まいど通信
まいど! 編集長の奥野です。今回は、総合タイトル「NUKU NUKUさせて♪」の元ネタがどこまで通じるのか不安に感じつつ、冬のお約束「防寒特集」をお届けしました。「これからの時季に備えておきたい」「今の格好じゃちょっと寒いな……」という貴方、インナーにアウター、手袋、小物類まで、この特集をチェックしておけば防寒ウェアの情報はバッチリですよ!
●「スーツ離れ」が意味すること
ところで、最近こんなニュースを目にしました。
《ビジネスマンが「スーツ離れ」で紳士服チェーンの苦戦続く》
クールビズやビジネスカジュアルの普及で、青山やAOKIといったスーツ量販大手の業績が悪化している、とのことです。要はみんな会社で働くためにスーツを買わず、ユニクロなんかで済ませるようになってきたわけですね。この「スーツ離れ」を一時的なトレンドと見るか、本格的な変革とみるかは意見の分かれるところでしょう。タイトな服の流行がひと段落するとだんだんゆったりしたシルエットが復権してくるように、そのうち「やっぱりスーツがいいね!」といったことになるとの見方もあります。
しかし、私は「もはやスーツ回帰はありえない」に一票を投じます。理由は三つです。
ひとつは、ごぞんじの通り日本の気候がスーツにまったく合わなくなってきていること。ひと昔前なら、春と秋の2カ月くらいはスーツでちょうどいいシーズンがあったけれど、今や5月や10月に半袖を着ていても汗をかく始末です。スーツを着るベストシーズンが3分の1くらいになってしまった感すらある。これではスーツ姿はあまりに不合理だし、数万円払って買うのも惜しくなってくるのが人情でしょう。
二つ目は、大手企業の変化です。私はフリーランスとして、いろんな会社や役所などに出入りしているのですが、ここ1、2年は「自分の方がきちんとした恰好をしている」というケースが増えてきました。たとえば、お堅い職場をアロハシャツなんかで訪問してしまうとさすがにバツが悪いので、いわゆる「ジャケパン」で行く――と、奥からジーンズにTシャツの担当者が出てきたりするのです。つまりビジカジを越えて完全にカジュアルになってきている。しかもけっこう大手企業が。何かにつけ「お上」になびく性格の日本人ですから、大手や役所がカジュアルになれば、もう中小事業所がスーツを着なくなるのも時間の問題です。スーツはそのうち営業マンのコスチュームになっていくでしょう。
さて、三つ目のスーツに戻れない理由は、みんながストレッチ素材を経験してしまったことです。人は易きに流れるもので、一度でも「ラク」を経験してしまったらもう戻れません。それを証明しているのが「スーツ離れ」とほぼ同時に起きている「ジーンズ離れ」でしょう。ビジカジからもっとカジュアルへ、という流れがあるなら、ジーンズが売れてもいいはずですが、そうはならない。アウトドアやスポーツ系ウェアでストレッチを経験した人は、もう綿100%のジーンズを履けなくなるからです。スーツに加えてジーンズも「ストレッチ以外は着たくない」という潜在的な声によって選ばれなくなっていくと思います。
というわけで、編集長もスーツを処分しました。もはや仮に首相官邸に呼びつけられてもジャケットさえ羽織っていれば問題ないと判断したからです。クローゼットにあるのは数枚のジャケットと喪服だけ。もう冬にスーツを着るときのためにわざわざフォーマルなコートを買ったり、ネクタイをちまちま収納したりしなくていいわけで、本当にいい時代になったものです。
●作業服の時代が来た!?
今後もスーツ姿は年々減っていき「ビジカジ」は一層カジュアル化に傾いていく――。これが時代の趨勢でしょう。
ただ、問題もあります。普通に街で売られているカジュアルウェアは、あまりにも耐久性がないのです。とくにファストファッションと呼ばれる格安ウェアは、はじめから「ワンシーズン使えればOK」という趣旨で作られているので、どんなに大事に扱っても1年くらいしか持たない。毎日、長時間にわたって身に着ける服としてはあまりにも不向きなのです。その点、スーツやジーンズは、2、3年くらい余裕で着続けることができたわけで、仕事服としてはなかなか優秀だったと言えます。
私もいま、某ファストファッションの店で買った激安ストレッチパンツ(混ポリウレタン素材)の劣化に悩んでいます。当初は「動きやすくてラクで最高!」と6本まとめて買ったものの、履くごとに違いがわかるくらいの勢いでストレッチがダメになってくる。着心地がゆるくなってくるのはまあ許せるのですが、膝やお尻のポケットだけがポッコリしているのはかなり不格好です。専門家によれば質の低い混ポリウレタンのウェアは使わずに保管していてもどんどん劣化していくとのことで、えっ? 未開封のストックがあと3本もあるんだけど……。
このような事情もあって、いま考えているのが「仕事服のユニフォーム化」です。作業服メーカーが作った高耐久のストレッチパンツに、メディカルや飲食サービスウェアなどの「きちんと感のあるカジュアルワークウェア」を合わせる。そうすれば、ちょうどいいフォーマル感に、可動性・収納力・耐久性といった機能を兼ね備えた” 究極の仕事服”ができるのではないか、と。ユニフォームなら何年経ってもまったく同じものが手に入るので、まとめ買いしてストックする必要もありません。
以上は「着る側」の考えですが、「作る側」の作業服メーカーも「仕事服」を前面に打ち出してみてはどうでしょう? 紳士服の店で長期間ずっと着られるスーツを買っていたワーカーにとって、すぐにヘタる普通のカジュアルウェアは力不足。だから、そういう人たちに向けて、作業服メーカーがガンガン着てガシガシ洗える「業務用カジュアルウェア」を提案するのです。ユーザーだけでなく企業にとっても、従業員が型崩れした安っぽい服を着ているより、頑丈なユニフォーム品質のウェアを身に着けている方がイメージアップになっていいでしょう。
そう、紳士服のパイを奪うのはワークウェアなのです!
と、大風呂敷を広げて令和元年の「月刊まいど屋」の締めとしましょう。今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。少し早いですが、よいお年を!