【初級編】「空調」と「ファン付き」image_maidoya3
埼玉県川口市--。駅前にはガチムチの鋳物職人を描写した銅像「働く歓び」がそそり立つ“ド・ワーキング”な中核市である。5月某日、そんな街にある作業服ホリックのためのショップ、まいど屋に今回の「関係者」が集っていた。彼らの手には両手に抱えきれないほどのカタログとウェア、そしてデバイスがある。そう、空調服--いや正確には「ファン付きウェア」と呼ぶべきだろう--は数年ですっかり夏の作業着として定着したアイテムだが、ブランドごとの特色やスペックの違い、互換性などはひじょうにつかみにくい。ユーザーから見れば「難しい商品」なのだ。そこで今回は、専門知識を持つゲストをまいど屋に招いて、このジャンルについて大いに語り合ってもらうことにした。
 

初級編
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各社の商品展開を語る
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独立系デバイスも能力は高い
●用語をめぐる問題
 
  --最初に自己紹介からお願いします。
 
  店舗代表(以下、店):まいど屋スタッフのUと申します。各メーカーの展示会や商談会に行って買い付けをしたり、まいど屋のウェブサイトに商品をアップしたりしています。過去にはまいど屋のオペレーターとしてお客様からの電話対応もしていました。今回はショップ代表として参加させていただきます。
 
  メーカー代表(以下、メ):いやー、僕がこんな場所にいていいんですかねぇ? 営業のアポで来ただけなのに。まあ匿名ならOKってことにしときましょう。申し遅れました、某作業服メーカー営業担当のKです。当社は自社製のウェアに(株)空調服製のデバイスを組み合わせて、空調服の商品を展開しています。つまり“空調服陣営”ってことですね。
 
  本誌編集長(以下、編):ちょ、ちょっとすでにわかりにくい話になりかけてませんか? まずはファン付きウェアを展開するメーカーと「陣営」について、整理しておくべきじゃないでしょうか……。あ、すいません私は本誌月刊まいど屋、編集長の奥野です。今日は取材で聞いた話や空調服ユーザーとしての体験をもとに話をさせてもらえればなぁ、と。
 
  --さすが編集長、ナイスご指摘です。じゃあまず用語の整理から行きましょうか。
 
  店:はい、最初に押さえておくべき点は「空調服」は一般名詞ではなく商品名だってことです。(株)セフト研究所および(株)空調服が商標登録しているので、その他のメーカーは「ファン付きウェア」として同様の商品を作っています。しかし、お客様はこのカテゴリの商品を普通に「空調服」と呼んでお買い求めになるわけで、ネット店舗もそんな検索行動に対応しなくてはいけない。正直、名称については難しいところです。
 
  編:作業服のお店にいって「空調服ありますか?」って聞いたら、だいたい他社の商品を出されますよね。「いや、コレじゃなくて(株)空調服の新型ファンが見たいんだけど……」って言ったらキョトンとされたことあります。
 
  店:まあ、そうなりますねー。とにかく「空調服」という用語は、書類上の定義と現実での運用とのあいだに大きな乖離がある、と。お客様はそんなことを気にしなくてもいいとも言えますが、頭の片隅に置いといていただければ理解の助けになるんじゃないでしょうか。
 
  ●「陣営系」と「独自系」
 
  --では、続いて「陣営」についてです。メーカー代表のKさん、ズバッと説明しちゃってください。
 
  メ:これは簡単に言うと、どこ製のデバイスを使っているかってことですよ。当社を含めて、作業着の会社はウェアを作ることはできても、バッテリーやファンを作るノウハウはありませんから、そういうのを作れる機械メーカーと組んでファン付きウェアを展開している。で、ウチの場合は(株)空調服からデバイスを提供してもらっているわけです。たとえば自重堂もそうだし、アイトスや寅壱もそう。もう10社をゆうに超えるくらいの作業着メーカーが同じデバイスを使っていて、業界ではまとめて「空調服陣営」と読んでいるわけです。
 
