まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。今回の4月号はまいど屋プロデュースの新店舗「プロコレ!」をテーマにお届けしました。4月といえば、入学や入社、進級に人事異動など、新生活がスタートするフレッシュな季節。気持ちを新たにして仕事に向かうために、作業服やシューズを一新してみるのも効果的ですよ。そんなリフレッシュのためのウェア選びは、ぜひまいど……いや、今回ばかりは「プロコレ!」で、いつもと一味違うショッピング体験を!

●ウクライナ侵攻

今月は、これに触れざるを得ませんね。残念なことに、欧州で侵略戦争が始まってしまいました。こんなこと書きたくないんですけど、本当にウンザリで、こうやってキーボードを叩いているときでも全身の力が抜けて吐き気がしてくる。二度の世界大戦から人間は何を学んだのでしょう。しかも、よりによって、なんでこんな何の大義もないバカげた戦争が始まってしまったのか? まさに「事実は小説より奇なり」であって、どんなミリタリー系フィクションよりも荒唐無稽です。もし脚本家がこんなシナリオを書いたら作家生命は終わり。いま世界が目にしているのは、そんなありえない暴挙なのです。

あの2月24日をもって、私たちが馴染んできた世界は壊れてしまいました。ただウラジミール・プーチン大統領を悪魔視するだけでは済まない。私たちは自らの文明を問い直さざるを得ないのです。1秒でも早い停戦を望むことはいうまでもありませんが、すでに大量の血が流れてしまっています。このひと月で生まれた憎悪と怨恨は、たとえ戦が終わったとしても、これから何十年も影を落とし、東欧だけでなく欧州、そして世界を不安定化させるでしょう。もはやプーチン大統領を国際刑事裁判所の法廷に立たせることができれば解決する問題ではないのです。

新型コロナのパンデミックで拡大した貧困や不平等に「戦争」というロケットブースターが搭載されてしまいました。テロリズムだけでなく軍拡競争や核拡散も、すでに絵空事ではありません。20世紀に続いて21世紀まで戦争の世紀にしてしまうのか。私たちはまさに瀬戸際にいます。めまいがするような状況ですが、気を確かに持ちつつ、必死で「最善手」を探していくしかありません。

ロシアが国際社会から排除されるのは当然のことであり、核兵器にも例えられるほどの経済制裁--最大級の非軍事オプションによって、いまのところロシア軍とNATOとの軍事衝突は回避されている。これは不幸中の幸いと言えるかもしれません。このままロシアで暮らす庶民の生活が苦しくなっていけば、プーチン大統領への支持や彼の権力基盤もだんだん揺らいで、ロシアは次第に民主的な体制へ移行する。そして世界は再び平和を取り戻す。こんなふうに考える人も多いでしょう。

しかし、私は逆の心配をしています。経済制裁によってロシア国民の生活が破壊された結果、新たな脅威が生まれるのではないか。ロシアはいっそう専制的な国家になり、総力を挙げて西側と対峙するファシズム的な体制に向かうのではないか、と。第一次世界大戦後、敗戦国ドイツは1320億金マルクという途方もない賠償金が課された影響で、高失業率とハイパーインフレに苦しみました。さらに1929年に世界恐慌が起き、国民生活はめちゃくちゃになる。そんな社会不安を追い風に支持を広げていったのが共産党、そしてナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)でした。このナチ党で台頭していったアドルフ・ヒトラーが世界に何をもたらしたか。いまさら説明するまでもないでしょう。

日本でも、昭和恐慌から世界恐慌まで不景気が続くなか、陸軍による社会改革への期待が高まり、軍部によるファッショ体制がじょじょに出来上がっていきます。満州事変とは、中央を無視して軍が勝手に国境を越える前代未聞の事態でした。そんな暴走の果てに始まった日中戦争では、陸軍の「対支一撃論」(強力な一撃を与えれば中国は屈服し、早期講和に持ち込める)は完全に裏目に出ました。終わらせられなくなった日中戦争の戦費は、国民生活にのしかかります。そこに各国の経済制裁が追い打ちをかけ、ますます出口がなくなっていく。

対米開戦を望んだのは軍部よりむしろ世論だとの見方があります。三度のメシにも困るような事態になれば、人は危険なギャンブルに一縷の望みを託してしまうのです。こうなったらイチかバチか、やってみよう! と。

私には、今のロシアがかつての日本に重なって見えます。大日本帝国は1931年、満州事変という極めてずさんな工作活動で中国の領土を侵略。五族協和の美名のもと傀儡政権を作り上げることで、反日感情の火に油を注ぎました。1937年に起きた偶発的な武力衝突、盧溝橋事件は「居留民の保護」を名目に軍を進めた結果、中国との全面戦争へと拡大していく。それでも当時の日本は戦争と認めず(これは米国からの輸入を継続するための方便でもありますが)、北支事変や支那事変と呼び続けました。軍部が「暴支膺懲」のスローガンで国民を焚き付けた結果、中国の蒋介石政権との講和は世論によっても阻まれ、死傷者数と戦費だけが積み上がっていきます。そして、私たちは日中戦争の泥沼のなかでもがくうちに国際社会で孤立し、破滅的な米英との戦争に突き進んでしまいました。

「ウクライナはロシアの一部」というプーチン大統領の理論は、大陸進出のスローガン「満蒙は日本の生命線」を思い起こさせます。ロシア国内で言われる「ウクライナへの特殊軍事作戦」にしてもそうです。通じるのは国内だけで、国際社会はまったく理解できない。繰り返せば繰り返すほど世界中を敵に回し、出口がなくなってしまうのです。

