まいど通信
さて、今月の月刊まいど屋「ツナギ特集」はいかがでしたか。正直、取材する前は「そんなに書くことあるのかな」と思っていたのですが、実際にメーカーを訪れると、興味深い話が出るわ出るわ……。メーカーさんのおかげで「ツナギなんてどれも一緒でしょう?」なんて言わせない”ツナギ愛”にあふれたコンテンツになったと自負しております。
●「ツナギ」と「上下もの」
今回、まず驚いたのはツナギをメイン事業にしているメーカーがたくさんあることです。取材を始める前は、ツナギのことは「作業服のバリエーションのひとつ」程度の認識で、ワークウェアの会社がカタログの最後の方に載せているんだろうと思っていました。ところが、まさかツナギ専業のメーカーがこんなにあるとは! エスケープロダクトは完全にツナギ専業、あとの2社もほぼ専業、ということで、めでたく今月の「月刊まいど屋」はテキストに占めるツナギ成分の含有量で日本一となりました。
しかし、よく考えてみれば「ツナギ専業」は当然のことなのかもしれません。パッと見は同じような作業服でも「上下もの」と「ツナギ」では、まるっきり別物ですからね。野球とソフトボールくらい違うというか。いや、相撲とレスリングくらいと言うべきか。
言うまでもなく、ツナギの特色は「すべてがつながっている」点です。手を上に上げれば、足元の生地までが引っ張られる。しゃがんで頭を下に向けたら首元が詰まる。ベルトはないから、ウェアの重さはすべて肩にかかる。そうなると生地の自重による伸びも大きくなる。着るときはまず下半身を通して、よじるように残りの上半身を入れる。上だけ脱ぐことはなんとかできるけれど、下だけ脱ぐことはできない。
対して「上下もの作業服」の基本構造は、私たちがふだん着ている服と同じです。ズボンはベルトで固定して、上は羽織ってボタンを留める。暑いときは前をはだけさせることもできるし、トイレで上着を脱がずにズボンを下ろすこともできる。
では、質問です。
「上下もの」を作るノウハウで、ツナギを作ることはできるでしょうか?
たぶん無理だと思うんですよね。もちろん縫製技術があれば、一応は「ツナギ」になるでしょう。日曜大工くらいなら事足りるかもしれない。しかし、整備士の仕事着としてストレスを感じないようなものとなると、難しいのではないでしょうか。
つまり、プロの目にかなう高品質なツナギを作るには「ツナギ専用のノウハウ」が必要になる。その結果、ツナギのメーカーは自然と専業化していく、というわけです。
野球に勝つために必要なのは野球の練習であって、ソフトボールの練習をしてもあまり意味がありません。高品質なツナギを作りたいなら会社としてもツナギをメインにしたほうがいい、と。こういうことなんだと思います。
ラーメン屋でも、スープが何種類もあると、ちょっとガッカリしますよね。豚骨と鶏白湯のどちらも選べる店とか。同じように「ツナギ専業」はユーザーの支持を得るためにも重要なことと言えるでしょう。
●ツナギは「装束」なのか?
ところで、なぜ整備士などの仕事では、ツナギが必要なのでしょうか?
一般的には「機械油で汚れるから」「引っかかると危ないから」といわれています。クルマの整備は汚れるし、狭いところに潜り込むときにもベルトや裾がつっかえたら危険だ、と。
なるほど、だからツナギなのか。そう長年、思っていました。ところが取材中、ちょっと意外な話を聞いたのです。
「まあ正直、絶対ツナギじゃないとダメってこともないんですけどね」
え? どういうこと?
編集長はクルマを持ってないので知らなかったのですが、どうやら最近の整備工場ではリフトのような設備があって、自動車の下に入るようなシチュエーションはあまりない、とのこと。
言われてみれば、例のスケボーみたいなヤツに寝転んで、クルマの下に潜り込んでいる光景は、もはや映画でしか見ない気もする……。
つまり、今や汚れさえ気にしなければ、上下もの作業服でも自動車整備はできるのです。じゃあ、ツナギを着る理由って一体?
そのとき、ふと思い出したのが「鳶服」です。
「七分」や「超超ロング」に代表される鳶の特徴的なウェアは一種の「装束」なんだ、という話を過去にあるメーカーから聞いたことがあります。あの格好じゃないと高所作業ができないわけじゃない。実際、ストレッチ素材の作業ズボンで働く鳶の職人もいる。しかしやっぱりアレを着てないと「鳶」って感じがしないんだ、と。
ひょっとしたら、ツナギも同じようなものなのかもしれません。
ツナギじゃないと自動車整備ができないわけじゃない。しかし普通の上下もの作業服じゃあ、整備士って感じがしないんだ! というわけです。たしかに、ツナギ姿の方が、工場を訪ねるお客さんも安心するし、整備士自身も、「自分はプロのメカニックなんだ」という自負が持てる。仕事のモチベーションもアップするでしょう。
ポケットの位置やストレッチ素材といった機能性に加えて、デザインや雰囲気によって気分が上がることでも、仕事を左右する――。ワークウェアって本当におもしろいものですね。
ちなみに、酪農家がツナギを着るのは、「服の中に藁や草が入るとチクチクして不快だから」「牛に押されたときボタンやバックルがあると痛いから」といった理由だそうです。
意外とこういった「ファーマー系のツナギ」の方が、「装束」としての面より実用的な意味が大きいのかもしれません。
レポートで紹介したように、ツナギは着実に進化しています。街でも着られるカジュアルなデザインのものから、トイレで不自由しないツナギ、ストレッチ素材の細身ツナギなども各社がそろえてきています。
「月刊まいど屋」では、これからもツナギに注目していきたいと思います。
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というわけで、今月も最後までお付き合いいただきありがとうございました。次回、7月はいよいよ夏本番。もちろん特集は「空調服」です。どうぞご期待ください!