「鳶服はこれからも出るけぇ!」(村上社長)
……と、このセリフにはややフィクションが入っている。取材メモには「今後も出し続ける」とあるから、趣旨は合っている。だが迂闊にも録音していなかったので、どうしてもあの流れるような備後弁を再現することができない。いや、それ以前に方言の魅力を文字だけで表すのは不可能だろう。
そんなわけで、今回の村上社長の発言は、すべて標準語バージョンでお送りする。村上社長のチャーミングな備後弁を表現できないのは残念だが、こっちの方が読みやすくていいでしょ?
今回、府中市の村上被服を訪問したのは9月初め。西日本はちょうど台風が抜け、秋を思わせる乾いた風が吹くなか、府中の駅から歴史ある街並みを歩いていくと村上被服が見えてきた。懐かしの木造校舎のような事務所の隣には縫製場。タイムスリップしたような光景にテンションが上がる。
取材に応じてくれたのは村上社長と営業部の小川重光さん。冒頭の言葉に象徴されるように、“鳶服愛”にあふれたインタビューとなった。
……と、このセリフにはややフィクションが入っている。取材メモには「今後も出し続ける」とあるから、趣旨は合っている。だが迂闊にも録音していなかったので、どうしてもあの流れるような備後弁を再現することができない。いや、それ以前に方言の魅力を文字だけで表すのは不可能だろう。
そんなわけで、今回の村上社長の発言は、すべて標準語バージョンでお送りする。村上社長のチャーミングな備後弁を表現できないのは残念だが、こっちの方が読みやすくていいでしょ?
今回、府中市の村上被服を訪問したのは9月初め。西日本はちょうど台風が抜け、秋を思わせる乾いた風が吹くなか、府中の駅から歴史ある街並みを歩いていくと村上被服が見えてきた。懐かしの木造校舎のような事務所の隣には縫製場。タイムスリップしたような光景にテンションが上がる。
取材に応じてくれたのは村上社長と営業部の小川重光さん。冒頭の言葉に象徴されるように、“鳶服愛”にあふれたインタビューとなった。
村上被服
絶好調の村上社長
フルハーネス対応モデル(6301・6304)着用の小川さん
●伝統に新機軸をプラス
現在、鳶のスタイルは大きな変革期にある。すでに西日本ではカジュアルワークウェアが一般的に。ずっと昔ながらの鳶服が好まれていた東日本でも、過度に幅広ロングなズボンは下火になってきている。大手ゼネコンからは「ガラが悪く見えるからダメ」「引っかかって危険」といった声もあるようだ。
鳶服ブランドがあいついで撤退していくような状況で、村上被服の「鳳皇」はどう生き残っていくのか? ブランド力があって単価の高い寅壱なら何とかなりそうだが、後発の鳳皇は……。
「そりゃあ鳶服のニーズは減っていくでしょう。それでもウチとしては、他社がやめても職人さんがいる限りは出し続けていきます。商品展開でいうと、サージなんかの伝統的なスタイルは残しつつ、ストレッチ素材やフルハーネス対応モデルなど、新しい提案をどんどんやっていきますよ」
村上社長の回答はシンプルだった。言われてみれば鳶衣装はもともと作業服の中でもニッチな分野。今後の市場はああで需要がどうこう、というのはちょっと難しく考えすぎなのかもしれない。
そんなスタンスを象徴するものとして、村上社長が紹介するのが新商品の「型番6301シャツ」「型番6304ジョッパーカーゴ」だ。鳳皇ブランドとして初めてストレッチサージを使ったフルハーネス対応モデル。昔から職人が好むサージ生地に今風のシルエット、2019年から必要になる保護具への対応など、伝統性と現代性を組み合わせた意欲作だ。
「これのカラーは濃紺だけ。弱気で1色じゃないよ、自信があるから1カラーなの。鳶の世界ではベテランは紺のサージを着るという伝統があって、そこを意識してます。これまでにもいろいろな生地で出してきたけれど、結局はサージが支持される。それに最近は海外製サージ生地も日本製に劣らないものが出てきているから、価格の割にいいものが提供できるようになってきています。つまり、サージなどの鳶服の伝統は大事にしつつ、スタイルは変えたりしてタイムリーな商品を出していこう、と。これがウチのやり方です」
ズボンの形は「ジョッパーズ」。シルエットはかつての超ロング系ではなく、伝統的な乗馬ズボンでもない。鳶服でおなじみの裾のボタンやファスナーもないから、普通のカジュアル衣料を作業着風にアレンジしたような印象。ちょっとゆったり目のジョガーパンツとも言えそうだ。
鳳皇のチャレンジ姿勢が表れた商品と言える。
●国産生地&国内縫製
新機軸としてストレッチ素材やフルハーネス対応がある一方で、伝統路線にはサージ素材がある。
村上被服の縫製場では、この日もたくさんの女性たちが作業中。「国産サージ生地の国内縫製」が売り文句の1200シリーズはここで生まれている。
