【藤和】真冬の現場も「シャレとんなぁ~」image_maidoya3
今回はじめて訪れたのは福山市内の藤和。福山駅でタクシーに乗り込み、「卸町12番の~」と目的地を告げると「ああ、団地の方か」と運転手は言った。なんでも昭和50年代に福山の繊維業が中心になって造られた卸売団地だという。市街地から住宅地、そして瀬戸内海の沿岸へとクルマが進むにつれて、産業団地ならではの殺風景な景観が広がってきた。運転手は団地の入り口でクルマを止めると、団地見取り図の看板をのぞき込む。「あっ、藤和あります。これです、ここの前まで行ってください!」。「はいよ」と、降ろされた場所は、藤和の本社ではなく物流センターだった。ちょうどトラックが出てくるところだったのでなにげなく眺めていると、見覚えのあるロゴが目に飛び込んできた――TSデザイン。あれ、藤和ってひょっとして……。と思いながら本社ビルの前に着くとそこにも「TSデザイン」が。そう、カッコいい作業服で有名なあの「TS」は藤和のブランドだったのだ!

藤和
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福山市卸町の藤和本社
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展示フロアの前には登録証がズラリ
●原点はインナーにあり
 
  「びっくりしたでしょ? お客さんからもよく言われますよ『いつ社名変えるの?』って。藤和よりTSデザインの方がはるかに有名になっちゃいましたからね~」
 
  こう語るのは藤和・ブランド戦略課の桒田展宏さん。長年営業を担当し、現在は商品の企画からブランドとしての総合プロデュースまで手がけるベテランで、"TSの仕掛人"である。同社の展示フロアには、DIYで組み立てたというラックやパネルに、ワークウェアとは思えない都会的でファッショナブルなウェアが並ぶ。内装や照明もバーのような雰囲気で、よくある展示スペースとは一線を画している。いったい何をどうすればこんな独特の世界観に行きつくのだろう? いや、そもそも「TS」とは何を意味するのか? さまざまな疑問が浮かんでくる。
 
  「ああ、それは単純な話ですよ。古臭くてカッコ悪い作業服のイメージを脱却して少しでもカッコいいものを、と。ちょうど今の社長が会社に入ってきたとき『自分が着たいような服を作ろう』と旗を振り始めたんです。その結果、2008年に新ブランドのTSデザインがスタートしました。TSに込めた意味は『TOP SHALETON』、西日本の人はわかると思うんですが、友達がちょっといい服とか着てたら『シャレとんなぁ~』って言うでしょ? 要するにTSとは、トップにシャレとる作業服というわけです」
 
  ブランドのコンセプトやネーミングは意外にも素朴。商品が放つ洗練されたイメージに少々とっつきにくさを感じていたが、この話を聞いて一気に親しみが増してきた。では次に、TSデザインはどのように成長してきたのかを聞いてみよう。
 
  「スタートはインナーからでした。今でも売れている『マッスルサポート』シリーズです。作業服のメーカーがインナーをやるのは前例がなかったし、本当に売れるのかなぁ? と思ってたんですが、予想外に人気が出た。そこでオールシーズン用だけでなく冬用・夏用とインナーを充実させていき、2011年からは作業服を出すようになりました。当時はまだベージュや灰色を上下同色で着るのが普通でしたから、ウチが上下色違いの作業服を提案すると『そげなもんユニフォームちゃうやないか』と言われたりもしましたよ。でも、誰もやらないことをやるのがTSデザインの信条ですから」
 
  ●新たな鳶スタイル「ニッカーズ」
 
  他社とはまるで違うカッコいいウェアを提案する――。この戦略を支えているのは、企画やデザインだけではない。桒田さんが「TSデザインの強み」と紹介するのは、展示フロアから出てすぐ、廊下の壁を埋め尽くすばかりに掲げられている書類の数々。作業服のメーカーではあまり見かけない光景である。
 
  「商標登録・意匠登録・実用新案、こういうのをTSデザインは可能な限り取っています。たとえば、作業服でおなじみの左腕ポケットが、ウチの場合は大き目で出し入れしやすいよう切れ込みを入れた『マルチスリーブポケット』になっている。こういうのもしっかり実用新案を取った上で展開しているんです。マネされただのなんだのという前に、自分の権利は自分で守るのが大事だ、と。こういった権利登録もブランド戦略の一環なんですよ」
 
