【日進ゴム】スベらない話をしようじゃないかimage_maidoya3
気が付くと、もう5年以上たっていた。最後に特集を組んだのが2010年の10月号。はるか昔であるが、そのときの記憶はまだはっきりと残っている。現場でのスリップ事故を無くすために耐滑性能を飛躍的に高めて開発された「ハイパーVソール」の話は今思い出してもかなり衝撃的で、読者の皆さんからも大きな反響をいただいた。編集部内においても印象が非常に強く、少し言い訳をさせてもらえれば、そのためそんなに長い間特集から外れていたとは思わなかったのだ。大げさに言うつもりはないのだが、実際のところハイパーVは現在でも皆さんの熱い支持を受けている。いつまでたってもデビュー時の熱狂が衰えない稀有な例だ。そして今では出てくる新商品すべてがハイパーV搭載モデルになっているから、月刊まいど屋的な新味という意味では時間が2010年のまま止まってしまい、取材したばかりだという錯覚に陥っていたのである。
  幸運にも今回の安全靴特集で取材先を選定している作業中、編集部は自分たちの大きな誤りにようやく気が付いた。ちょうど日進ゴムの新商品が発表されたばかりで、まいど屋の仕入れ担当者とその商品について雑談をしたのがきっかけだった。恐らくそれがなければ、今度の機会もまた、特に注意を払うこともなく日進ゴムが持つ話題性を見逃していたことだろう。仕入れ担当者は「今度のモデルもかなり評判になりそうだね」と言った。「スペック的にウケがよさそうだよ。例によって、ハイパーVだし」。
  そうか、ハイパーVは今でも休むことなく旬のモデルを生み続けていたんだ。ならば今度の企画で一も二もなく紹介しなきゃいけないじゃない。かの担当者もたっぷり仕入れると言ってるし。それにきっと、読者の皆さんだって待ちくたびれちゃって少し怒り始めているよね。油の上でさえもお構いなしに最強の滑りにくさを発揮する、ハイパーVの情報がこの月刊まいど屋に一向に掲載されないのはなぜなんだって。
 