  編:要するに「このカテゴリの元祖である(株)空調服とタッグを組むのがベストだ」と考える作業着メーカーが多いわけですね。長年の蓄積があるおかげで、初期不良も少ないと聞いています。
 
  店:同じように「陣営」を作っているのが「空調風神服」のサンエスです。こちらもこのカテゴリでは古参のメーカーなので、コーコスをはじめビッグボーン、アタックベースなどにデバイスを提供しています。空調服陣営に対する「風神服陣営」と言っていいでしょう。
 
  --なるほど、二つの陣営に分かれてシェア争いをしている、と。
 
  編:いや……。ああショップの代表のUさん、お願いします。
 
  店:えーと、シェア争いのことはいったん忘れてください。じつは「陣営」はさっき挙げた2つなんですが、それらとは別に第三勢力があるんです。空調服でも風神服でもなく、機械メーカーと協力開発した独自デバイスをセットにして「ファン付きウェア」を展開している作業着メーカーです。その代表格はやはりバートルでしょう。同社の「エアークラフト」は当店でも大人気の商品です。
 
  編:梅雨明け以降になると「エアクラ」を見ない日はないってくらいですよねー。まあ、ものすごく売れてますよ。SNSなんか見ていると「空調服ならバートルがおすすめ」「バートルの空調服を買った!」とか、いっぱい書き込みがある。先ほど言った「用語」の問題はこんなふうに現れているわけなんですけど。
 
  店:「独自系」はバートルのほかに、クロダルマ、村上被服、中国産業などが支持を集めています。自社開発なので作業着の商品展開やトレンド、新たな安全規則などに合わせて、デバイスを改良できるのが利点です。あと価格も低めのケースが多いですね。
 
  編:要するに「陣営系」と「独自系」がある、と理解してもらえば……って、自分で言っててもややこしい!
 
  ●「本当に涼しいの?」
 
  --やっと用語の整理が終わってスタートラインに立てました。じゃあ続いては……。
 
  編:やっぱ「涼しさ」についてですかね。これはいまだに「ホントに涼しいの?」って聞く人いるんですけど、涼しいです(キッパリ)。いや、炎天下だと暑いことは暑いんですよ? さすがにエアコンの効いた部屋でのんびりしてるような感じにはならない。でも「耐えられない暑さ」が「なんとかなる暑さ」になるメリットは大きいし、なにより疲労が違います。日中の暑さや日差しで、翌日までだるさが残ってしまうって人はマストバイでしょう。正直、僕はもうこのウェアなしで真夏を乗り切るなんて考えたくないです。
 
  メ:ちなみにどこの商品をお使いで?
 
  編:うっ……、編集長として特定メーカーに肩入れしていると思われそうなので言いたくなかったんですが、白状しましょう。昨年に発売された空調服の14.4Vデバイスです。これを寅壱のフード付きベストに付けています。ウェアの中もさることながら、フードがいいんですよ。かぶると直射日光をシャットアウトできる上に、頭に風が通ってすっごい快適。ドライヤーみたいに汗で濡れた髪が乾くんです。
 
  --インナーはどういうのがいいんでしょう?
 
  メ:空調服の原理は汗の気化を促す「生理クーラー」ですから、インナーには吸汗速乾のコンプレッションウェアを着ていただき、ガンガン汗をかいてもらう。これがセオリーです。あとは接触冷感や消臭機能付きの生地にしたり、直射日光による温度上昇を防ぐ遮熱仕様のアウターを選んだり、と、ニーズに対応したウェアを選べば、間違いなくご満足いただけると思います。
 
  編:私は「消臭素材」は必須ですね。化繊でも脱いですぐ洗濯すればニオイは出ないんですけど、なかなかそうもできない場合も多いので。コンプレッションだと脱いだときちょっと恥ずかしいから、フィット感のある速乾Tシャツを着ています。これに日差しがキツイときはコンプレッションのアームカバーを付けて「なんちゃって長袖コンプレッション」にしています。アームカバーを外して空調服を脱げば、Tシャツ一枚のカジュアルな格好に“変身”できる。この組み合わせスタイルはレジャーや行楽なんかにいいですよ。
 
  メ:パンツもハーフパンツとレッグカバーと組み合わせて「なんちゃってレギンス」にすれば、手軽に調節できていいですね。仕事が終わればすぐリゾートスタイルになれる!
 