と、近現代史とからめて思いつくままに書いてきました。現時点でめざすことは、まずはロシアの侵略を止めて人道危機を回避し、ウクライナの領土と主権を守ることであるのは言うまでもありません。NATOの軍事介入はしないで済むならそれに越したことはありませんけれど、今回の経済制裁と武器援助のようなやり方は今後も正しい選択なのか、ウクライナでのさらなる人道危機を引き起こさないのか、正直いって頭を抱えるしかない。それでも人間として考えなくてはならないのです。

ただひとつ言えるのは「ウクライナを支持する」のひとことです。武器を持って駆けつけることもできず、大した寄付もできないちっぽけな存在ですが、武力による征服なんて絶対に認めたくない。侵略者は敗走するのがスジというものです。私は、血生臭い争いより平穏で豊かな暮らしを求める人間の意思を信じます。

●大相撲春場所

続いてスポーツの話題です(NHKキャスター風に)。

じつは編集長は大相撲ファンなのです。昔から時間が合えばNHKで見ていたのですが、コロナ禍のなか無観客で行われた2020年春場所を「珍しいから」と15日間テレビ観戦しているうちに完璧にハマってしまいました。

いまの相撲界は土俵上の熱戦もさることながら、世代交代が起きつつあるのも注目ポイント。簡単に言うと、横綱白鵬が引退した現在、だれが台頭してくるのかですね。ひとり横綱の照ノ富士は圧倒的な強さを誇るものの、膝の故障を抱えており、いつまで現役を続けられるかわからない。続く大関は二人いるものの、貴景勝は場所によって強さにムラがありケガでの休場が多い。もうひとりの正代は大関昇進以降、勝ち越しがやっとという体たらくです。

そして、現在開催中の春場所です。2021年はコロナ禍のため、3月場所は両国国技館で行われたので、大阪で相撲が見られるのは2年ぶり。いてもたってもいられずマス席を取ってしまいました。子供のころ家族サービスで連れて行ってもらって以来の、大相撲の生観戦です。チケットは12日目。優勝争いが加熱してくるころだろう、との見通しです。後半になってくるほど休場力士が増えてくるし、横綱が全勝を守ったりすると14日目で優勝が決まることもあるので、この日にしました。

今場所は、序盤から予想外の展開があいつぎました。まずカド番(負け越したら大関陥落)の大関・正代が初日から4連敗。同じくカド番の貴景勝も三日目から連敗。そして不調の横綱・照ノ富士が7日目からケガで休場しました。そんな大荒れのなか、12日目時点で優勝争いに絡みそうなのが新大関の御嶽海、新関脇の若隆景、そして元大関の高安、平幕の琴ノ若といった実力派の面々。横綱の不在を補って余りあるほどおもしろい流れです。

当日は、昼過ぎに大阪府立体育館入り。幕下上位から見ていたのですが、幕内になると土俵の雰囲気が一変しました。まず、体がでかい。おかげでだいぶ遠い席なのにバッチリ見えます。幕内力士は身長も体の厚みもケタ違いで、いきなり土俵が小さくなったような錯覚に囚われる。そして当たりもぜんぜん違う。恐ろしい初速の立ち会い、そしてぶつかり合う音はとても人間の体から出るものとは思えません。

さらに幕内上位になると、さらに立ち会いのスピードはアップし前さばきの駆け引きもハイレベルになっていく。手が前に出たことはわかるけれど、速すぎて何をやっているのかわからない。バシバシと音がするだけ。マンガの『ドラゴンボール』で、クリリンや天津飯が悟空の戦闘について「速すぎて目で追えない」みたいなことをよく言ってましたが、まさかそれをリアルで味わうことになるとは。上位になればなるほどまわしの攻防やおっつけ、いなしといった技術も高度化していくので「いまなにが起きた!」「なんかやったよな?」というのが多くなります。しかし会場にはモニターも何もないので、リプレイやスロー映像で確認することはできない。生観戦は迫力や雰囲気を味わうにはいいけれど、やはりスポーツとして相撲を見るならテレビがいちばんだと思いました。実況や解説は思っていたより大事です。

で、肝心の12日目の結果はというと、こちらも大満足でした。正代は大関対決で貴景勝を下して7勝目。速攻の寄り切りが決まって内容的にもパーフェクトでした。これで勝ち越しまであと1勝です。4連敗からここまで持ってこられたのは奇跡的といえるでしょう。こんなふうにファンをヒヤヒヤさせるのも正代の魅力といっていいのか。ただ現状はいくらなんでも弱すぎるので立ち直ってほしい。運動能力やセンスがピカイチなのはだれもが認めるところなので、再び「強い大関正代」を見せてくれるまで応援していくつもりです。

ずっと注目している小結・豊昇龍も難敵の阿武咲を破って6勝目。この人は横綱朝青龍の甥っ子で、顔もよく似ています。体がまだ細いものの、体幹の強さとスピード、多彩な技で相手を翻弄し、入門から4年で三役となりました。動きを見てもらえれば誰でもわかると思いますが、まあ天才です。さらに上の番付に行くのは間違いないでしょう。また上手さだけでなく負けん気の強さも相当なもの。劣勢になったときでも相手に必死に食らいついて逆転勝利する様は感動的で、フルコンタクト格闘技である相撲の醍醐味が詰まっています。ここまで負けず嫌いな力士はほかに思いつきません。天賦の才能と闘争心で、叔父さんに並ぶスーパースターになってほしいと思います。

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というわけで、今月も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回も『月刊まいど屋』にご期待ください!