腹が減った。美味しいものが食べたい。でも、わざわざ料理を作る気力はないし、外出するのはもっと面倒くさい――。普通、こんなときは中華料理屋の出前や宅配ピザを取るしかなかった。アレが日本に登場する以前までは! そう、あらゆる料理をすぐさま家に届けてくれるフードデリバリー「Uber Eats」である。2016年に東京で始まった同サービスは、2020年、新型コロナの緊急事態宣言下で爆発的に拡大。もはや「Uber」ロゴ付きバックパックの自転車を見かけない日はなくなった。スマホから加盟レストランの料理を注文すれば、すぐさま街中にいる配達員が動き出す。代金と配達手数料はネット決済だからややこしい現金のやり取りもなし。それに特製の保温バッグで届く料理はホカホカで見栄えもグッド。これでは普及しないほうが不思議というべきだろう。安い・早い・便利――。まるで「まいど屋」である。あるいは、まいど屋が「Uber」に似ているというべきか。いや、そんなことはどうでもいい。とにかく本誌『月刊まいど屋』としては、画期的なフードサービス業・Uber Eatsを研究しなくてはなるまい。もちろん利用者としてではなくインサイダーとして。というわけで今回は、コロナ時代における最新のワーキングスタイル、Uber Eats体験記をお届けしよう。
入門編
バッグも入手して準備完了
運転はスマホ地図が頼り
●登録手続きはネットだけ
Uber Eatsの配達員は、uber社の社員でもバイトでもなく個人事業主である。18歳以上で日本における就労資格があれば、誰でも配達員として登録でき、自分の裁量で働くことができる。毎日、朝から晩までデリバリーに駆けずり回ってもいいし、金欠に備えて登録だけ済ませておき、まったく稼働しないのも自由。いちおう審査もあるようだが、落ちることはほぼないらしい。
とにかく編集長も登録だけやってみることにした。「uber」のサイトで新規アカウントを作って住所や電話番号を入力し、プロフィール用の顔写真と免許証の写真をアップロード。30分ほどで完了する作業だ。配達員登録の動機などを適当に埋めて終わらせると、翌朝「もう少しで登録が完了します」とのメールが届いていた。指示に従ってさらに入力欄を埋め、オンラインの交通安全クイズに答える。さらに2、3日後、「あと数回のクリックで稼働できます」という趣旨のメールが来ていたので、スマホにUber Eatsドライバー用アプリを入れ、報酬を振り込んでもらうための銀行口座を登録する――。と、ついに専用アプリの「出発」ボタンが押せるようになった。
手間こそほとんどかからなかったものの、手続きは想像以上にストレスフルだった。わからない箇所があっても問い合わせなどはほぼ不可能。海外サイトならではのインターフェースや機械翻訳のようなカタカナ語はかなりの違和感で、「ほんとにコレでいいのか?」と何度も不安になった。働きたい人は最低でも1週間ほどゆとりを持って登録作業をスタートするといいと思う。「三日後に始めよう」といったスケジュールを立てていると、かなりイライラさせられるだろう。
●「ウバッグ」がやってきた!
登録に手間取っているあいだに、Amazonで注文しておいた配達用バッグが届いた。おなじみのリュックタイプのもので、配達員には「ウバッグ」と呼ばれている。かつてはデポジット制(uber事務所に返却すれば購入費が返ってくる)だったが、現在は買い切り。ただ残念なことに、配達員になりたい人が増えた結果、このバッグも「転売ヤー」の標的となってしまっている。そこで出品者であるuberは、非配達員が買いにくいように「検索避け」をしているようだ。前述の登録手続きを進めていくと、uber側から「ウバッグ」を最安値で買えるAmazonのリンクを送ってくれるので、そこから購入する。編集長が買ったときは5000円だった。
じつはUber Eatsの配達において「ウバッグを使わなければならない」という規則はない。料理の温度管理さえできるなら、100円ショップの保温バッグや発泡スチロールの箱で配達してもいいのだ。だが、自転車のカゴや肩掛けバッグでは、どんなに慎重に運んでも弁当はひっくり返り、コップは倒れる。そんなわけで、皿を傾けず・ドリンクをこぼさず・料理を冷まさず、さらに宴会用の寿司セットやピザといった特大サイズのピックアップに備えて、と考えれば事実上「ウバッグ一択」となるわけだ。
モノとしてのウバッグの出来は「すばらしい」のひとこと。さすが、代々配達員の声を聞きながら改良を重ねただけのことはある。一見、ただの箱のようだが、背中に当たる部分は分厚いクッションが付いているし、財布やモバイルバッテリーなどの収納スペースもある。肩ヒモは細かく調節でき、スマホ用ホルダーまで付いている。こちらもマジックテープで取り付ける場所を調節できたり、落下防止のストラップがあったりと「至れり尽くせり」の仕様だ。外側は防水加工されており、ファスナーも止水タイプ。フタさえすれば雨でも荷物が濡れる心配はまったくない。
