【中級編】熾烈化するパワー競争image_maidoya3
「宴もたけなわ」ではないけれど、ファン付きウェアをめぐる会話はどうしたって熱を帯びてくる。「そもそもあの会社が××したわけでね」「いや、あそこの△△は意外と悪くないって」「新型の○○って実際どうなの?」「□□なんてやっちゃユーザーさん怒るって!」といった具合に、話はどんどん広がる一方でまとまる気配はない。しかし、全体像を語るだけで、すでに今月号の三分の一を費やしてしまっている。--この場で絶対に語っておくべきことは何か。今こそ参加者の知恵が問われていた。ヒートアップする議論の中、まるで空調服の風が首の後ろで収束して吹き抜けていくように(※ここでしか使えない比喩表現)3人が到達した「本当に大事なこと」とは?

中級編
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パワー競争の話で盛り上がる
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各社のスペックを比較する
●新型デバイスのスペック
 
  --さて、そろそろ2022年のデバイス事情について語っていきたいんですが、あれ? みなさんどうしたんですか。急に暗い顔になっちゃって……。
 
  編:うーん、風量については「カタログの数値を見てください」としか……。
 
  店:あ、私から説明しましょう! 先ほど述べた通り、ファン付きウェアは風で汗を気化させる仕組みですから、風量が多いほうが涼しくなります。だいたいどこのメーカーも左右にファンを取り付けた場合の「1秒あたりの風量」を公表しているので、「とにかく涼しいのが欲しい」という人は、この数値が大きいデバイスを選んでください。
 
  --2022年は多くのメーカーが新型デバイスを投入していますが、風量で比較するとどうですか?
 
  店:カタログ上の数値を比較すると、クロダルマの「エアセンサー」が毎秒86リットルでナンバーワンです。その下は桑和が毎秒85リットル、バートルが毎秒80リットル、村上被服の78リットルと続きます。とは言いつつも、ここまで来たらほとんど違いはないような気もしますけど。
 
  メ:空調服の最新デバイスは毎秒76リットルで、数値だけを見ると劣ってるように感じますよね。でも、この数値ってそもそも全メーカー同じ条件でテストしたわけでもなくて、あくまで自社調査なんですよ。まずそこを押さえておく必要がある。で、ついでに言っておくと「風量が多いと涼しい」のはおおむね同意しますけれど、果たして「風量が多ければ多いほど涼しい」かどうかは、綿密に調査した上で検討してみるべきじゃないでしょうか。今でも売っている空調服の2018年型のデバイスは毎秒48.8リットルで、このスペックでもじゅうぶん効果はあるわけですから。
 
  --はぁ、しかし一方でメーカーはバッテリーが何ボルトかも強調しています。
 
  編:高ボルトのバッテリーを使えばファンを回すパワーが強くなることは間違いない。同時に風量も増えるし、ハーネスや荷物なんかでウェアが押さえつけられた場合の「反発力」にもなるでしょう。しかし、ボルト数が高いほど涼しいかと言うと、これは主観の問題だと思います。「さすが最強クラスの×ボルトだ、ガンガン風がくる!」と思うなら、その人にとっては涼しいんでしょうし、稼働中のファンの音も「すげぇ! なんて高速回転だ!」と思うなら、より涼しいと感じるんじゃないでしょうか? なんだか禅問答みたいになってきましたが。
 
  メ:まあ「業界最高の×ボルト」は売り文句としてわかりやすいから……。
 
  店:うん、この話はもうやめましょうか(笑)
 
  ●稼働時間は超重要!
 
  --デバイスを選ぶとき、風量やボルト数のほかにチェックしておくべきことはありますか?
 
