【アイズフロンティア】"開拓者"は斯く語りきimage_maidoya3
アイズフロンティアの作業服を初めて見たのは、たしか大阪環状線の車内でのことだった。仕事帰りと思しき二人組の体格のいい若者が、吊革につかまって談笑している。上下とも激しいダメージ加工が施された細身のジーンズ。ちょっとイカツいけれど、ファッション感覚の鋭さも感じる……あ、ひょっとしてアレが噂に聞くストレッチデニム作業服なのでは? さりげなくロゴをチェックしようとしたものの見えないので、肩にプリントされていた型番(?)をスマホの検索窓に入力する――。と「アイズフロンティア」の文字が出てきたのである。その名が示す通り新興メーカー。見たところあまりメディア露出しない方針のようなので「いつか取材に行けたらいいな」程度に思っていた。ところが、そのチャンスは思いのほか早く巡ってきたのだった。では、前置きはこのくらいにしてお送りしよう。月刊まいど屋初登場、アイズフロンティアの訪問レポートである。

アイズフロンティア
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倉敷市のアイズフロンティア本社
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鳶ズボンとしても人気のストレッチデニム
●いかに存在感を出すか?
 
  編集部が訪れたのは、瀬戸大橋線の茶屋町駅。ちょうど岡山駅と児島駅の中間地点にあたる。アイズフロンティアの本社は、駅前のどこにでもあるような学習塾や不動産会社が入居するオフィスビルにあった。展示商品の並ぶこぢんまりした応接スペースに通されると、さっそく社長の磯野豊さんが現れた。若い、というと年長者に失礼かもしれないが、とにかくスラリとした爽やかな印象である。磯野さんは、さっそく会社の成り立ちについて語ってくれた。
 
  「当社は今年で7年目になります。住所は倉敷市ですが、私は生まれも育ちも児島で、地元の高校を卒業してからずっとウェア関係の仕事をしていたんです。はじめは洋服のタグなどを作る付属品の会社に就職し、次が作業服のメーカーで営業から企画生産部長まで務めました。続いて、商社に転職してからは作業服の企画提案を担当し、商品の仕様書を作ったり海外工場とやり取りしたりと、ワークウェア生産の流れをひと通り体験しました。いま考えると、この商社での2年間が大きかったですね。現場を知った上でスキルアップすることができた。独立のきっかけは『やってみないか』と勧められたことです。取引先からさまざまなバックアップをしてもらって低リスクで起業できました。おかげさまで今期も目標を達成できそうです」
 
  今でこそ「カッコいい作業服」と言えば必ずといっていいほど名前が挙がる同社だが、創業にあたっては、商品企画についてかなり頭を悩ませたという。
 
  「ワークウェアはすでにいっぱいある中で、一体どうやって存在感を出せばいいのか? どんな商品なら市場に入っていけるのか? これが最初にして最大の課題でした。で、考えに考えて浮かんだのが『デニムをブラスト加工した作業服を作れば目立てるんじゃないか』ということ。当時、まだデニムの作業服は少なかったので、ダメージ加工のワークウェアを出せばかなりインパクトがあると見込んだわけです。さらにそんなとき、日曜日の街で若者のファッションを見ていたら、細身が多いのに気づいた。『これこそ若い人が着たいシルエットなのでは?』とピンと来たんです。そのころでも女性用パンツはストレッチが普通だったので、じゃあメンズでやってみたらウケるのではないか、と」
 
  ●もはや「鳶メーカー」
 
  こうして、厚めの生地でシルエットも太目といった当時のデニム作業服の概念を覆す、細身のデニム作業服「7250シリーズ」が誕生した。創業翌年の2014年1月にリリースしたこのモデルは、その動きやすさとシルエットの美しさへの評価がじわじわと広がり、次の秋には人気に火が付く。注文の電話が鳴りやまないほどの大ヒットとなった。
 
  ただモノがいいだけではここまでの売れ行きにはならない。「7250」のヒットの要因としては「新興メーカーだったことも大きい」と磯野さんは振り返る。
 
  「ごぞんじの通り、作業服のメーカーって岡山や広島の老舗企業が多いでしょう。スポーツ用品の会社が参入してくることはあっても、新たなワークウェアメーカーが生まれることはほとんどない。そんな背景もあって、ショップのみなさんが当社を応援してくれたんですね。おもしろいから助けてやろう、売り場でいい所に置いてやろう、と。販売店の親心というか。こういうプッシュがあったおかげで、試着する人が増えて『なにこれ? スゴイ!』という職人の口コミにつながった。ショップには本当に感謝しています」
 
