【寅壱】「デニムの次」魅せます!image_maidoya3
もともと児島は日本人より外国人に人気だった。身も蓋もない話をするとジーンズストリートで売られている「国産ジーンズ」は高すぎるからである。決して日本人に買えないわけではないけれど、明らかに長時間のフライトを経て来日した欧米人のほうがたくさん買っている。旅行でサイフの紐がゆるくなるのもあれば、「ここでしか買えない!」といった意識もあるだろう。その結果、おのずと児島にはインバウンド向けの高級店が増えてくる--。そこに2020年、新型コロナが襲いかかり購買層の外国人がゼロになってしまった。2022年10月現在、児島のジーンズストリートはシャッターが目立つものの、水際対策が緩和されたおかげで外国人の姿もちらほら。ジーンズの街・児島にも復活の兆しが見えてきた。その一方で、この街を代表する作業服メーカーは「デニムの次」を見据えているのだった。

寅壱
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3550シリーズを語る内田さん
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腕章ループと大型ペン差し
●「着る」から「作る」へ
 
  「こんにちは~♪」と軽いノリで現れたのは、商品企画部の内田さん。今回、本誌でおなじみのデザイナー・内藤氏に代わって秋冬コレクションの見どころを語ってくれるという。『月刊まいど屋』初登場ということで、さっそく自己紹介してもらおう。
 
  「どうも内田です。私はまだ寅壱に来て2年目の転職組なんですが、同業他社やアパレルからではなくてですね……。ちょっと長くなりますけど、いいですか?」
 
  ごぞんじの通り本誌の記事はウンザリするほど長いので、脱線は大歓迎だ。「好きなだけ語っちゃってください」と促すと、内田さんはユニークな経歴を振り返りはじめた。
 
  「じつは九州の佐賀県出身なんです。父が庭師というか、造園と土木の職人だったんですよ。それで毎日、乗馬ズボンを穿いて仕事している親父たちを見て、こういう職人的なスタイルってかっこいいなぁ、と思いまして。それで学生時代から解体工事とかガテン系のバイトをするようになりました。これがまあ作業服との出会いというか、私の原点ですよね」
 
  なるほどそれで寅壱に……、と思ったらまだ紆余曲折があった。
 
  「それで、やっぱり和の職人がいいな、と思って岐阜県の花火職人のもとで働くことにしました。花火師といっても花火を作るだけじゃなくて、会場設営とか発射台まわりの整備とか、いろいろ現場仕事があるわけです。で、そこで初めてニッカズボンを穿くようになった。これが寅壱との出会いです。ついに、父の乗馬ズボン姿のような憧れのスタイルで働けるようになったわけで、うれしかったですね。現場では同僚とウェア選びや着こなしについて語り合ったりもしました。やっぱり白がカッコいい、と思って新品のニッカで現場に入ったら『おまえみたいなペーペーが白を穿くな!』と怒られたりして(笑)、そういう日本独特の作業着カルチャーも面白いなぁ、と」
 
  都会的で穏やかな物腰の内田さんは、もともとバリバリの職人だったのだ。
 
  「それから東京に出て、舞台やコンサートの設営から演出・撮影までやるようなイベント関係の会社で7年くらい働きました。これもヘルメットに作業服というハードな現場仕事だったんですが、続けているうちに『自分はイベントそのものより作業服を着ているのが好きなんだな』と気づいてしまいまして……、じゃあワークウェアを着るより作る方に回ったほうがいいんじゃないか、と。ちょうど大好きな寅壱の求人が出ているのを見つけて『自分の可能性を追求しよう!』と決めたわけです」
 
  ●現場視点の「腕章ループ」
 
  ミイラ取りがミイラになるが如く、着る側から作る側になった内田さん。いくらワークウェア好きとはいえ、生地やデザインといった洋服作りの専門知識がないことはネックにならなかったのだろうか。
 