今でもこんな昔ながらの縫製工場があるんだ……、と感慨に浸る編集部を見て、「備後地方でも鳶服が縫える所なんてもうウチぐらいじゃない?」と村上社長は笑みをこぼす。
この1200番台シリーズは、シャツと3タイプのズボン(江戸前超ロング・七分・乗馬ズボン)からなる。国内生地&国内縫製のため、鳳皇のラインナップの中でも価格は高めだが、そこも支持される要因になっているという。
「このシリーズのコンセプトは『高級』ではなく、『リーズナブルなのに高品質』という感じかな。海外製の方が安くはなるけれど、職人さんには安すぎる商品は支持されない。ハイクオリティのわりには安い、くらいがいいんです」
カラー展開も特別感がある。1色の七分、2色の乗馬ズボンに対して、「立衿シャツ(型番1261)」と「江戸前超ロング(型番1264)」は、なんと9色。このバリエーションの多さも人気の秘密となっている。
「職人さんには『他人と同じものを着たくない』という気持ちがあります。だから、一番人気は濃紺(ネイビー)だとしても、たくさんのカラーの中から選べるという“面白味”が大事。ユーザーからは『もっと他の色はないの?』という声もいただいているので、年末までにさらに新色を追加する予定です。自社縫製だからいろんな別注対応もできるので、リクエストにはどんどん応えていきたいですね」
定番の江戸前超ロングのスタイルに、あえて濃紺ではなくローズピンクやオリーブを選ぶ。しかも安っぽい生地ではなく国内サージの国内縫製で――。こんなふうに少しひねった仕事着選びができるのも鳳皇ならでは、というわけだ。
●「鳶がメインの会社」として
鳶服というと関東ばかりで他の地域はほとんど着ない、というイメージがあるが、鳳皇の場合はどうなのか。営業部の小川重光さんは、今の流行について次のように語る。
「基本的に、鳶装束は箱根の山を境として売れるものがガラッと変わるんです。たとえば商品名に『江戸前』と付いているズボンは裾口の3つボタンが特徴で、これは箱根より東でしか売れない。関西では裾はファスナーが主流です。また、よく関西では鳶ズボンのスタイルはほとんど見なくなった、と言われていますけど、大阪でも超超ロングがよく個人買いされたりしていて、意外と人気がある。さらに最近では、若い人が乗馬ズボンをカッコいい作業服として着たりするのも聞きますね。鳶ズボンの全体的な傾向としては細身になっていくものの、七分や乗馬ズボンのようなかたち自体はこれからも残っていくのではないでしょうか」
細身化していく鳶服の代表例として、小林さんはデニム風ストレッチ素材を採用した新作モデル「ブルゾン(型番3203)」「ジョッパーカーゴ(型番3204)」を挙げる。なるほど、普通にかっこいい。そのまま街にも行けそうだ。ズボンは脛から下を絞った足さばきのいい形ではあるものの、もはや鳶の雰囲気はほとんど感じられない。カジュアルワーキングの分野に入りそうなウェアだ。
すかさず村上社長が付け加える。
「結局は、伝統・カジュアル・新機能という三路線をどう進めていくかだね。この3203・3204のようなカジュアル路線の商品もすごく売れているけれど、うちとしては鳶の伝統的なスタイルも大事にしていきたい。とくに当社は鳳皇ブランドを初めて以来、作業服から鳶衣料にシフトし、今はもう鳶がメインの会社ですから。わざわざ展示会に来て乗馬ズボンへの意見を言ってくれる庭師さんとか、そういう熱心なユーザーの期待に応えて行かなくちゃ」
たしかに、単なるカジュアル系ワークウェアなら「別に鳳皇じゃなくてもいい」という話になるだろう。今やどんなメーカーでも細身のカッコいいデザインの作業服を出している。ストレッチ素材や速乾といった機能性モデルもすでにありふれたもの。それに高級路線の鳶服なら寅壱がしっかり地位を固めている。
と、そんな状況で存在感を発揮するには、
・ストレッチサージを使ったフルハーネス対応モデル(型番6301・6304)
・カラーバリエーション豊富な国内生地&国内縫製の鳶服(型番1200台シリーズ)
・乗馬ズボンのテイストを採り入れたカジュアル系ワークウェア(型番3203・3204)
といった具合に「痒いところに手が届く商品」でなくてはならないのだ。
時代の変化とともに着る人が少なくなり、市場は縮小の一途。「鳶服はもう死んだ」という人もいる。ところが、そんな死中にこそ活路を見出すのが「鳳皇」というわけだ。ちょうど不死鳥・フェニックスのように……。
「とにかく職人さんに気持ちよく働いてもらいたい。それだけを考えてこれからも鳶装束を作り続けていきますよ。新作もどんどん出すから安心してください。鳳皇は鳶を応援するブランドです、と。……これ、しっかり書いといてよ」
今後の鳶装束シーンをかき回すのは「鳳皇」かもしれない。大いに期待しようではないか!