収納力もすごい。内部は保温性素材に覆われていて、間仕切りの板はマジックテープで動かせるので、縦に積み重ねた弁当なんかも倒さずに運べる。内側にはドリンク用ホルダーもあり、ジュースや味噌汁などを固定できる。その上……と書いていくとキリがないのでこのへんでやめるけれど、とにかく自転車で料理を運ぶバッグとしてこれ以上のものはなく、間違いなく5000円以上の値打ちはあるだろう。とくに編集長のようにクルマの運転をしない人には、ぜひ購入を勧めたい。これさえあれば、タピオカミルクティーでもLサイズのピザでも安心して持ち帰りできるからだ。
●必要なものはたった4つ
スマホと自転車は持っている。配達員登録は完了し、ウバッグも手に入れた。「さあ出発」と言いたいところだが、まだいくつか用意しておくべきものがある。
絶対に必要なものは「自転車用スマホホルダー」だ。いくら土地勘があっても、小さなマンションや他人の家まではわからない。だから必ずスマホの地図をチラチラ見ながら自転車を走らせる場面が出てくる。ポケットからスマホを取り出して地図を見るのは違法だし、危険きわまりない。また走行中にもUberアプリには受け渡し方法などの連絡が入ってくるから、スマホホルダーなしに配達をするのは不可能だ。幸い、編集長の家にはときどき長距離サイクリングで使うものがあったので、愛車のハンドルバーに取り付けて「Uber Eats仕様車」とした。ついでに余っていたバックミラーも取り付けて安全性をアップさせておく。
つまり、自転車でUber Eats配達員をするために必要不可欠なものは、
①スマホ
②自転車
③配達用バッグ(ウバッグ)
④自転車用スマホホルダー
の4点だけ。あと、必要ではないけれど用意しておいた方がいいものもいくつかあるので、以下にまとめておこう。
・モバイルバッテリー……配達中のバッテリー切れに備えて
・緩衝材……バッグの隙間を埋めるために。新聞紙でもOK
・飲料水……冬でも自転車に乗っていると喉が渇く
・ヘルメット……Uberが着用を要請している(義務ではない)
・キッチンペーパー……汚れを拭き取るほか緩衝材としても使える
季節や天気を選ばずにフル稼働したければ、装備品はどんどん増えていく。雨の日にはカッパがいるし、夏なら日焼け止めもマストだろう。しかし編集長は、危険なので雨の配達はやらないことにした。あと日没後の配達もやめて、昼だけの稼働。理由は安全性だけでなく、夜だと景色が変わって土地勘が効かなくなるからだ。昼稼働でじゅうぶんな経験を積んだら、いずれ夜にもチャレンジしてみたいけれど。
●ついにアプリが鳴った!
働くエリアは自由に選べる。編集長の場合、地元の大阪府堺市で配達してもいいし、もっと人の多い大阪市の繁華街で稼働してもいい。もちろん、東京や名古屋に「出張」して働くのも可能だ。大都市には電動アシスト付きのシェアサイクルがあるので、それにスマホホルダーを装着すればいい。実際、都内ではドコモのシェアサイクル(通称「赤チャリ」)を使っている配達員をよく見かける。ウバッグは段ボール箱のように折りたためるので電車通勤で邪魔になることもない。
というわけで、まずは自宅でUber Eatsドライバー用アプリを起動させてみよう。編集長の自宅は郊外だが、そこそこ飲食店はある。ガッツリ稼ぐには向いていないものの、入門用としてはちょうどいいだろう。
時刻は午前11時すぎ。いつでも出発できるようにウバッグを整えて、ブルゾンを着たままアプリの出発ボタンを押した。この状態を「オンライン」と呼ぶ。あとは、Uberの配車AIがマッチングしてくれるのを待つだけだ。そのうち「××のレストランで料理を受け取って、△△さんの家に届けてください」という依頼が来るはず――が、いつまでたってもアプリは「リクエスト待ち」のまま。やはり堺市ではダメなのか? 大阪市に行ってマクドナルドの前で待機するしかないのかも……。半ば諦めながら台所でコーヒーを淹れカップに口をつけた瞬間、アプリが鳴った。
スマホに出てきたのは「3分」の表示。これはどうやら「現在地から3分で行けるレストラン」を意味するようだ。店名は出ない。「依頼を受ける」ボタンは1分間のカウントダウンを開始しており「拒否する」ボタンも左上に出ている。期限内にタップしないと他の配達員に回す仕組みになっているのだ。
どの店に行くのかさえ教えず依頼してくる強引さにうろたえつつ、ボタンを押すと、地図に受取店舗が表示された。家から5分ほどの「すき家」だ! あわてて駐輪場から自転車を出し、脇目も振らず「すき家」を目指す。
●牛丼を届けた報酬は?
