まいど通信


        

●城に目覚める

まいど! 月刊まいど屋・編集長の奥野です。今回は、2019年新年号「城特集」をお送りしました。歴史ファンも、そうでない方も楽しんでいただけたでしょうか?

ひょっとしたら、いちばん楽しんだのは編集長かもしれません。史跡好きとして、城は昔から関心はあったものの、どうも城だけはとっつきにくかったんですよ。美術や建築がよくわからないから、見てもあまりピンくるものがない。わざわざチケットを買ったり、歩きにくい石階段を登ったり、脱いだ靴をレジ袋に入れて天守閣に入ったりするのも、正直かったるいなー、と。そんなこんなで「城」は、関心領域の中にある広大な空白地帯として十数年残っていました。今回の特集製作を通じて、ついにその部分の開拓が始まった感じです。

城郭の見方がわかった、とまではいかないものの、楽しみ方はちょっとわかってきた気がします。最大のヒントになったのは、「軍事施設としての機能を見る」という萩原さちこさんの言葉です。そうか、建築としてどう感じるかといった話じゃなくて、戦になったとき城の構造はどう役立つのか? この城は戦略上どんな意味を持っているのか? といったことをみればいいんだな、と。そんなふうに実用本位の視点で見れば、天守がカッコイイ! で終わるのではなく、城郭をさまざまな角度から見て楽しむことができます。その上で、屋根の様式や石垣の積み方、自然の地形の活かし方など、築城の知識を入れながら見ていけば、「城」はまさに一生ものの趣味となるでしょう。日本中にあるので、出張や旅行に絡めても楽しめます。

ちょっと失敗したと思ったのは、真冬に「屋外取材もの」をやってしまったことです。城は山や丘の上にあるし、言うまでもなく木造建築はめちゃくちゃ冷える。雪の彦根城では話を聞いているうちに足の感覚がなくなってくるわ、高取城の本丸では写真を撮っているうちに腹が痛くなってくるわで、なにかと寒さに苦しめられました。熱中症やマムシの被害などを避けるため、城めぐりは夏を避けた方がいいらしいですけれど、さすがに真冬にやるもんじゃないです……ってそういえば、今年の夏にも「真夏に屋外取材なんてやるんじゃなかった」という話を書いていましたね。人間はなぜ同じ過ちを繰り返すのでしょうか?

あ、そうそう、彦根城では「ひこにゃん」にも会えましたよ。せっかくだから2ショット写真を撮らせてもらおうと思って、案内された出没スポットに行くと、なんと建物の縁側にひこにゃんが出てくる「ステージショー」でした。さすがそのへんのゆるキャラとは格が違う。雨にもめげず歓声を上げるファンの前で(舞台は屋根付き)、付き人のお姉さんと一緒に〇×クイズなんかをひとしきり、30分ほどやってからもうひとりの付き人が支える巨大パラソルに入って、ひこにゃんは奥の門へと消えて行きました。完全にスターです。

彦根城スタッフのおっちゃんに感想を話すと、「えっ、ひこにゃん最後まで見たの! あんなの5分で飽きるでしょ?」といったナイスな反応をくれました。それでも、ひこにゃんが登場してから彦根城の観光客は倍増し、その後も高水準が続いているらしく、着ぐるみだけれどヤツの実力は認める、と言わんばかりのコメントは、なかなか味わい深いものがありました。

●作業服ファッションショー

話はさかのぼって11月末、たまたま立ち寄った緑地公園でナイスなイベントが開催されるのを知りました。溶接や左官といったさまざまな職人技術を体験できるお祭り「建築・土木技能体験フェア(技フェスタ)2018」です。しかも2日目には作業服のファッションショーを開催するとチラシにある。こ、これは、行くしかない!

当日、10時に会場に着くと意外と賑わっていました。子供だけじゃなく、大人も壁塗りや鳶職人の足場歩きなどの体験を楽しんでいます。ある空調設備会社のブースの前を通ったら、お姉さんから「せっかくだからダクトに入ってみませんか?」と、声をかけられました。なんというアブノーマルな会話でしょうか。

ひときわ人気を集めていたのは「鳶」ブースです。足場に登れるだけでなくヘルメットにフルハーネスを付けて記念撮影もできるので、ちびっ子に大ウケ。足場にはちょっと登って見たかったものの、子供が列を作っているのであきらめて舞台の前に陣取って作業服ファッションショーが始まるのを待つことにしました。

ジャジャーン♪ とテンション高く始まったファッションショー。寅壱でキメた鳶職人とか伝統装束の左官屋とか、たくさん出てくるんだろうなぁ、ワクワクしながら見ていたら……あれ、なんか違う? 新品のウェアを着たモデルや工業高校の生徒(ゲスト)が、次々と舞台に登って商品名を映し出したスクリーンの前でポーズをとっている。

そう、このショーは作業服メーカーの商品PRだったのです。よく考えれば、普通のファッションショーもブランドの新作を発表する場なんだから当たり前ですね。職人が長年使い込んだ「俺のワークウェア」を自慢する場に違いない、と思いこんでいたこちらがどうかしていました。

予想とは違うかたちだったものの、この企画は素晴らしいものでした。モデルを務める若い女性がハデハデ系ワークウェアに身を包んでノコギリをぷらぷらさせながら登場したり、ヤッケにヘルメット姿の学生さんが大きなコーキングガンを構えてポーズを取るのは非日常感たっぷり。また「本職」の人も、何人かモデルをやっていました。腰に下げたツール&フルハーネスという重装備で軽やかなステップを決めたのは、やはり本物の鳶です。

「あっ、空調風神服だ! 続いて雷神服もきたぁーーっ!」
「あのヘルメットはベンチレーションの形を見るに××製のヤツだな……」
「すげー! あの職人、全身ブラックラダーだよ!」

気が付けば、頭の中はこんなセリフで一杯に。月刊まいど屋の編集長になって1年、日に日に身も心もワークウェア文化に染まっていくのを感じています。

●ワークウェアにブーム到来?

そういえば、世間でもワークウェアにブームになっているようですね。先日、妻が大阪駅の近くを歩いていたら、テレビの取材クルーに呼び止められ、こんなことを聞かれたそうです。
「いま女性のワークマン愛用者を探しているんですけど、買物したりします?」
答はNOなので取材対象にはならず。で、帰宅するやいなやこんなことを言われました。
「あんたの仕事、流行を先取りしてたんだね!」
違うっつーの! いや、それでも作業服が市民権を得るという点では、このブームはいいことかもしれません。少なくとも「本職の人だけが着るもの」という作業服のイメージはずいぶん払拭されているのを感じます。

少々、気になるのは「安さ」ばかり強調されている点でしょうか。たしかに5000円くらいで透湿素材のレインウェアが手に入ったり、1000円でヤッケ(ウィンドブレーカー)が買えるのはうれしい。

それらに加えて言わせてほしいのは「高いワークウェアはもっといいよ」ということです。それなりの品質の安いウェアをあれこれ買うより「一番いいやつ」、いわゆるフラッグシップモデルをひとつ買ってみるといいよ、と。その方が、耐久性や機能性といった面でワークウェアの醍醐味が味わえるのに……。そんなふうに思うのです。

ワークウェアは安い、性能はそれなり、というイメージにならないように、これからも「月刊まいど屋」で発信していこう。そんなことを決意した年初なのでした。

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今月も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。また次回、2月号でお会いしましょう!