現在、鳶のスタイルは大きな変革期にある。すでに西日本ではカジュアルワークウェアが一般的に。ずっと昔ながらの鳶服が好まれていた東日本でも、過度に幅広ロングなズボンは下火になってきている。大手ゼネコンからは「ガラが悪く見えるからダメ」「引っかかって危険」といった声もあるようだ。
鳶服ブランドがあいついで撤退していくような状況で、村上被服の「鳳皇」はどう生き残っていくのか? ブランド力があって単価の高い寅壱なら何とかなりそうだが、後発の鳳皇は……。
「そりゃあ鳶服のニーズは減っていくでしょう。それでもウチとしては、他社がやめても職人さんがいる限りは出し続けていきます。商品展開でいうと、サージなんかの伝統的なスタイルは残しつつ、ストレッチ素材やフルハーネス対応モデルなど、新しい提案をどんどんやっていきますよ」
村上社長の回答はシンプルだった。言われてみれば鳶衣装はもともと作業服の中でもニッチな分野。今後の市場はああで需要がどうこう、というのはちょっと難しく考えすぎなのかもしれない。
そんなスタンスを象徴するものとして、村上社長が紹介するのが新商品の「型番6301シャツ」「型番6304ジョッパーカーゴ」だ。鳳皇ブランドとして初めてストレッチサージを使ったフルハーネス対応モデル。昔から職人が好むサージ生地に今風のシルエット、2019年から必要になる保護具への対応など、伝統性と現代性を組み合わせた意欲作だ。
「これのカラーは濃紺だけ。弱気で1色じゃないよ、自信があるから1カラーなの。鳶の世界ではベテランは紺のサージを着るという伝統があって、そこを意識してます。これまでにもいろいろな生地で出してきたけれど、結局はサージが支持される。それに最近は海外製サージ生地も日本製に劣らないものが出てきているから、価格の割にいいものが提供できるようになってきています。つまり、サージなどの鳶服の伝統は大事にしつつ、スタイルは変えたりしてタイムリーな商品を出していこう、と。これがウチのやり方です」
ズボンの形は「ジョッパーズ」。シルエットはかつての超ロング系ではなく、伝統的な乗馬ズボンでもない。鳶服でおなじみの裾のボタンやファスナーもないから、普通のカジュアル衣料を作業着風にアレンジしたような印象。ちょっとゆったり目のジョガーパンツとも言えそうだ。
鳳皇のチャレンジ姿勢が表れた商品と言える。
●国産生地&国内縫製
新機軸としてストレッチ素材やフルハーネス対応がある一方で、伝統路線にはサージ素材がある。
村上被服の縫製場では、この日もたくさんの女性たちが作業中。「国産サージ生地の国内縫製」が売り文句の1200シリーズはここで生まれている。
今でもこんな昔ながらの縫製工場があるんだ……、と感慨に浸る編集部を見て、「備後地方でも鳶服が縫える所なんてもうウチぐらいじゃない?」と村上社長は笑みをこぼす。
この1200番台シリーズは、シャツと3タイプのズボン(江戸前超ロング・七分・乗馬ズボン)からなる。国内生地&国内縫製のため、鳳皇のラインナップの中でも価格は高めだが、そこも支持される要因になっているという。
「このシリーズのコンセプトは『高級』ではなく、『リーズナブルなのに高品質』という感じかな。海外製の方が安くはなるけれど、職人さんには安すぎる商品は支持されない。ハイクオリティのわりには安い、くらいがいいんです」
カラー展開も特別感がある。1色の七分、2色の乗馬ズボンに対して、「立衿シャツ(型番1261)」と「江戸前超ロング(型番1264)」は、なんと9色。このバリエーションの多さも人気の秘密となっている。
「職人さんには『他人と同じものを着たくない』という気持ちがあります。だから、一番人気は濃紺(ネイビー)だとしても、たくさんのカラーの中から選べるという“面白味”が大事。ユーザーからは『もっと他の色はないの?』という声もいただいているので、年末までにさらに新色を追加する予定です。自社縫製だからいろんな別注対応もできるので、リクエストにはどんどん応えていきたいですね」
定番の江戸前超ロングのスタイルに、あえて濃紺ではなくローズピンクやオリーブを選ぶ。しかも安っぽい生地ではなく国内サージの国内縫製で――。こんなふうに少しひねった仕事着選びができるのも鳳皇ならでは、というわけだ。
●「鳶がメインの会社」として