  編:デバイスは高価だから何個も買うわけに行かないけど、ウェアならいろんな種類をそろえておくのも手ですね。ベストに加えて長袖や半袖を作業内容によって使い分けたり、気分をアゲたいときは派手な柄物のほか、アウトドア系・ミリタリー系のものを着てみたりとか。
 
  ●ウェア選びの自由度
 
  --「着こなし」についてショップとしてのご意見はいかがですか?
 
  店:少しだけ補足させてもらうと、デバイスを取り付けるウェアの選択って、意外と自由ですよね。ウェア後方のファンを取り付ける穴のサイズは、どのメーカーも直径10cmだから……。
 
  メ:あ、それ言っちゃいます? メーカーの立場としてはねぇ……、何が言いたいかわかりますよね?
 
  店:す、すみません。ただ現実に、空調服デバイスを独立系のウェアに取り付けたり、また独立系のデバイスを空調服や風神服用に売られているウェアに取り付けたりして使っている人はいる、といった話です。もちろんメーカーは推奨していませんし、ファンがポロッと取れて壊れる危険もあるので、自己責任でやっていただきたいのですが。もし、お気に召すウェアが見つからないなら、ほかのメーカーの商品を探す手もある、ということはお伝えしておきたいです。
 
  編:ファンとバッテリーは電気製品なので純正同士を組み合わせないと怖いですけど、ウェアはまあ、ちゃんと固定できてるかくらい見ればわかりますよね。もちろん、高所作業で使う場合なんかには非公式な組み合わせはなるべく避けてほしいというのはありますが。
 
  店:落下防止用のネットが付いているウェアを選ぶといった手もありますね。
 
  --ウェア選びではどんなことに気をつけるべきでしょうか?
 
  編:まずは、ウェア内にちゃんと風が回るサイズを選ぶこと。Mサイズがジャストフィットの人ならひとつ上のLサイズを選んだほうがいいですね。あとは細かい話ですが、「風抜け」に対する考え方も会社によって微妙に違うんですよ。ウェアを膨らませて首元や袖口からまんべんなく風を逃がそうとするメーカーもあれば、首の後を膨らませて煙突のように風をガンガン出すのが涼しいんだ、というメーカーもある。人気のベスト型でも、脇の下部分をメッシュにしてリンパ管に風を当てる仕組みを作ったりとか、どこも同じように見えるけれど、ウェアの方も意外といろんな工夫があるんです。
 
  店:付け加えておくと、空調風神服は「風まわり」に独特の考え方があって、この業界では唯一「斜めファン」の商品を展開しています。これはファンに角度がついていて、通常なら体に直角に当たるはずの風向を操作できるというものです。ウェアへの取り付け方によって、上向きにも下向きにもできるし、風を前に回すなんてこともできる。これ、使い方によってはけっこうおもしろい商品だと思います。
 
  編:たとえば、風でお腹が冷えると困るとか、顔に風をもっと強く当てたいとか、風抜けや風まわりは数え切れないくらいのニーズがありますから。結局は「好み」の問題でもあるので、納得できるものが見つかるまで、カタログを取り寄せたりお店で試着したりして、どんどん探求していくのがいいと思います。
 
  店:そうですね。作業時にフルハーネスを着用するお客様もいれば、フォークリフトや重機のオペレーションをするユーザーさんもおられる。通勤時のバイクや自転車で使いたいという方もいらっしゃると思うんです。ひとくちにファン付きウェアと言ってもいろんなタイプがあるので、各社の商品をチェックしてみてほしいですね。
 
  メ:で、迷ったときはウチの商品を買っとけば間違いない(笑)