【エスケー・プロダクト】細部に宿る”ツナギ屋”の美学!image_maidoya3
「ツナギ」と聞いてなにを思い浮かべるだろう? 整備とか塗装とか、オイルやペンキやらで汚れる仕事のためのエプロンみたいなもんだよね、というのが一般的なイメージではないだろうか。――「喝」である。え、違うの? ホームセンターで1900円のヤツ売ってるやん、ツナギってそういうドロドロになる人のための消耗品でしょ? 喝! 喝喝喝だ、バカヤロー! 本物のツナギってのはそんなペラいもんじゃねぇ。質実剛健、ヘビーデューティーを地で行く「ワークウェアの中のワークウェア」なんだよ! ――と、いつのまにか脳内でツナギを讃える大演説が始まってしまったけれど、それもこれも今回、広島県福山市のメーカーを訪れたせいである。その名は「エスケー・プロダクト」。代表取締役の池本誠治さんは、一見するとワークウェア関係者らしくない都会的な雰囲気だが、ひとたび口を開けば「ツナギ専業メーカー」としての矜持ある言葉が次々とあふれ出すのだった。

エスケー・プロダクト
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開発も手がける池本誠治さん
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新作「GE-300」はデニム風ストレッチ
●「ツナギ専業」の理由とは?
 
   エスケー・プロダクトは1956年創業。縫製工場として他社ブランド作業服のOEM製造などを手がけるかたわら、1963年にツナギや作業服の生産を開始。1976年からは自社ブランドのツナギを展開し始めた。今でもカタログの後ろの方に載っている「ハンマー印」である。
 
   転機になったのは2006年、池本社長の就任だった。現社名に変更し、翌年には新ブランド「GRACE ENGINEER'S(GE)」をスタート。創業から半世紀を経て、街の縫製工場から「ツナギメーカー」へと生まれ変わった。現在はGEを主軸に、整備士や酪農家向けの中価格帯ツナギを製造している。
 
   それにしても、なぜ「ツナギ専業」なのだろう? 池本さんはその意図を次のように語る。
 
  「まず、先代の父のころから自社製品がツナギだけだったこと。あとは私自身がイタリアのファッションブランドが好きなのも大きいです。日本と違ってあちらでは、シャツだけ、ネクタイだけ、という具合に専業のアパレルメーカーがたくさんあるんです。そういう世界への憧れに加えて、『ツナギ専業』の方がユーザーに訴求できるはず、という考えもありました」
 
   そんな同社の商品の特色をひとことで言うなら「現代流のツナギ」だ。ファッション好きな社長みずから企画し、女性社員やショップの意見を聞きながら、じっくり時間をかけて「本当に欲しいツナギ」を作り上げていく。
 
  「GEの基本方針は、他社がやっていない現代的でオシャレなツナギ。ワーク用の機能や品質はそのままに、ナチュラル感のある生地やステッチワークなどでカジュアルな雰囲気を出しています。とくに当社製品のユーザーは整備士などのメカニック系のほか、酪農や農場といったファーマー系も多い。北海道では家族経営の酪農家も多いので、女性ウケも意識しないといけません。女性も抵抗なく着られるように、カジュアルダウンというか、ガッツリした『ワーク系』に見えないようなデザインを狙っています」
 
   そう、同社が作ろうとしているのは「こういうのが欲しかった!」と言われるようなツナギなのだ。
 
  ●「女性専用ツナギ」登場!
 
   なかでもエスケー・プロダクトらしいユニークな製品といえば、女性専用ツナギ(GE-200)だろう。この商品は酪農や農園で働く女性のリクエストを受けて開発。カジュアルでオシャレな雰囲気に加えて、肩にかかる重みや動きにくさを感じないよう、ストレッチ性のある軽量素材を使っている。
 
   しかし、周知のとおり女性とツナギのあいだにはとてつもなく大きな壁がある。そう「トイレ問題」である。男ですら着用をためらわせるツナギの宿命――。あのー、こっち方面の配慮というか、なにかいい方法は……、と言いかけると、池本さんは「待ってました」とばかりに語り始めた。
 
  「考えましたよ、どうやって上を脱がずにトイレができるか。そもそも、このモデルを作ろうと思ったきっかけは、北海道のショップを通じて届いた酪農家の女性の声だったんです。ずばり『トイレが大変だから、なんとかならないかしら』と。そこで、数々の試作を経て完成したのが、この『ヒップオープンファスナー』です」
 
   お尻の上にあるファスナーを水平に開くと、なんとツナギが上下にパックリ開く。ただし開口部は正面の縦ファスナーの部分で終わるため、完全に上下が分離することはない。ツナギのアイデンティティを失わずに弱点を克服している点でも、卓抜というしかない仕組みだ。
 