鳶服というと関東ばかりで他の地域はほとんど着ない、というイメージがあるが、鳳皇の場合はどうなのか。営業部の小川重光さんは、今の流行について次のように語る。
「基本的に、鳶装束は箱根の山を境として売れるものがガラッと変わるんです。たとえば商品名に『江戸前』と付いているズボンは裾口の3つボタンが特徴で、これは箱根より東でしか売れない。関西では裾はファスナーが主流です。また、よく関西では鳶ズボンのスタイルはほとんど見なくなった、と言われていますけど、大阪でも超超ロングがよく個人買いされたりしていて、意外と人気がある。さらに最近では、若い人が乗馬ズボンをカッコいい作業服として着たりするのも聞きますね。鳶ズボンの全体的な傾向としては細身になっていくものの、七分や乗馬ズボンのようなかたち自体はこれからも残っていくのではないでしょうか」
細身化していく鳶服の代表例として、小林さんはデニム風ストレッチ素材を採用した新作モデル「ブルゾン(型番3203)」「ジョッパーカーゴ(型番3204)」を挙げる。なるほど、普通にかっこいい。そのまま街にも行けそうだ。ズボンは脛から下を絞った足さばきのいい形ではあるものの、もはや鳶の雰囲気はほとんど感じられない。カジュアルワーキングの分野に入りそうなウェアだ。
すかさず村上社長が付け加える。
「結局は、伝統・カジュアル・新機能という三路線をどう進めていくかだね。この3203・3204のようなカジュアル路線の商品もすごく売れているけれど、うちとしては鳶の伝統的なスタイルも大事にしていきたい。とくに当社は鳳皇ブランドを初めて以来、作業服から鳶衣料にシフトし、今はもう鳶がメインの会社ですから。わざわざ展示会に来て乗馬ズボンへの意見を言ってくれる庭師さんとか、そういう熱心なユーザーの期待に応えて行かなくちゃ」
たしかに、単なるカジュアル系ワークウェアなら「別に鳳皇じゃなくてもいい」という話になるだろう。今やどんなメーカーでも細身のカッコいいデザインの作業服を出している。ストレッチ素材や速乾といった機能性モデルもすでにありふれたもの。それに高級路線の鳶服なら寅壱がしっかり地位を固めている。
と、そんな状況で存在感を発揮するには、
・ストレッチサージを使ったフルハーネス対応モデル(型番6301・6304)
・カラーバリエーション豊富な国内生地&国内縫製の鳶服(型番1200台シリーズ)
・乗馬ズボンのテイストを採り入れたカジュアル系ワークウェア(型番3203・3204)
といった具合に「痒いところに手が届く商品」でなくてはならないのだ。
時代の変化とともに着る人が少なくなり、市場は縮小の一途。「鳶服はもう死んだ」という人もいる。ところが、そんな死中にこそ活路を見出すのが「鳳皇」というわけだ。ちょうど不死鳥・フェニックスのように……。
「とにかく職人さんに気持ちよく働いてもらいたい。それだけを考えてこれからも鳶装束を作り続けていきますよ。新作もどんどん出すから安心してください。鳳皇は鳶を応援するブランドです、と。……これ、しっかり書いといてよ」
今後の鳶装束シーンをかき回すのは「鳳皇」かもしれない。大いに期待しようではないか!
国内縫製場は今や貴重だ
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2019年からの新ルール対応! ストレッチ素材のフルハーネス対応モデル 鳶服の定番、サージ素材にストレッチ機能をプラス。さらに両胸の縦型ポケットなどで2019年から義務化されるフルハーネスに対応している。ジョッパーカーゴの膝部分とシャツの襟には刺子仕上げを施し、強度アップ。立ち襟スタイルもキマる。YKKのファスナー、ポケットなどのリベット補強など、丈夫さも魅力。カラーはネイビーのみ。 |
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国内生地&国内縫製! 伝統を愛する貴方に贈る純日本製シリーズ 国産サージ生地を府中市の村上被服で縫製した純国産モデル。ハイクオリティなのに低価格。定番の立襟スタイルに加えて裾をボタンで留める江戸前タイプ、伝統の七分、細身で人気の乗馬ズボンなど、豊富なラインナップから選択可能。立襟シャツと江戸前超ロングのカラーバリエーションはなんと各9色。 |
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