  そんなわけで、同社のシリーズやモデル名には、ほとんど商標登録済みを意味するRマークが付いている。そして、このような独自性のある商品の中でも、特に野心作と呼べるのが2017年に始まった「KNICKER'S(ニッカーズ)」だろう。新しい鳶スタイルの提案として、今シーズンは新作のTS DELTAバルキーフリースジャケット(5236)、とベスト(5238)を発表している。
 
  文字で説明すると「フルハーネス対応の防寒アウター」と普通なのだが、パッと見た感じは、極めて独特。毛足の長いフリースはさながら毛皮で、見た目の暖かさだけでなくミュージシャンのステージ衣装のごときグラマラスな感覚すら覚える。まさに「伊達(外見を飾って人目を惹くこと)」を絵にかいたようなウェアで、「人と違うのを着たい!」という職人にはたまらないものがあるだろう。
 
  「裾をリブで絞ったストレッチ素材のカーゴパンツに、この防寒ジャケットを合わせれば冬の鳶スタイルの完成です。パンツはもちろん、上着もハーネスが当たる部分は強度の高い素材で補強してあるので、見た目よりはるかに耐久性があります。パンツに付けてあるクイックアクセスポケットもスマホの出し入れがしやすくて便利ですよ」
 
  商品企画にあたってはSNSなどネット上の声も参考にしているという。
 
  「インスタグラムなど、ユーザーがTSデザインのタグを付けて投稿してくれるんです。こういうのを作ってほしい、といった声がダイレクトに届くのはうれしいですね」
 
  ●機能面もハイスペック!
 
  鳶スタイル「ニッカーズ」が動きやすさを重視した軽防寒なら、重防寒モデルの代表としては、裏地にアルミコーティングを施した「メガヒート」シリーズがある。なかでも桒田さんのイチオシは、メガヒートフラッシュ防水防寒ジャケット(18236)。TSのなかでも最強クラスの防寒アウターだが、高い保温性や長時間の着用でも蒸れない透湿性だけでなく「デザイン面でもかなり遊んでみた」という。「ほら」と桒田さんが光を当てると……うわ、なんか柄が浮かんでる!
 
  「明るいところだと目立たないのですが、袖全体に反射プリントでカモフラ柄をあしらっています。胸元にも反射テープがあるし、収納できるフードは蛍光イエロー。夜間や夕暮れ時などの視認性の面でも、すごく安全性の高いアウターです。防寒だけでなく、防水・撥水機能も兼ね備えた全天候型なので、北海道や雪国で使うのもオススメですよ」
 
  人間の目は動くものを追うから、よく動かす腕やひらひらするフードを反射素材にするのは理にかなっている。一見するとルックス重視のカジュアルウェアに見えても、機能性を追い求める発想はさすがワークウェアメーカーだ。
 
  最後に、これからのTSデザインの方向性について聞いてみた。
 
  「TSといえば黒のイメージがありますが、最近はカラーも人気が出てきています。今年は令和に時代も変わり、心機一転ユニフォームを新調する機会も増えてくるので、スタイルやカラーの提案を含めて『こんなにカッコいいワークウェアがあるんですよ』ということをしっかり発信していきたいですね。」
 
  穏やかな笑顔の上に、新たな価値観を作り出す者としての自負が浮かんでいた。
 
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近年は黒以外の明るいカラーも人気
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新作のストレッチ防風ジャケット

    

「さすがTS」な都会的デザイン! 冬の新定番、ライトウォームシリーズ

軽量&ストレッチ性が売りの「ゼロ・グラヴィティ」防寒アウター。細身のシルエットに洗練のカラーがユーザーを作業服を超えた世界にいざなう。前ファスナーを完全に閉めても襟が邪魔にならない「グルーブネック」、腕から肩にかけてダイナミックに動きをサポートする「フレックスノーフォーク」など、TSの独自機能もテンコ盛り。


冷たい風をシャットアウト! 作業性バツグンの「ストレッチウインドブレーカー」

薄くて動きやすいのに「意外と暖かい」。防風に特化したストレッチ素材の軽防寒ウェア。シンプルな見た目だが、前ファスナーを完全に閉めても邪魔にならない「グルーブネック」(4526のみ)、左腕の「反射テープ付きマルチスリーブポケット」、脇部分のメッシュ仕様など、機能面は盛りだくさん。