【特集2】【証言記録】そのとき、現場では……image_maidoya3
出荷場での作業は過酷を極めながらも、段ボール箱は減るどころかどんどん積み上がっていく。一方、先月の注文残を必死でさばき続けるオフィスでは、苦情と問い合わせの電話が延々と鳴り続けている……。これが5月初旬の連休明けから6月の半ば過ぎまで、まいど屋の現場が置かれていた状況だ。ショップで働いた経験がなくても、やり残した仕事を残業や休日出勤で処理するのはまだ理解できるだろう。だが、死にもの狂いで働いても、逆に仕事がたまっていくというのはあまりにも絶望的である。では、この終わりの見えない異常事態に、現場はどのように立ち向かったのか? 編集部は、出荷やオペレーションなどの担当者に当時の話を聞こうと試みた。誰もがベトナム帰還兵のごとく言葉少なにかぶりを振るなか、一部のスタッフが貴重な証言を語ってくれた。そこで第2部では、現場スタッフの言葉を中心に、今回の危機を振り返る。

特集2
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恐怖を語る出荷スタッフ
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新スペースで効率はアップした
●永遠に終わらない?
 
  「ありえない……」
 
  今回の危機を振り返るとき、スタッフの多くが口にするのがこの言葉だ。過酷な勤務への嘆きでも上層部への恨みでもないところにかえって恐怖を感じる。長時間勤務と休日出勤で疲労は蓄積。それでも同僚に負担がおよぶことを考えれば、自分だけ休むわけにはいかない。危機の最中は火事場の馬鹿力でなんとか切り抜けたものの、今になって体調を崩す人もいるという。
 
  当然、現場の雰囲気は悪くなる。スタッフは不満の声を上げるものの、会社も存続の危機がかかっており話を聞けるような状態ではない。「本当に悪いと思ったけど、正直どうしようもなかった……」(田中氏)というありさまだった。
 
  ある出荷スタッフは、先が見通せないことがいちばん辛かったと語る。
 
  「まいど屋の出荷チームでは、基本的にメーカーから届いた商品はすべて、その日のうちにお客さんに発送しているんです。ところが商品は出荷を上回るペースで大量に届くから、段ボール箱がどんどんたまっていく。いくら毎日、必死で出荷作業をしても、終わりが見えない。家でゆっくりするヒマもないし、お腹は減るし……、こんな状況がいつまで続くんだろう、ひょっとして永遠に終わらないんじゃないかな、と」
 
  そんな目に遭ったにもかかわらず、出荷担当者の口ぶりは明るい。まいど屋スタッフはこの危機を乗り越えることで、結束を強めたのだろうか。事態が収束した今なら「プロジェクトX」のような、困難に立ち向かう気高い人間ドラマが描けるのかもしれない……。そんな期待を持ちつつオフィスを訪ねると、あるオペレーターが苦々しい表情を浮かべて言った。
 
  「え、振り返っての感想? ……みんなよく耐えられたな、と。もう思い出したくもない」
 
  ●迫りくる"決壊"
 
  メーカー発注担当のTさんは、第1部のドキュメントでも触れたとおり、今回の危機を最初に察知したキーパーソンだ。ネットショップの開業以前からまいど屋を支えてきたベテランだが、今回ばかりは恐怖を覚えたという。
 
  「連休が明けて何日も経つのに、まだ4月分の注文がさばき終わらない。それどころか、注文は毎日雪だるま式にたまっていくんです。こんなことは初めてでした。みんな必死にもがいているんだけど、前に進めない。このままだと一体どうなっちゃうんだろう……って、毎日、怖くて仕方なかった。みんな状況を何とか変えたいんだけど、どうにもできない。オフィスの雰囲気も殺気立っていました」
 
  会社全体が非常事態となる一方、Tさんだけが抱える苦悩もあった。出荷チームからの「ストップ要請」である。メーカーから届く商品で出荷場がパンク寸前となったため、いったんメーカーへの発注をストップしてほしい、とのこと。すでにあらゆるスペースに段ボール箱が積み上がり、荷捌きもままならなくなっている。なんとか立て直す時間が欲しい――。出荷スタッフの悲鳴にも似た叫びだった。しかし、メーカー発注をストップするのは「ユーザーからの注文を放置する」ということを意味する。Tさんはオペレーターと出荷チームの間で板挟みとなった。
 
  「結局、そのままだと届いた商品が出荷場に入りきらないので、メーカーへの注文を1週間ストップしました。お客さんからすれば、まいど屋はオーダーしても無反応。メーカーも、まいど屋に何があったんだろう? という感じですね。オペレーターは、お客さんに何日ごろの商品発送になるか連絡しないといけないから、『ストップされては困る』。一方で、出荷場はもう物理的に限界だから『ストップしてくれ』。本当に辛い判断でした」
 
  新たな物流スペースが出来上がる5月中旬ごろまで、以上のように、担当者がギリギリの奮闘で現場を支えていたのである。目前に迫る物流オーバーフローによる"決壊"を防ぐために。
 
