ることにしましょう。ひょっとして、こういったテイストのワークウェアこそいま増えている「オフィスカジュアル」の正解なのでは? と密かに思っています。

●トレンド循環説

今回の取材で印象に残っているのは、「いまどき細身シルエットが好きなのは若者より30、40代じゃないかな?」という言葉です。

そういえば、街を歩いている人も近ごろゆったりしたズボンを履いている。とくに女性はドカンみたいなパンツが流行中。カジュアルウェア界でこういうのが流行っているということは、じきにワークウェアにもゆったりシルエットのブームが来るのでは?

ごぞんじの通り、ワークウェアの世界では、ここ数年、細身シルエット&ストレッチがブームです。昔ながらの「ザ・作業服」に代るものとして細身のカジュアルワークウェアが支持される時代へ。大まかに言えばそういう流れでした。しかし、この細身化もそろそろひと段落なのかも? そんな気がしています。ストレッチで足にぴったりするズボンが出てしまったら、これ以上細くなりようもないですし。

さらに言えば「細身カジュアル」がありふれたものになっていることも大きいでしょう。朝の電車でも見回してみればカッコいい系作業服を着た人が必ずいる。しかも同じメーカーだったり。こうなってくるとユーザーの脳裏に浮かんでくるのは次のひとことです。

「もっと他人と違うカッコがしたい!」

こうしてウェアというのは、細くなったかと思えば太くなってきたり、太くなったかと思えば細くなってきたり……を繰り返すのではないでしょうか。思い出されるのはイギリス服装学者、ジェイムズ・レイヴァーが唱えた「流行循環の法則」です。内容は次の通り。

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ある服装は、それが流行する
10年前は「下品」
5年前は「恥知らず」
1年前は「大胆」
現在は「スマート」
1年後は「みずぼらしい」
10年後は「醜悪」
20年後は「噴飯もの」
30年後は「滑稽」
50年後は「風変わり」
70年後は「魅力的」
100年後は「ロマンティック」
150年後は「美しい」
と世間で受け止められる。
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この説に従って、現在どんな服を着たらカッコいいか考えてみると、
・1980~2000年代ごろの流行スタイル →めちゃくちゃダサい!
・1940~70年代ごろの流行スタイル →風変わりだがアリ/これから流行る
ということになります。

た、たしかに去年ごろから見かける女性の極太パンツ(ガウチョパンツ呼ぶらしい)なんて、60年代に流行ったパンタロンに似てるような気も……。となると次は70年代風ファッションが流行したりするのでしょうか。今も売れているロングセラー作業服も「発売当時は、なんじゃこりゃあ? と言われた」という話をよく聞きますが、ちょうど「風変わり」と「魅力的」の境目だったのかもしれません。

ワークウェアにもカジュアルウェアの流行が数年遅れでやってくるもの。こういう「説」があることを頭のどこかで意識しておくといいかもしれません。

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今月も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。取材対応していただいたメーカーさんにも感謝です。ではまた次回、防寒特集でお会いしましょう!