話を伺ったのは、営業部の大作治彦さん。もらった名刺には、社名の上に「高機能素材による、環境適応アパレルの製造販売」の物々しい一文が添えられている。名刺は主に初対面の人間に差し出すためのものだから、恐らくは最初の出会いで自分たちの卓越性を強烈に印象付けようとする作戦のようだ。それはメルセデスのショールームの受付が、初めて訪れる客に慇懃無礼な眼差しを向けてくるのと同じ効果を発揮する。この場にいるべき人間なのかどうか、客は自分で判断して的確な行動をとることを求められる。そう、慎み深い我々日本人はめったなことでは自分が秀でているなどとあからさまに言うことはないのだから、ジンナイの自社技術に対する確信度は普通でないということなのだ。「当社は間もなく創業60年ですが、業界では後発組。ですから、他社と違うこと、他社でやっていないことをやっていこうと独自の道を歩んでいます」。
  なるほどね。やはり彼らは確信犯だ。さらに念には念を入れるように、カタログでは「防水布を中心とした高機能素材を使った環境に適応する商品」と謳い、「快適でない環境の中での“安全”と“不快感の解消”を実現し、着る人を保護する」とも宣言している。そしてもちろん、この取材が行われている部屋のハンガーラックには、大手航空会社や地方自治体のネームが入ったウェアがびっしり掛けられていて、ジンナイの製品がその道のプロたちに選ばれていることをこれでもかと思い知らされる仕掛けになっている。
  しかし、編集部としてはここで怯んでしまうわけにはいかない。ざっくりとジンナイのスタンスと立ち位置をつかんだところで、そろりそろりと山頂を目指してアタックを開始しなければならない。まず攻略したいのは、話題の空調服を雨合羽にしてしまったという噂のあの商品だ。「防水仕様の空調ブルゾンです。レインウェアでの空調服は、今のところ当社のみ。2015年にスタートし、年々販売実績が伸びていますよ」。
  ナダレス空調ブルゾン『6097』は、気化熱で涼しく着られる空調服の機能をそのままに、防水・防汚機能を備えたPVC（ポリ塩化ビニル）で作ったもの。通常の空調服と違うのは、ファン部分を芯入りの硬いシェードで覆い、雨の浸入を防ぐようにしている所だ。「雨が入ると故障の原因になるので、強風時の横殴りの雨にも強い形状にしています。その点には特に気を使って、万全の設計にしました」。
  注目が集まっているのは目新しさもあるだろうが、実際のところ、ユーザーの声はどんなものだろう？「多少重いけど、着てみると涼しくていいね！と好評です。ムシ暑い季節に動き回る人には、合羽がサウナスーツのようになってしまうでしょう？それが完全に解消されたって喜んでいただけて。本当に、メーカー冥利に尽きますよね。お客さまの中には別売りのコットンクーラーベスト『1100』を併用して、より涼しく着用している人もいるようです。背と両脇下にコットンクーラーを入れて体を効果的に冷やすと、より体温が下がった状態で空調服を着られますから」。コットンクーラーは水を含ませるだけでもいいし、凍らせればなおさらいいという。
  面白いのは、雨天時だけでなく、晴れた日に着用する人まで出てきているということだ。例えば林業関係での導入ケース。大作さんによると、林業で樹木を伐採する際、木クズが作業服の繊維の中に入り込んで困っているひとが多いのだとか。その点、PVCなら木クズが付いても振り払えば落ちるし、水で洗い流すこともできる。そうした汚れにくさ、手入れの容易さから、その他、ドラム缶清掃などでも年間を通して着用する会社があるという。
  スペックについても詳しく聞いてみよう。「耐水圧は300kps以上。裏面にはポリエステルの平織りを使用し、肌当たりよく仕上げています。首の後ろからしっかり風が抜けるように衿まわりを広くし、ボタンで調節できるように設計しました。また、内袖付きの袖口には、ハトメを打って服内の空気が抜けるようにしています」。