日進ゴム
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ハイパーVソールのパターンの違いを見せる原田次長
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Vパターンが階段形状になった粉用ハイパーVソール『5740』
取材に応じてくれたのは、営業部の青井課長と商品開発部の原田次長。ちなみに原田次長は10年かけてハイパーVを開発した、自称“世界一滑りにくい靴底”の生みの親である。「ハイパーVは進化していますよ。2004年にリリースして10年以上。一般用から作業用まで幅広くラインナップしてきましたが、近年では環境に合わせて“滑りにくさ”をコントロールする方向で進めています。厨房、機械工作、工事現場、ホテルなど、それぞれの環境に合った耐滑性で具体的なニーズに応えていくために」(原田次長)。
  ハイパーVを履いたことがある方ならわかると思うが、このソールの耐滑性はとにかくスゴイ。ここで、どのくらいスゴイのか少し触れておこう。
  ハイパーVを世に出す前のこと。第三者試験機関の耐滑性試験に出したところ、測定機器の故障としか考えられない異常値が出た。検査機関は機器を分解し、組み直して再測定したが、またもや同じ結果が出て仰天。学会で発表したいのでハイパーVを貸してほしいと申し出まであったという。そしてハイパーVの優れた性能は、その後、耐滑性のJIS基準ができるきっかけにもなった。
  さらに“世界一滑りにくい靴底”として『WBC』『ザ・ベストハウス123』『めざましテレビ』『ほこ×たて』など、数々のTV番組で取り上げられることに。“グリセリンを塗って滑りやすくしたダンプカーの荷台に人を立たせて傾斜させる” “氷の上を走る”“ウォータースライダーを逆走する”といったインパクトある実験を難なくこなし、その実力を視聴者に知らしめた。「『逃走中』の出演者も事故防止のためにハイパーVを履いていますし、『SASUKE』では、ファイナリスト10人のうち8人がハイパーVを履いていたこともありました。実際、第1、第2ステージでは履いている率が高いですよ」(青井課長)・・・と、こんな具合だ。
  このように超滑りにくいハイパーVがさらに進化した商品とは、いったいどんなものなのか。2014年春にデビューした粉用厨房シューズ『5740』(コナヨウ)から紹介いただこう。「製パン工場や製粉工場など粉を扱う現場は、清掃時でも水を使わないドライな環境が主流です。乾いた床に粉が降りかかった状態というのは、パチンコ玉をばら撒いた床の上を歩くのと同じで、ハイパーVをもってしても滑ります。粒子があるから滑る。ならば、粒子を取ってしまえばいい。歩きながらホコリ(粉)を除去するという発想ですね」(原田次長)。
  「掃除しながら歩く」をコンセプトにした『5740』は、見た目こそ厨房用ハイパーV『5000』と同じだが、ソールを見ると違いは明らか。Vパターンの1つ1つが階段状になっていて、表面に微細な凹凸が入っている。詳しいことは企業秘密だが、この形状によって歩くたびに粉を掻き、優れた耐滑性を発揮。パン粉、薄力粉、塩、グラニュー糖などに対し、従来の約2倍~4倍の滑りにくさとなっている。
  次の商品は、2015年12月にデビューしたハイパーVソール搭載のJIS規格安全靴『9000』。「実をいうと、JISの安全靴はハードルが高く、登録コストもかかるので、これまで他社さんにお任せして避けてきました。ですが、“なぜ革のハイパーVを作らないのか?”“ぜひ出してほしい”との声があまりにも多く、お客さまのご要望に引きずられるようにして商品化しました」(青井課長)。
  「鉄鋼とか自動車工場とか、機械工作向けです。こうした工場では床は油でギトギト、削り屑やホコリも出るし、水も使うのでソールの目詰まりが激しい。そのため、耐滑性を維持しつつ、Vパターンの密度を粗くするよう工夫しました」(原田次長)。
  さらに日進ゴムではJSAAにも挑戦し、『JIRIKI PRO 6300』をはじめ、ハイパーVソール搭載のJSAA A種安全スニーカーも数多くリリースし始めた。「2015年5月にJSAAに加盟し、4ヶ月かけてA種を取って新商品を出しました。その中で『6300』は地下足袋の履き心地を受け継いだ安全スニーカーで、80年以上前に初めて出した地下足袋ブランド『自力(JIRIKI)』を掲げ、原点に戻って真剣に作った商品です」(青井課長)。
  「特にインソールに工夫を凝らして地下足袋の履き心地に近づけています。素材は弾性に優れた発泡ゴム。EVAのようにヘタらないし、足馴染みがいいんですよ。表地は地下足袋の中底と同じで給水性が良く、肌にやさしい素材を使用し、そこに『ゆびストッパー』を付けて靴内で足がズレにくく踏ん張れるようにしています」(原田次長)。
  つま先は幅広ゆったり設計で樹脂先芯。アッパーはビニールレザークロスを使った3本ベルトのスポーティーなデザイン。そしてカラーはオレンジ、ブラックの2色で見た目もカッコいい。「デザインが日進ゴムっぽくないでしょ(笑)。これは例外で、ウチは元来が地下足袋屋だから、どの商品にもあえて泥臭さを残しているんです。若い方は別として、ワーク業界ではあまりにファッション性のあるものは受け入れないという方がいっぱいいる。トレンドを追求してカッコよくしても、お客さんが履いてくれません。だから、こだわるところはソールの性能とか、地下足袋仕様の中敷きとか、主にスペックの方ばかりになるんです」(原田次長)。
  「デザインは普通だねと言われるお客さまにも、履き心地は高く評価されています。1日8時間、週5日間履くための履き心地。硬い素材でも布靴に近い、足に添うような感覚を大切にしています。足袋屋のプライドがあるから、そこは徹底的にこだわる」(青井課長)。
  中途半端なものは出せないと、これまであまり新商品を発表しなかった日進ゴムだが、昨年はJIS、JSAA絡みもあり、怒涛の1年だったという。そして加速度がついた進化は今現在も続いており、さらにフィールドを広げる勢いなのだそうだ。「今年の秋ぐらいに『氷上ハイパー(仮称)』を出す予定です。寒冷地用ではなく、たまに雪が降ってパニックになるような地域の方たち向けにね。アイスバーンは溶けかかった時がもっと危険です。他社さんはクルミの殻や竹などを混ぜて耐滑性を出していますが、当社はゴムのみで挑戦します!」(原田次長)。
  ワーカーの皆さんが熱狂的に迎え入れてくれることからもわかる通り、滑りにくいというのはやっぱりいいものだ。取材を終えて、ますます楽しみになってきた今後のハイパーV。これからは心を入れ替え、ちょくちょくこの月刊まいど屋でもフォローしていこうと思う。知らないうちにスベってしまうことが多い本欄のクオリティーを上げるためにも。
 
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商品開発の原田次長(左)と営業の青山課長(右)
 

    

あのハイパーVを革製安全靴に初搭載!油を使う工場などに特におすすめのJIS規格安全靴

「なぜ、ハイパーVソールのJIS規格安全靴を作らないのか?」「ぜひ作ってほしい!」等々の声に応えて2015年12月にリリースしたS種安全靴。アッパーは耐久性を追求した厚手の革。ゆったり設計のつま先は鉄先芯入り。ソールは動摩擦係数0.4以上を誇る耐滑性に加え、耐油性をも備えたハイパーV。丈夫で衝撃吸収性に優れたミッドソールや疲れにくい3Dカップインソールも付いて履き心地快適。


屋根上の作業に最適!雨が降っても滑りにくく、焼けつくトタンの上でも足裏が熱くなりにくいワークシューズ

「ジワジワと来ています!」ハイパーVソールの滑りにくさと、膝をついた姿勢をなどでカカトが浮かないように足首でしっかりグリップできるベルト仕様、ミッドカットで見た目もカッコいい。アッパーは綿100%で足に添いやすく快適。先芯ナシ、非耐油。ホワイト、トリコロールの2色。