店に入るやいなや、レジにいる店員から「番号は?」と聞かれた。番号ってなんだ? とスマホに目をやると5桁ほどの英数字があったので伝えると「はい」と、牛丼と豚汁を渡される。へ? 1人前だけ? こんな500円もしない注文をわざわざ届けるの? と思いつつ、ウバッグに詰め込む。豚汁は倒れないように念入りに固定し、背負ってすき家を出る。背後から「お願いしまーす」の声がした。
アプリの「受取完了」ボタンを押すと、はじめて配達先が明らかになった。3kmほど先のマンションの2階だ。よく通る道なので地図を見る必要もない。バッグを揺らさないよう気をつけながら走って、10分ほどで到着した。
受け取り方法は「玄関先で」とあった。階段を上がって部屋のインターホンを押し「ウーバーイーツです」と告げると、ドアの隙間から寝起きとおぼしき男性の手が出てきた。
「お待たせしました」と牛丼と豚汁が入ったレジ袋を渡す。「どうも」とかすれた声がしてドアは閉まった。
想像以上に、コミュニケーションはなかった。自分だってふだんネット通販の配達員としゃべったりしないわけで、当然と言えば当然である。だが、赤の他人の家を訪ねるのは面白かった。
料理の受取も配達も難しいことは何もなく、正直、拍子抜けだ。自転車に戻り、スマホ画面の「配達完了」ボタンを押すと、今回のデリバリーの報酬が表示された。439円だった。自宅を出てから20分ほどだから時給換算すると、1200円程度になる。意外と稼げるものなんだな、とも思った。
☆
このUber Eatsデビューから3日後の今日、朝からこの原稿を書いている。さて、ちょうど11時を過ぎたので、このへんで仕事を切り上げてUber Eatsを始めることにしよう。
出発準備を整えたら、マグカップに半分ほどコーヒーを注ぎ、Uberドライバー用アプリの「出発」ボタンを押す。コーヒーを飲み終わるのが先か、それともリクエストが来るのが先か、そしてどこに飛ばされるか――。答えは「神のみぞ知る」だ。
Uber Eatsの配達員は、uber社の社員でもバイトでもなく個人事業主である。18歳以上で日本における就労資格があれば、誰でも配達員として登録でき、自分の裁量で働くことができる。毎日、朝から晩までデリバリーに駆けずり回ってもいいし、金欠に備えて登録だけ済ませておき、まったく稼働しないのも自由。いちおう審査もあるようだが、落ちることはほぼないらしい。
とにかく編集長も登録だけやってみることにした。「uber」のサイトで新規アカウントを作って住所や電話番号を入力し、プロフィール用の顔写真と免許証の写真をアップロード。30分ほどで完了する作業だ。配達員登録の動機などを適当に埋めて終わらせると、翌朝「もう少しで登録が完了します」とのメールが届いていた。指示に従ってさらに入力欄を埋め、オンラインの交通安全クイズに答える。さらに2、3日後、「あと数回のクリックで稼働できます」という趣旨のメールが来ていたので、スマホにUber Eatsドライバー用アプリを入れ、報酬を振り込んでもらうための銀行口座を登録する――。と、ついに専用アプリの「出発」ボタンが押せるようになった。
手間こそほとんどかからなかったものの、手続きは想像以上にストレスフルだった。わからない箇所があっても問い合わせなどはほぼ不可能。海外サイトならではのインターフェースや機械翻訳のようなカタカナ語はかなりの違和感で、「ほんとにコレでいいのか?」と何度も不安になった。働きたい人は最低でも1週間ほどゆとりを持って登録作業をスタートするといいと思う。「三日後に始めよう」といったスケジュールを立てていると、かなりイライラさせられるだろう。
●「ウバッグ」がやってきた!