  このようなスタートアップから現在にいたるまで、同社が一貫して重視しているのはショップでの販売だ。なかでも特にターゲットとしているのは、なんと「鳶」だという。
 
  「ウチはもはや鳶のためのメーカーだと思っています。特に西日本では足さばきのいいストレッチデニムは鳶職人のウェアとして人気です。近年はいいものを見分けるユーザーの感度も上がっていますから、価格以上の価値を提供することがさらに重要になってきます。商品の価格帯は安くはありませんが、『高くてもいいものを着たい』という職人に響くものを作っていきたい。また、次々と新作をリリースすることで売り場を活性化していくことも大事ですね。『アイズフロンティアの新作は入ってる?』とショップに来てくれるお客さんのワクワク感に応えたいし、魅力ある売り場を通じて"アイズフロンティア独自の世界観"を発信していかなければ」
 
  ●「定番モデル」の時代は終わった
 
  ユーザーを飽きさせないために、商品展開にも一定の方針がある。まず同社の代名詞と言えるデニムの作業服は毎シーズン新商品を発表すること。その上で、デニム以外の新作モデルによって商品構成のバリエーションの豊かさを出していくというものだ。ユニフォーム採用されて毎年確実に売れ続けるような定番商品に軸足を置き、新作で冒険をする、といった作業服メーカーの定石とは、似ているようでずいぶん違う。
 
  「当社のようなショップ売りメインのメーカーに、『定番商品』というカテゴリはもう要らないのではないかと思っています。ファッションの流行やライフスタイルは目まぐるしく変わっていくし、うちでも売り上げに占める新製品の比重が年々高まっている。もはやヒットした型番が何年も売れ続けるような時代じゃないんです。だから新たなシーズンが来るたびに新製品を投入してすべて売り切る、くらいの感覚がいいのではないか、と。当社が少人数で倉庫や工場も持っていないのも、『時代の変化に対応していくためには身軽でなければ』と考えているからです」
 
  今回の秋冬シーズンは、ストレッチデニムの「7630シリーズ」の新色に加えて、同社で初めてとなるナイロン生地の「3570シリーズ」、製品染めの色味が特徴的な綿ベース「7890シリーズ」などを発表。"非デニム"の層はさらに厚くなった。
 
  「細身でストレッチという基本路線は維持する一方で、変化も取り入れています。3570シリーズはアウトドア用パンツ、7890シリーズはミリタリーテイストを意識しました。特に丈夫なナイロン生地でストレッチもする3570は、"近未来"のようなイメージもある。アイズフロンティアの新たな世界観を表現したウェアです」
 
  今後の展開については、守りに入らず攻め続けることが重要だという。細身デニムによって、ワークウェアのカッコよさを「ワイルド&無骨」から「クール&スマート」へと変革したように、市場に対して「仕掛ける」姿勢を持ち続けること。これこそが、アイズフロンティアの存在意義なのだ。
 
  「今の売上規模があれば、おもしろい商品を作れる環境をキープしていける」と磯野さんは語る。しかし、このままの調子で売れ続けて大人気メーカーになっていくと、ワークウェア界の異端児としての立ち位置があやしくなってくるのでは? メジャー契約したバンドが独自性を見失ってしまうように……。
 
  そんな懸念を口走ると、磯野さんは柔らかな笑顔を浮かべて言い切った。
 
  「大丈夫、ニルヴァーナにはなりませんよ」
 
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製品染めの色味がおもしろい「7890シリーズ」
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新作で「非デニム」もより充実

    

"最先鋭デニム作業服"に新色が登場! 職人の支持を集める"鉄板ワークウェア"

アイズフロンティアの代名詞とも言えるストレッチの細身デニム作業服。独自の3Dカッティングとタテヨコ&全方向に伸びるストレッチ生地の採用によりアイズフロンティアの中でも最もスリムなシルエットを実現。従来品と比べて引き裂きに強くなったほか、レーヨン糸の配合によって肌触りのよさもアップしている。


ありそうでなかったこの色落ち! 個性派の貴兄に贈る「細身&ストレッチ」作業服

染色した生地から作るのではなく、縫製したウェアを洗い加工しながら染色する「製品染め」を施したこだわりのワークウェア。細身シルエットや動きを妨げないストレッチ性に加え、落ち着きと高級感を感じさせる佇まいも魅力。ナチュラルな風合いに加えてヴィンテージ感のある色味も楽しめる。普通のワークウェアではもの足りない"通"のための逸品。