  「そのへんは明らかに弱点ですね。でも、縫製とか染色・加工、ファッションのトレンドとか、めちゃくちゃ詳しい人はすでに商品企画部にいますから。じゃあ私の役割は何かというと、商品開発に着る側の視点を加えていくこと。自分自身が現場で働いていたときの経験はもちろん、ワーカーから聞いた声を商品に反映させていくわけです。ほかにも、昔の職人仲間にサンプルを渡して『この機能はどうかな?』『このデザインどう思う?』といった具合に意見を聞いて回ったりもしています。基本的なことですけど、ユーザーの声を聞くのは大事です。で、そういった情報を今度は商品づくりに結び付けるためにも、特殊な素材や最先端の技術といった知識を持つ先輩たちにどんどん助けてもらいます(笑)」
 
  そして「ユーザー視点の機能というと、たとえばコレですね」と言いながら内田さんが取り出したのは、新商品の上下作業着「3550シリーズ」。どちらかといえば機能よりデザイン重視に見える商品だが、一体どういうことなのか。
 
  「左肩のペン差しの上に、小さなループがあるでしょう? これ、カタログでは説明してないんですけど、腕章をつけるためのものなんです。普通は安全ピンをそのまま袖に刺すわけですけど、私が職人だったときはこれがイヤだったんですよ……。一度や二度ならいいけれど、毎日やってると穴が広がってきたりするじゃないですか。お気に入りのウェアをピンで傷めたくないよね、というわけで、腕章ループを取り付けました」
 
  これはちょっとスゴい。名札や社員証を取り付けるためにナース服や事務服には標準装備されているミニループ。これが作業服にも求められているとは、考えたこともなかった。デザイン上も自然というか、むしろアクセントとしてプラスになっている点もいい。まさに「技あり」な設計といえる。
 
  ●ムラ染めの表情
 
  ほかにも「3550シリーズ」には、ユーザー目線の機能が搭載されているという。
 
  「ペン差しにもこだわりました。上着だけにあるパターンが多いですけど、このシリーズではパンツにも付けています。上着を脱いでるときとか、どんな状況でもペンを持ち歩けるようにするためです。ここにはマッキー(現場でよく使う太い油性マーカー)がすっぽり入る。しかもパンツのペン差しは奥まで入って取り出しにくくならないように浅くしてあります。上下ともポケットにフラップ(フタ)やジッパーを付けなかったのも、クイックに出し入れできることを重視したからですね。デザイン性を追求した商品のように見えて、じつはものすごく機能重視のウェアなんです」
 
  マッキーはインクの出がひじょうに良くて、仕事では重宝するペンである。ただ少し困ったヤツで、太すぎて普通のペン差しには収まらない。また、ボールペンのようなクリップが付いていないので、作業台に置いておくとあちこち転がっていくし、カバンや腰袋なんかに入れると底の方まで入り込んでしまう。ところが、ウェアの上下のペン差しに入るなら、作業に応じて収納場所を変えたり色違いで2本を携帯できたりといったことも可能になる。ゼブラ株式会社は内田さんに感謝状を送るべきだろう。
 
  機能面のこだわりはわかった。続いて「3550シリーズ」のデザイン上の特徴について聞いていこう。
 
  「最大のウリは、サテンのように滑らかな生地とムラ染めです。作業服らしい武骨さがありつつ、落ち着きや品の良さも感じさせる。ウェアの形に縫製してから染色した「製品染め」をバイオ加工してあるので、ひとつひとつ色味が違います。このムラの豊かな表情を味わってもらうためにも、外観はシンプルにまとめ上げました。ほら、背中なんて完全に生地そのままです」
 
  うーん、やられた。寅壱といえばデザイン性が売りで、アクセント的なポケット使いやステッチワークを多用するイメージがあったが、こちらはまったく違う路線である。例えるなら、着物のように、装飾やシルエットよりも生地の風合いや発色を楽しむウェアといえるかもしれない。
 
  ●ワンマイル作業着?
 