  肩・袖・フードが紺色のツートンデザインで、身頃のカラーバリエは白、イエロー、オレンジ、ブルーの4色。胸と背に反射テープが施されている。
  さて、次はさらに難易度の高い注目商品、高視認性ナダレスーツ『8920』。消防吏員や鉄道保線員などプロユースのスペックを備えたレインスーツで、JIS T-8127高視認安全服クラス3適合品。2種類の再帰反射テープを使用し、どこからでも確実に視認できるようにしている。「2015年に出した商品で、主に鉄道、建築関係者向けに開発しました。そうした職場では、事故防止のため、安全基準が年々高くなってきていますからね」。
  使用の想定シーンを絞り込んだため、デザイン設計についてもシーンに特化した専門性を持たせたようだ。「そうした職場ではヘルメットの着用ケースが多いため、ヘルメットの上から被れる大型フードにしています。汚れやすいお腹まわり、ひざ下は、汚れが目立たないようにダークな紺色を配色。パンツは着脱しやすい前ファスナー開き、裾ファスナー付きです」。背中にはワイドに開くベンチレーション。胸にもベンチレーションを設け、動くたびに自然に換気。また、袖口は二重仕様で、グローブ着用時にも便利な内袖調整機能付き。さらに裾の後ろ部分は、前屈みになっても腰が濡れないように丈を長くしたカーブ仕様になっている。
  プロ向けだけあって、素材についても最高水準のものを採用したようだ。「耐水圧30,000mm、透湿度10,000ｇ/㎡・24hrですから、嵐の中でも水が浸み込むことがありませんし、ウェア内は常にドライに保たれます。PUコーティングしたポリエステル地の裏にトリコットを貼り合わせた三層構造で、ムレ感がほとんどない他に、動きやすくて強度が高いのも特徴です」。
  以上、高くそびえる二つの山へのアタックを通じ、ジンナイのウェアの特殊性を解説してきた。編集部としては読者の皆さんが落伍せずにここまでついてきてくれたことを願うばかりだが、ちょっとハードルが高すぎたかなと反省もしている。何とか頑張って読んできたけど、自分にはあまり関係ないかもなんて挫けそうになり始めた人が少しでもいるとしたら大変だ。そうならないように、最後にオマケ。「ウチはそこまでの機能は要らないんだよね」という皆さんのために、汎用性が高く、コスパの良さでも人気の商品、スプルーススーツ『9800』を紹介しておこう。「機能水準をできるだけ維持しながら価格を抑えた商品で、清掃業、宅配関係、電気・ガスの検針員、デイサービスなどの介護関係と、幅広い業種でお使いいただいています」。
  だが、汎用タイプだと言ってもそこはやはりジンナイ。仕様に対するこだわりは並大抵ではない。「上着は、水の浸入を防ぐ二重ヒヨクでファスナーは上下両開き。パンツは、座っても水が浸みこまないよう、後ろ股上は縫い目のないシームレス縫製にしています。裏は上下とも目の詰まったメッシュで着心地がいい」。
  素材はしっかりしたナイロン生地をPVC樹脂でコーティングした、耐水圧280kpsのハイグレード品。厚みがあるとはいえ、ナイロン素材なので軽くて着やすく、防水性が経年劣化しにくいのもポイント。幅広いユーザーに対応できるよう、カラーも6色揃えている。
  ちなみに、まいど屋でこの商品は5220円（税別）。一般的な売れ筋商品よりは高額だが、それでもやはりまいど屋は、大作さんがこの商品を「コスパがいい」と形容することに全面的に同意したい。コスパがいいとは、単なる安さと完全に同義ではなく、厳密には支払ったコストに対して得られるリターンが多いことを指す言葉であるからだ。つまり、5220円とは思えない、それ以上の見返りがあるということだ。大作さんも、こう念を押す。「レインウェアは、適切に使えば3～4年は着用いただけます。低機能の安価なものを何回も買うより、いいものを買って長く大事に使っていただきたいですね」。