  ●混乱する物流現場
 
  ここで、まいど屋の出荷作業について説明しておこう。
 
  ユーザーからの注文は、「△△社の××ブルゾンを30着」といったものではなく、たいていは複数のメーカーのいろいろな商品の組み合わせになっている。そのため、まいど屋の出荷場では、各メーカーから取り寄せた商品を発送先別にまとめて箱詰めしなければならない。第1部のドキュメントでも触れた「ピッキング」の作業だ。この行程があるため、発送に至るまでには、ユーザーが求める商品がすべてそろうまでの「待機時間」がある。
 
  さらにネーム入れなどの商品加工がオーダーされている場合、上下もの作業服の上着だけが加工場に送られる、といった複雑な状況も生じる。そのため、出荷場にはスタッフが動き回ることができるスペースが必要だし、スタッフには注文の処理状況を把握し、多種多様な商品を効率的にさばく技量が求められるのだ。ところが、今回の危機ではそんな処理フローまで機能不全に陥った。
 
  「恥ずかしい話ですが、商品の紛失も起きてしまいました。ブルゾンがネーム加工を終えて帰ってきたら、セットのズボンが倉庫の中で行方不明になっていたりとか。ものが消えるわけはないんですが、オーバーフローしている状態ではとても探し出せないから、再びメーカーに発注するしかない。もうめちゃくちゃです。普通ならミーティングを開いて原因究明や対策をしなければいけないケースですけど、今回ばかりは出荷の手を止めている時間はなかった」(田中氏)
 
  出荷スタッフは、混乱する現場の様子を次のように語る。
 
  「通常の忙しい日の2倍以上の荷物が、毎日来るんです。やってもやっても商品がハケないから、段ボール箱が積み重なってくる。その山からリクエストされている商品を探し出して出荷しなきゃいけないんですけど、多すぎて探せない。ペースを上げてどんどん出荷していかなくちゃだめなのに、作業効率はどんどん落ちてくるという……」
 
  ●エンジニアも出荷作業
 
  このような五里霧中で進む出荷作業に、希望の光が見えてきたのは、5月末、突貫工事で整備した新たな物流施設の稼働、そして荷捌きスペースに余裕が生まれたことで可能になったスタッフの大量投入だった。
 
  非常事態ということで、ふだんは出荷に関わっていないスタッフまで動員された。ウェブ担当のO氏もそのひとり。「食べコレ」「事務コレ」など、まいど屋の兄弟ショップを担当し、ページ作成からコンテンツのアップ、商品バナーの差し替えなどを行っているエンジニアだ。
 
  「いやー、呼び出されたときは驚きしかなかったですよ。連休が明けてすぐならまだわかけるけれど、6月にもなって一体なんで? と。事情を聴いてからすぐ出荷場に行って、主に返品処理や在庫確認を手伝いました。普段はデスクワークなので、倉庫で一日中、立ち仕事をするのはしんどくて死ぬかと思いましたけど……」
 
  危機を乗り越えるため、朝から晩までハードワークに追われたのは他のスタッフと同じだが、Oさんの場合は、出荷場での作業は有意義な体験でもあったという。
 
  「私はオフィスウェアや飲食系のウェアを担当しているので、現物を見るのもそっち系のワークウェアだけ。まいど屋がメインに扱っているような作業服に触れる体験は普段なかなかないので、けっこう新鮮でした。『あ、これが人気のバートルか、パッケージもカッコいいな』とかいろいろ勉強にもなりました。ほかにも、商品発送までの流れを実際に見て『お客さんへの発送ってこんなふうにやってるんだな』と把握もできましたし、まあ、大変でしたけど、悪いことばかりではありませんでしたね」
 
  ●危機を繰り返さないために
 
  ほぼすべてのスタッフを出荷にシフトさせることで、ようやく荷物は減り始めた。賽の河原で石を積むような状況をついに脱したときの気持ちを、出荷担当者はこう語る。
 
  「減り始めたときはそりゃうれしかったですよ、やっと終わるんだ……と。新しく整備した物流施設のおかげですね。アレがなかったら収束はできなかったでしょう。結果的に荷物をさばくスペースも格段に増えて、以前より働きやすくなったし、その点ではよかったです」
 
  危機の最中のことは「基本的には思い出したくない」としながらも、出荷担当者として教訓になったこともあるようだ。
 
  「連休は本当に気を付けておかないと危ないな、と思いました。来月のお盆休みにどうなるのかも、今からものすごく気にかけてますよ。あんなこと、もう二度と味わいたくないので」
 
  カレンダーを指さす担当者の言葉に熱がこもる。そのとき、さきほどオフィスで聞いたTさんの言葉を思い出した。
 
  「どんなにたくさん荷物が来ても、必ず出荷してくれると信じていた」
 
  一般的には、メンバーのファインプレーで維持されている組織は危ういと言われる。特に会社においては、スタッフがそれほど高いパフォーマンスを発揮しなくても、安定して回るように組織をデザインすることが大切だ。しかし、誰ひとり予測していなかった事態が起こり、組織が機能不全に陥ってしまったときはどうだろう。瀬戸際で踏ん張れるかどうかを決めるのは、最終的にひとりひとりの底力なのでないか。
 
  幸運にも、まいど屋にはそんな力を持つスタッフがたくさんいた――。関係者の証言を聞いて、そんなことを思った。
 
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お盆の連休スケジュールに備える