  続いて、内田さんが紹介するのは「9276シリーズ」。先程のオーセンティックな作業着とは打って変わって、こちらはニット製のスタンドカラージャケット。素材はめちゃくちゃカジュアルなのに、リラックスしすぎず、ちゃんと仕事着に見える。ちょっと不思議な印象のウェアだ。
 
  「最大の特徴はコーデュラナイロン糸を配合していることです。よく伸びて着心地もいいニット素材ですが、作業着にするには耐久性に問題があるので、コーデュラニットで作りました。綿100%のニットよりずっと軽い上に、摩擦に非常に強くなっています。最近よく見るコーデュラですが、このウェアに使われているのはミリタリーの分野で使われている最高スペックのもの。だから見てください、タグが普通の黒いヤツとは違うでしょう?」
 
  さらに特徴的なのは、対応するパンツである。裾をゴムで絞るタイプの「カーゴジョガー」の一種類で、通常スタイルのものがない。これにはどのような狙いがあるのだろう。
 
  「さきほど3550は作業服として企画したのに対して、こちらは仕事以外でも着られる“ワンマイルウェア”をイメージしています。ちょっと近所に出かけるときのような服ですね。ターゲットも建設や土木というよりは、軽作業や物流施設などの屋内系です。そんな狙いもあってパンツもピッタリしたシルエットじゃなくて、お尻に余裕をもたせたテーパードタイプにしました。足さばきがよくて作業性も高い一方、ニットの柔らかさと軽い着心地でリラックスもできる。ポケットの中はメッシュで通気性もいい。配色がシンプルでベルト用のループもあるので、仕事から遊びまで幅広く使えます」
 
  まとめれば、最新鋭ワークウェアの「3550」に対して、「9276」は一般アパレル寄りのウェアと言える。ただし、こんなターゲティングをしておいて耐久性や強度は作業着の中でも最強クラスなんだから、面妖としか言いようがない。商品企画チームはどんなことを考えているのか。
 
  「うーん、みんな“デニムの次”を考えてますね。ムラ染めにしろコーデュラニットにしろ、デニムじゃ物足りなくなったお客さんを狙った企画です。ストレッチデニムの作業着はもはやありふれたアイテムになってしまったし、タイトでスタイリッシュなものは着る人が限られる。じゃあデニムに代わる素材はなんだ? だれでもカッコよく見えるシルエットってどんなの? と考えて3550や9276が生まれました。普通に考えれば、商品によって染まり方が違うムラ染めや、リラックス感のあるニットなんて手を出さない分野ですけど、あえてやる。パンツも9276のテーパードシルエットのように新たな形にチャレンジする。もちろんデニムにも力を入れていますが、寅壱は常に次の展開を仕掛けていく、ということです」
 
  「コロナ明け」が囁かれ、児島の街は賑わいが戻りつつある。寅壱が吹かせる新しい風にも期待だ。
 
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ムラ染めの表情が楽しめる
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「春夏もご期待ください!」

    

「ムラ染め」の色気に酔い痴れろ! 機能性もパーフェクトな「3550シリーズ」

ハンドメイド感のある製品染めが特徴の上下作業服。ストレッチ仕様の生地はサテンのような光沢もあり高級な雰囲気。ひとつひとつ違う染色のムラが上質な表情を引き立てる。フタやジッパーのないポケットはアクセスよし。上下ともペン差し付きなので急なシチュエーションでも安心。


スポーティな顔が現場で輝く! 軍モノ仕様の最強ニット「9276シリーズ」

ミリタリー衣料に使われる高品質なコーデュラナイロン糸を使用した高耐久なニット作業服。一般的な織物の作業服より軽量でストレッチ性も文句なし。カジュアルな見た目ながら、摩擦や引き裂きに対する耐久性は本格ワーキング仕様。パンツはヒップまわりにゆとりをもたせたテーパードシルエット。