【藤和】理解しようとするな、ただ感じればいいimage_maidoya3
「まるで空気を揺らすかのような新しいモノ」。カタログの巻頭ページに小さな文字でそう記されている。暗い空に真っ白な雲が湧きあがったイメージ画像を背景に、ほとんど遠慮がちと言ってもいいほどのさり気なさだ。だが、しばらくこのページを眺めていると、私たちは次第に全く正反対の印象を抱くようになる。雲の輪郭ははっきりとせず、末端は乱気流のように渦を巻いているようにも見える。そもそも、これは雲なのか?ページのほぼ中央で暴力的に引きちぎられたその白い塊りは今や加速度を増し、次第に離れ離れになっていくようだ。この写真は何を暗示しているのだろう?そして彼らは、そこにどんな意味を込めたのだろう?
  写真から受ける印象は、その後に続くページを繰っていくたびに、何か予感めいたさざ波を伴ってさらに強まっていく。もしあなたに彼らについての知識がほとんどないのなら、あなたの頭の中には軽い不協和音のようなものが生じ、なんとかしてそれを排除して元の平安を取り戻そうとするだろう。あなたを落ち着かなくさせるもの、そしてそうであるがゆえにあなたのイマジネーションを刺激してやまないもの---それは胸騒ぎにも似た、とらえどころのない、漠然とした不安感である。
  もう少し個人的な視点を交えて書いてみよう。そこには多分にまいど屋が彼らに対して抱く先入観が含まれているが、彼らを除く業界全体が多かれ少なかれ同じ感想を持っているはずだから、あながち全く的外れな論評とも言い切れないと思う。そう、彼らがしようとしていることは、実際、「空気を揺らす」どころではない。ほとんどハリケーン並みの暴風だと言っていい。まいど屋は彼らが巻き起こすその強い風に翻弄され、どこへ向かって流されていくのかわからないスリルの中で目をあけているのが精一杯のままでいる。彼らには---業界の常識が通じないのだ。そして正にそのことが、まいど屋をひどく悩ませる。抽象派の絵画を誰もが納得できるような言葉で称賛するのが難しいのと同じくらい、常識が通じない相手を理解しようとすることほど難しいことはなく、さらにそれを第三者に向かって解説することなど、ほとんど不可能に近いことなのだ。例えば、彼らには作業着につきものの「シリーズ」という概念がないように思える。いや、あるにはあるのだろうが、それは業界とそれに親しんだ人間が共有する定義とは悲劇的なほどかけ離れたものである。Aでもあり、Bでもあるといった商品が山ほどある。またはAでもBでもCでもないようなものを作ってみたりする。彼らが新しい動きを見せるたび、まいど屋は今度の新商品が、果たして既存商品に対する一般的な意味でのシリーズ品であるのかどうか、またツリー構造に整然とジャンル分けされたまいど屋のホームページの一体どこに位置すべきなのか、延々と頭を悩ませることになるのだ。
  これからその藤和についてのレポートを読者の皆さんにお届けする。それは編集部にとって、かなり大きな挑戦である。まいど屋は、一人気ままに、業界の考え方などお構いなしに独自の方法論に従って、自由に大空を飛び回っている彼らを、我々業界の言葉で翻訳し直し、皆さんの前に提示して見せねばならない。難しいことではあるが、神経を研ぎ澄ませ、頭を柔軟にして時間をかけて読み解いていけば、決して不可能ではないだろう。藤和といえども、元々は業界という大きな塊の一部であったのだから。そしてそこに何かの強い力が作用し、乱気流を起こしながら二つに分かれてしまっただけなのだから。
 