   これ女性用だけじゃなくメンズにも付けてくださいよ! おなかの調子悪いときなんかもこれなら安心じゃないですか! 思わず詰め寄る編集部に対して、池本さんはこう答えた。
 
  「うーん……、そういう声もよくいただくんですが、ウチとしてはやっぱり『女性専用モデル』がいいと思うんですよ。男性用モデルの『女性用サイズあり』『レディース対応シルエット』じゃなくて『女性専用』の方が商品としてトンがる。たしかにツナギを着る人がどれだけいるかと考えれば圧倒的に男性が多いけれど、女性用ツナギにはまだまだ潜在的な需要があります。たとえば、家族で酪農やってるところだと、妊婦さんがギリギリまで働くケースもある。じゃあマタニティ対応のツナギはどうかとか、いろいろ考えていますよ」
 
   ツナギといえば整備士のものとばかり思っていたが、こんな多様な展開があるとは……。「おみそれしました」と言うと、と池本さんは笑みを浮かべて答えた。
 
  「マネするの嫌いなんですよ、私は」
 
  ●生地マッチングに5年
 
   このような同社の商品開発において、キーワードと言えるのが「独自性」だ。
 
  「うちみたいに小さな会社は独自性のある商品を作っていかないと生き残れない。景気の浮き沈みより、本気で求められているものを作っていけるかどうかが何より大事だと思うのです。当社の品番は40余りと少ないのですが、それも一品一品、特徴あるものを作ることがユーザーへの訴求になると考えているから。そのせいで開発に何年もかかってしまうこともありますが、自分だったら欲しいな、と思うようなものしか出さないようにしています。そういう積み重ねが『あそこは斬新なメーカーだ』という評価につながっていくのかな、と考えています」
 
   開発といえば、気になるのは普通のワークウェアとの違いである。手から足まで生地がすべてつながっているのだから、作業服とは言っても「上下もの」とはまったく別物。ひとつひとつの商品の説明を聞いていると、そこにはやはりツナギというもの特有の難しさがあった。
 
  「ぜんぶつながってますからね。手を上げたりしゃがんだりしても突っ張り感がないように首から股に余裕を持たせたサイズ設計が大事です。さらに、生地の特性も把握しておかなくてはならない。生地の目の詰まり方でも伸びや緩みに差が出てくるので、型紙は使いまわせません。たとえば綿麻シャンブレーツナギ(GE-337・GE-335)の開発には、サイズバランスと綿麻生地とのマッチングに苦労した結果、5年もかかってしまいました。ベストなフィット感を探し出すには自分でも着てみるほか、レディースサイズは社員やショップの女性に着てもらったりして、試行錯誤を重ねるしかないですね」
 
  ●会社も商品も「常に新しく」
 
   このように、特色のある新商品づくりに挑む一方で、池本さんは既存製品のリニューアルにも目を向ける。
 
  「スマホの大きさに合わせてポケットを大きくしたりするのが代表ですが、はやり時代の変化とともにウェアに求められる機能も変わってきますからね。たとえロングセラーであったとしてもマイナーチェンジはしなくてはいけない。『変えないで』というユーザーさんもいるけれど、時代対応していかなければどんどん使いにくくなっていくし、商品としての鮮度もなくなっていく。また、新商品と違って既存商品のリニューアルの場合、品数が変わらないから在庫管理の面でも助かります。会社も商品も『常に新しく』がうちのモットーなんです」
 
   言ってしまえば、ツナギはワークウェアのなかでもニッチな分野だろう。ユーザーの数も使用される分野も限られているから、大きなビジネスにはなりそうもない。しかし、それでも「こういうのが欲しかった」と言ってもらうために一心にツナギを作り続けるメーカーがここにあるのだ。
 
   なんだか、天晴れな話じゃないか。
 
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トイレでも不自由しない女性専用ツナギ
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価格もリーズナブルな「GE-145」

    

「ツナギは暑い」とはもう言わせない! 軽さ&通気性を追究した夏用モデル

吸汗速乾性の薄手生地を使い、背中と脇と膝裏にメッシュをあしらった「とにかく涼しい」ツナギ。ウェアの内部にこもった熱や蒸れをどんどん発散し、肌触りもサラサラ。フィット感を調節できるウエスト内部のアジャスターに、動きやすさを考慮した股部分のクライミングカット、膝の3Dカットなど、機能もハイスペック。


ちょうどいい清涼感とシンプリティ。 リーズナブルな価格もうれしい夏用モデル

軽量で丈夫なだけでなく、通気性も高い平織り生地を使った夏用のツナギ。涼しさだけでなく、ナチュラルな印象の「杢調カラー」も高ポイント。装飾を省いたシンプルなデザインながら、ステッチワークとカッティングでしっかり魅せるところは、さすがの「グレイス・エンジニアーズ」。