登録に手間取っているあいだに、Amazonで注文しておいた配達用バッグが届いた。おなじみのリュックタイプのもので、配達員には「ウバッグ」と呼ばれている。かつてはデポジット制(uber事務所に返却すれば購入費が返ってくる)だったが、現在は買い切り。ただ残念なことに、配達員になりたい人が増えた結果、このバッグも「転売ヤー」の標的となってしまっている。そこで出品者であるuberは、非配達員が買いにくいように「検索避け」をしているようだ。前述の登録手続きを進めていくと、uber側から「ウバッグ」を最安値で買えるAmazonのリンクを送ってくれるので、そこから購入する。編集長が買ったときは5000円だった。
じつはUber Eatsの配達において「ウバッグを使わなければならない」という規則はない。料理の温度管理さえできるなら、100円ショップの保温バッグや発泡スチロールの箱で配達してもいいのだ。だが、自転車のカゴや肩掛けバッグでは、どんなに慎重に運んでも弁当はひっくり返り、コップは倒れる。そんなわけで、皿を傾けず・ドリンクをこぼさず・料理を冷まさず、さらに宴会用の寿司セットやピザといった特大サイズのピックアップに備えて、と考えれば事実上「ウバッグ一択」となるわけだ。
モノとしてのウバッグの出来は「すばらしい」のひとこと。さすが、代々配達員の声を聞きながら改良を重ねただけのことはある。一見、ただの箱のようだが、背中に当たる部分は分厚いクッションが付いているし、財布やモバイルバッテリーなどの収納スペースもある。肩ヒモは細かく調節でき、スマホ用ホルダーまで付いている。こちらもマジックテープで取り付ける場所を調節できたり、落下防止のストラップがあったりと「至れり尽くせり」の仕様だ。外側は防水加工されており、ファスナーも止水タイプ。フタさえすれば雨でも荷物が濡れる心配はまったくない。
収納力もすごい。内部は保温性素材に覆われていて、間仕切りの板はマジックテープで動かせるので、縦に積み重ねた弁当なんかも倒さずに運べる。内側にはドリンク用ホルダーもあり、ジュースや味噌汁などを固定できる。その上……と書いていくとキリがないのでこのへんでやめるけれど、とにかく自転車で料理を運ぶバッグとしてこれ以上のものはなく、間違いなく5000円以上の値打ちはあるだろう。とくに編集長のようにクルマの運転をしない人には、ぜひ購入を勧めたい。これさえあれば、タピオカミルクティーでもLサイズのピザでも安心して持ち帰りできるからだ。
●必要なものはたった4つ
スマホと自転車は持っている。配達員登録は完了し、ウバッグも手に入れた。「さあ出発」と言いたいところだが、まだいくつか用意しておくべきものがある。
絶対に必要なものは「自転車用スマホホルダー」だ。いくら土地勘があっても、小さなマンションや他人の家まではわからない。だから必ずスマホの地図をチラチラ見ながら自転車を走らせる場面が出てくる。ポケットからスマホを取り出して地図を見るのは違法だし、危険きわまりない。また走行中にもUberアプリには受け渡し方法などの連絡が入ってくるから、スマホホルダーなしに配達をするのは不可能だ。幸い、編集長の家にはときどき長距離サイクリングで使うものがあったので、愛車のハンドルバーに取り付けて「Uber Eats仕様車」とした。ついでに余っていたバックミラーも取り付けて安全性をアップさせておく。
つまり、自転車でUber Eats配達員をするために必要不可欠なものは、
①スマホ
②自転車
③配達用バッグ(ウバッグ)
④自転車用スマホホルダー
の4点だけ。あと、必要ではないけれど用意しておいた方がいいものもいくつかあるので、以下にまとめておこう。
・モバイルバッテリー……配達中のバッテリー切れに備えて
・緩衝材……バッグの隙間を埋めるために。新聞紙でもOK
・飲料水……冬でも自転車に乗っていると喉が渇く
・ヘルメット……Uberが着用を要請している(義務ではない)
・キッチンペーパー……汚れを拭き取るほか緩衝材としても使える
季節や天気を選ばずにフル稼働したければ、装備品はどんどん増えていく。雨の日にはカッパがいるし、夏なら日焼け止めもマストだろう。しかし編集長は、危険なので雨の配達はやらないことにした。あと日没後の配達もやめて、昼だけの稼働。理由は安全性だけでなく、夜だと景色が変わって土地勘が効かなくなるからだ。昼稼働でじゅうぶんな経験を積んだら、いずれ夜にもチャレンジしてみたいけれど。
●ついにアプリが鳴った!