藤和
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今シーズンのイチ押し、防風ストレッチワークジャケット『84626』
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メタリック感が斬新なストレッチウインドブレーカーシャツ『846325』
「AでもBでもCでもない・・・は、言い得て妙ですね」。取材に応じてくれたのは藤原専務。藤和の商品企画を主導し、独自の展開を推し進めている張本人である。「同素材・同デザインでブルゾン、パンツがあってシャツもあるというシリーズ展開と違って、当社の場合はコンセプトによるシリーズ分けです。軽くてストレッチが効いて動きやすいものは『無重力』。視認性の高いものは『フラッシュインパクト』というようにね。テーマに沿って単品を積み上げてきたシリーズだから、それら単品をいかに組み合わせて着るか、判断はユーザーにゆだねています」。
  そう、藤和のコレクションは自在に組み合わせが利く。着たいと思うものを選べる自由がある。でも、この自由さがやっかいなのだ。「組み合わせてコーディネートを提案するのが販売店さんの楽しみでもあると思うのですが、反面、定義としてハッキリした裏付けがない提案をすることに慣れていないお店からは、よくわからなくて売りにくいという声もあります。自分が考えたコーディネートを勧めてしまっていいんだろうかという怖さもあるでしょうし」。
  それでも、と藤原専務は語気を強める。「ウチは、お客さまが本当に欲しいと思っているものを提案しているつもりです。メーカー側の都合で、または業界の慣習に従って、お客さまが本音では必要としていないものを押し付けたくはないんです。だから徹底的に現場のニーズを考える。例えば『無重力』シリーズでは、単品のパンツ(無重力レギュラー)からスタートして、タフという丈夫なパンツを出して、冬用のあったかいのも欲しいよね、と中綿入を出した。単品で追っかけて、点から線へ、線から面へと広がってきた。他社は一話完結型。ウチはストーリーをつなげていき、幅と奥行きを出していく。それも個々のこだわり感が見えるアイテムで」。
  じゃ、そのこだわりはどんなものなのか?商品を見ていこう。まずは、軽くて動きやすい『無重力』シリーズから。「今シーズンのイチ押し、防風ストレッチワークジャケット『84626』です。ラミネートブロックフリースを使った完全防風で、ストレッチで動きやすく、裏は保温性の高いブロックフリースであったかい」。
  ブラックベースですっきりスリムなシルエット。フロント左右の縦ファスナーポケット、肘下にはプロテクターのように見えるエンボス加工の凹凸があり、一般アパレルのような都会的な洗練感がある。肩にはマルチスリーブポケット、背中と袖には反射プリントが施され、Lサイズで630gという軽さ。カラーはブラック×チャコールグレーとブラック×ブラックの2色と渋い。
  スタイリッシュなジャケットの次は、いぶし銀のようなメタリックシルバーが斬新なストレッチウインドブレーカージャケット『84526』。抑え目とはいえ、ギンギンのメタリック感が派手すぎて・・・というひとのために、色違いのブラックが用意されている。「大好評のVネックシャツ『846325』に続いて、今シーズンはフロントジップのジャケットを出しました。しなやかなラミネート素材が風をしっかり防ぎ、ストレッチが効いて非常に動きやすい。全部ラミネートにするとムレるので、ベンチレーションとして脇にニットを入れています」。
  ジャケット、シャツともにマルチスリーブポケット、袖・肩に反射テープ付き。Lサイズでジャケット290g、シャツ200gと超軽量で、まさに無重力の着心地。
  さて、次は視認性にこだわった『フラッシュインパクト』から、新商品のFLASH ロングスリーブジャケット『8716』を。「REFLEX加工の生地を使った、光反射するジャケットです。無地ベースでボディと袖の上半分をシャドーカモフラに切り替えているのですが、この部分がREFLEX生地なので、夜間にライトを浴びると、まったく違った表情に変身します」。
  普通に見てもなかなか粋なジャケットなのだが、これが暗がりで光を浴びると、光の中に迷彩柄が影を落として見事なまでにモード感あるウェアに変身する。カラーはブラックとシルバーグレーがあるが、シルバーのほうがよく光る。
  夜間の光による反射によって全く違うデザインに見えるというくくりでは、ウインターベスト『87228』も注目すべきアイテムだ。「バイクに乗る時なんかは、こっちの方がいいですよ。前と後ろの配色切り替えに反射生地を使っているので、ライトを浴びるとボディの3分の2が光ってかなりの視認性が得られます」。
  さて最後に、インナーの注目商品を2つばかり。当初の予定では今回の特集で特に取り上げるつもりはなかったのだが、藤原専務の熱い語りを聞いてしまった以上、触れないわけにはいかないだろう。
  1つめは、あったかインナーの新商品、ハイネックロングスリーブシャツ『84252』。「コンセプトは“見せるインナー”です。ウチのインナーの中で最厚素材を使っているので、トレーナー感覚で着ていただけます。秋口ならこの上に中綿ベストを着れば十分。1枚でも着られるよう、肩にマルチスリーブポケットを付けています」。
  2つめは、網のようなメッシュ素材が鎖帷子(くさりかたびら)のように見えるTS DRY『8050』(ノースリーブ)と『8055』(ショートスリーブ)。「これまでのインナーは、暖かい、涼しい、のどちらかを着地点として作られてきましたが、これは“ドライ”という今までにない切り口。ドライなんて冬は要らない、と思うかもしれませんが、ワーカーは冬でも作業中にたくさん汗をかきます。これを着れば汗をかいても素早くドライメッシュを透過してシャツなどに吸収されるため、肌がベタつきにくく、汗戻りも少なく、汗冷えも抑えられます」。
  藤和のアイテムは1点1点にしっかりとしたこだわりをもって作られている。実用衣料のドライメッシュインナーは別として、ほぼすべてが組み合わせ自由で着方にルールはないという。もちろん、読者の皆さんは作業服業界の慣例などに縛られる必要はないのだし、作り手が「組み合わせを楽しんでね!」と言っているのだから、あれこれ考えず乗っかってしまえばいい。
  コレクションにはあったかくて動きやすいパンツも揃っている。気に入ったトップスが見つかれば後はカンタン。以下のラインナップを参考に、自分らしい快適ウインターコーデを楽しんで選んでみよう。カテゴリー分けの悩みと苦しみなどは、まいど屋に任せっきりにして。
 
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反射生地を大胆に使った視認性抜群のベスト『87228』
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トレーナー感覚で着られる最厚手インナー『84252』

    

己の肉体を最強スペックにバージョンアップせよ!まるで自分の身体を改造するような感覚が味わえる機能性インナーシリーズ

ワークの世界にコンプレッションを持ち込んだ藤和が提案する秀逸インナーがタイプいろいろ勢揃い。最厚手のあったか素材マイクロフリースを使ったハイネックロングスリーブシャツ『84252』はトレーナー感覚で着こなせる1枚。また、冬場の汗冷え対策に、汗をたくさんかいてもドライな着心地のTS DRY『8050』『8055』は、オールシーズン活躍するアイテム。作業環境に合わせて選び分けたい。


ワークシーンにミドルレイヤーという新発想!アウターの下に着込んでもよし、軽防寒として気軽に羽織ってもよしのミドルレイヤーシリーズ

前身頃と背中上部に防風ラミネート、それ以外はマイクロフリースのジップシャツ『84235』は、手持ちのアウターの下に着ると暖かさ倍増。肌触りがよくて暖かい、起毛保温素材マイクロファーのジャケット『84236』、ベスト『84238』は、ウインドブレーカーと組み合わせれば最強のアウターに。ジャケット『84226』は中綿入りのソフトシェル素材でアウターとしても充分実力を発揮。