  メ:作業着メーカーとしては、稼働時間は必ず考慮してほしいですね。仕事中にバッテリーが切れてしまうようでは、ワーキングウェアとは呼べません。つまり8時間勤務の建設現場で昼休みの1時間は電源をオフにするとして、7時間は稼働できないとダメってことです。空調服の最新デバイスは、最強で回し続けるモードだと5時間も持ちませんが、「ゆらぎモード」という11ボルトと8ボルトが定期的に切り替わる設定で使えば、7時間くらい稼働できます。昼休みに継ぎ足し充電ができるなら、まあ盤石ですよね。
 
  編:「ゆらぎモード」使ってますよ! これ、風が強くなったり弱くなったりするから、山に登っているとき気持ちいい風が吹いたときみたいに「お、涼しい~♪」ってなるんです。ただ風量をアップさせるんじゃなくて、メリハリをつけることで主観的な涼感をアップさせている。しかもバッテリーも節約できるし、いいアイデアだと思いました。音もそんなにしないので、前を歩いている人が振り返るようなこともありません。
 
  メ:あとは充電時間! これも大事ですよー。編集長がお使いのデバイスは専用の急速充電アダプタを使うことで3時間でフル充電できます。充電に8時間くらいかかる商品も多いですけど、これなら充電を忘れたまま寝ちゃった場合でも、夜中にトイレに行ったり、たまたま早起きしたりしたタイミングで気づけば、なんとかなる。充電を忘れたまま現場に入っちゃうとキツイですよー。
 
  店:バートルの2022年モデルも急速充電できるようになってますが、まあバッテリーは同じものを2つ買ってローテーションさせるのが一番安心でしょうね。
 
  --バッテリーに対してファンはどうでしょう?
 
  店:ファンは先ほど編集長が少し触れたように、稼働音をチェックすることに加えて、私はデザインも意外と重要なんじゃないかと思っています。先ほどから編集長が語っている空調服の新型ファンも、デザイン的に旧モデルからかなりカッコよくなったものです。扇風機や換気扇のようなイメージだったのが、蜘蛛の巣を思わせる有機的デザインのカバーが付いたイマドキのギア感があるものに刷新されました。色もレッドやチャコールグレーが加わって所有欲を満たせるアイテムになってきました。
 
  メ:ファンはウェアの一部になるものですから。やはりオシャレなものや人と違うものが欲しくなるのが人情でしょう。空調服の最新ファンでも寅壱限定カラーのものが大人気と聞いてます。
 
  ●ファンとバッテリーのデザイン性
 
  --「売る側」としてはデバイスのデザイン性について、どんなふうに見ていますか?
 
  店:この分野では、なんといってもバートルでしょう。毎年、ファンのカラーリングにはものすごく力を入れていて、2022年モデルはブラックに加えて、オーシャンブルーやスパイダーレッド、そして限定カラーとしてレスキューオレンジも登場しました。こういう派手なカラーなら、どんな色柄のウェアと組み合わせてどんなふうに着こなすか、ユーザーとしても考え甲斐がありそうです。
 
  編:オレンジいいですよね! エリート部隊、レスキュー隊のカラーですよ。いかにもプロっぽくて仕事のモチベーションが上がりそう。
 
  店:さらに、バッテリーやケースのデザイン性もおろそかにしないのがバートルのすごいところです。2022年モデルはブルーのバッテリーが登場しました。バッテリーなんて結局ウェアの中に隠れちゃうじゃん、って思うかもしれませんが、操作や着脱のために出し入れするとき、そして充電後にケーブルをつないで出かけていくときなんかに「お気に入り」のものに触れることって、けっこう重要だと思うんです。べつに100円ライターでもいいのにポケットにはジッポーを入れておきたい感覚というか。
 
  編:うわ、深いなぁ……。その点、空調服のバッテリーは実用一点張りで“遊び”がないですよね。ベルトに固定できる付属のバッテリーケースも、バートルのアタッシェケースみたいなやつと比べるとややチープだなぁ、と。まあ、バートルのバッテリーケースは「別売り」だから、比べちゃダメなのかもしれないですけど。
 
  店:あと、バッテリーのデザイン性では、クロダルマの2022年版エアセンサーもクールですね。ボタンは真ん中にひとつだけで「長押し」でON・OFF。カチッと押すごとに風量が切り替わる。これなら取り出さずにポケットの中で操作しても、ボタンを間違える心配がありません。
 
  編:たしかに、空調服は間違えてターボモードのボタンを押してしまうことがありました。いきなりすごい音がして、前を歩いている人がみんな振り返る(笑)
 