働くエリアは自由に選べる。編集長の場合、地元の大阪府堺市で配達してもいいし、もっと人の多い大阪市の繁華街で稼働してもいい。もちろん、東京や名古屋に「出張」して働くのも可能だ。大都市には電動アシスト付きのシェアサイクルがあるので、それにスマホホルダーを装着すればいい。実際、都内ではドコモのシェアサイクル(通称「赤チャリ」)を使っている配達員をよく見かける。ウバッグは段ボール箱のように折りたためるので電車通勤で邪魔になることもない。
というわけで、まずは自宅でUber Eatsドライバー用アプリを起動させてみよう。編集長の自宅は郊外だが、そこそこ飲食店はある。ガッツリ稼ぐには向いていないものの、入門用としてはちょうどいいだろう。
時刻は午前11時すぎ。いつでも出発できるようにウバッグを整えて、ブルゾンを着たままアプリの出発ボタンを押した。この状態を「オンライン」と呼ぶ。あとは、Uberの配車AIがマッチングしてくれるのを待つだけだ。そのうち「××のレストランで料理を受け取って、△△さんの家に届けてください」という依頼が来るはず――が、いつまでたってもアプリは「リクエスト待ち」のまま。やはり堺市ではダメなのか? 大阪市に行ってマクドナルドの前で待機するしかないのかも……。半ば諦めながら台所でコーヒーを淹れカップに口をつけた瞬間、アプリが鳴った。
スマホに出てきたのは「3分」の表示。これはどうやら「現在地から3分で行けるレストラン」を意味するようだ。店名は出ない。「依頼を受ける」ボタンは1分間のカウントダウンを開始しており「拒否する」ボタンも左上に出ている。期限内にタップしないと他の配達員に回す仕組みになっているのだ。
どの店に行くのかさえ教えず依頼してくる強引さにうろたえつつ、ボタンを押すと、地図に受取店舗が表示された。家から5分ほどの「すき家」だ! あわてて駐輪場から自転車を出し、脇目も振らず「すき家」を目指す。
●牛丼を届けた報酬は?
店に入るやいなや、レジにいる店員から「番号は?」と聞かれた。番号ってなんだ? とスマホに目をやると5桁ほどの英数字があったので伝えると「はい」と、牛丼と豚汁を渡される。へ? 1人前だけ? こんな500円もしない注文をわざわざ届けるの? と思いつつ、ウバッグに詰め込む。豚汁は倒れないように念入りに固定し、背負ってすき家を出る。背後から「お願いしまーす」の声がした。
アプリの「受取完了」ボタンを押すと、はじめて配達先が明らかになった。3kmほど先のマンションの2階だ。よく通る道なので地図を見る必要もない。バッグを揺らさないよう気をつけながら走って、10分ほどで到着した。
受け取り方法は「玄関先で」とあった。階段を上がって部屋のインターホンを押し「ウーバーイーツです」と告げると、ドアの隙間から寝起きとおぼしき男性の手が出てきた。
「お待たせしました」と牛丼と豚汁が入ったレジ袋を渡す。「どうも」とかすれた声がしてドアは閉まった。
想像以上に、コミュニケーションはなかった。自分だってふだんネット通販の配達員としゃべったりしないわけで、当然と言えば当然である。だが、赤の他人の家を訪ねるのは面白かった。
料理の受取も配達も難しいことは何もなく、正直、拍子抜けだ。自転車に戻り、スマホ画面の「配達完了」ボタンを押すと、今回のデリバリーの報酬が表示された。439円だった。自宅を出てから20分ほどだから時給換算すると、1200円程度になる。意外と稼げるものなんだな、とも思った。
☆
このUber Eatsデビューから3日後の今日、朝からこの原稿を書いている。さて、ちょうど11時を過ぎたので、このへんで仕事を切り上げてUber Eatsを始めることにしよう。
出発準備を整えたら、マグカップに半分ほどコーヒーを注ぎ、Uberドライバー用アプリの「出発」ボタンを押す。コーヒーを飲み終わるのが先か、それともリクエストが来るのが先か、そしてどこに飛ばされるか――。答えは「神のみぞ知る」だ。
配達リクエストが来た状態
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ついに配達員デビュー!
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