  メ:僕からもひとこといいですか。デザインとは少し違いますが、買うときはファンの厚みも考慮したほうがいいですよ。クルマの席や背もたれのあるイスに座ったときなんかに、厚みのあるファンは背中にゴリっとくる。まあ、2022年の最新モデルはほとんどのメーカーのファンが薄くなって4cm前後になってますけどね。
 
  編:もうひとつ「着脱のしやすさ」もすごく大事です。ウェアからファンやケーブルを取り外して洗濯して、また取り付けて配線して……っていう行為。これを大げさに言うと何百回もやることになりますから、少しでもラクにできるものを選んだほうがいいです。
 
  ●互換性をめぐって
 
  --個人的に気になっているのはメンテナンス性です。たとえば現場でホコリだらけになったファンの掃除はできるんでしょうか?
 
  店:これはメーカーによってまったく違います。扇風機のようにフタを開けて羽を取り外して洗えるのは、村上被服の「HOOH快適ウェア」。これが私の知る限りもっともメンテナンス性のいいファンです。そしてバートルも2022年モデルから水洗いに対応しました。こちらはフタは開けず、電気に関わる部分をパッキンで閉じてから水道水でじゃぶじゃぶやる。あまり強い水流はやめておいたほうがいいそうです。
 
  メ:お掃除ですか……。空調服はそういったメーカーとは思想がまるっきり違いますね。もういじらないでください、故障の原因になるのでファンには一切触れないでください、という立場です。みんな隙間から綿棒を突っ込んだり、エアーガンでホコリを飛ばしたりしたがるんですけど、絶対にやめてください。あの小ささで大量の風を作り出す空調服の羽根は、ひじょうに緻密で精巧なものなんです。だから素人がむやみに触っちゃいけません、と。ホコリだらけになるのが嫌ならフィルターをつけるといいですよ。
 
  編:私も無意識にエアダスターをかけそうになったことがありますが、なんとか思いとどまりました。まあ左右のファンだけなら5000円くらいで買えるし、空調服のファンは消耗品と考えたほうがいいのかなって感じです。
 
  --あとデバイス選びで注意すべき点はありますか。
 
  店:お客様には「互換性」のことを頭の片隅に置いていただければ、と。たとえばバートルのエアークラフトの場合、2021年モデルのバッテリーで2022年モデルのファンを稼働させることはできません。つまり、2021年モデルのエアクラをお使いのユーザーは、ファンが壊れたからといって新型ファンを買ってはいけないわけです。選択肢は「互換性のある旧型ファンを買う」か「バッテリーごと2022年モデルに買い換える」か、になります。
 
  メ:去年のバッテリーが今年のファンに使えない、というのは激化するパワー競争の帰結ですよ。毎秒××リットルの大風量を実現するためには、バッテリーのボルト数やモーターの性能を上げざるを得ない。毎年パワーアップを重ねていくと、どこかのタイミングで「ごめんなさい、新型ファンは旧型バッテリーでは動かせません」となってしまう。
 
  編:空調服でも2021年発売の最新デバイスは、旧モデルのファンやバッテリーとの互換性がなくなってしまいました。私は旧型デバイスを持っていないので関係ないんですけど、ガッカリした人もいるでしょうね。こんなふうに、だいたいどこのメーカーでも数年で互換性が切れちゃう。その点、村上被服は2018年からずっと互換性を維持していてスゴイな、と。
 
  --「互換性が切れた」というのは、まだファン付きウェアを持っていない人から見れば……。
 
  店:ご明察。お買い求めにはちょうどいいタイミングです。別の言い方をすれば、2022年版のエアークラフトは「互換性を犠牲にしてまで実現した高機能デバイス」なわけです。それに明言こそしませんが、メーカーは「また数年は互換性を維持したい」と考えているでしょう。じゃないとお客様が離れていきますよ。
 
  編:2022年は、空調服・エアークラフトの二強に、エアセンサーなど独立系まで、多くのファン付きウェアで互換性が切れたわけですね。というわけでいってみましょう。じゃ、いつ買うか!?
 
  店:今でしょ! ……って古くないですか?