岡山県井原市高屋町--。この文字にピンとくる人は筋金入りのファッション通、あるいは悪魔も逃げ出すワークウェア中毒者に違いない。広島県福山市に接するこの県境の地は、江戸時代から続く繊維産業の街。丈夫でなめらかな木綿生地「備中小倉織」の生産地として名を馳せ、製品は古くは備後絣として、戦後にはデニムとして広く親しまれてきた。現在は「ジーンズのふるさと」と呼ばれ国内外の観光客が訪れる。つまり「ジーンズの街」が児島なら、その前段階である「デニム生地の街」が井原というわけだ。さらに、そんな井原市の中核をなす山陽道の宿場町「高屋町」で1894年に生まれた織物工場こそ、今回とりあげるタカヤ商事のルーツなのである。井原がなければ、1960年代のジーンズブームも現代のストレッチデニム作業服も存在しなかったわけで、デニム好きはもう井原に足を向けては眠れない! というわけで、編集部はタカヤ商事・本社にお邪魔した。
タカヤ商事
西国街道沿いのタカヤ商事本社
デニム作業着はもう目玉商品
●一般アパレルの蓄積
「秋冬コレクションの目玉? やっぱりデニムでしょう。デニムを語らせたらウチはなかなかうるさいですよ。なんせ昔からのジーンズ屋だから」
こう語るのはワークウェア事業部の後藤さん。じつは、タカヤ商事はそもそも一般アパレルのメーカーで、現在も婦人服と作業服を並行して世に出している少々珍しい会社なのである。そんなわけで、いま流行りのデニム作業着を作り始めたのは近年の話だけれど、「デニムの服」自体は大昔からずっと作り続けてきたのだ。
「井原では1960年代からデニムを国内生産していまして、70年代のジーンズブームの頃はとくに活況でした。当社は1979年、ジーンズが男性の服だった時代に国内初となる女性専用のジーンズブランド『Sweet Camel』を立ち上げています。現在でもデニムのファッションアイテムをたくさん手掛けており、ワークウェアにも一般アパレル部門の“デニム部隊”のノウハウを結集させています。代表例を挙げるなら、4、5年前に発表したデニムジャケット『GC-A700』ですね」
GC-A700はタカヤのデニム作業着の原点とも言える一品。ワーカーだけでなくデニム好きからの評価も高い。ただ、開発にあたっては迷いもあったという。
「長年、カジュアル衣料のジーンズを作ってきて、弱点もわかっていましたから。綿のデニム生地はハードな作業だと破れちゃうし、色落ち加工なんかもバラツキが出てしまう。はっきり言ってユニフォーム向きじゃない。つまりデニム屋としての自負があるからこそ、中途半端なものは出せない、と見送っていたわけです。ところが、その後もストレッチデニムの作業着は次々と出てきて、市場はどんどん大きくなってきた。完全にワークウェアのひとつのジャンルになってしまった以上、もう指をくわえて見てるわけにもいかないだろう、と。デニムのノウハウを持つ当社だからこそ、本当にいいストレッチデニム作業着をものにするんだ! というわけで生まれたのが、GC-A700から始まったデニムのシリーズなんです」
●「デニムらしさ」を大切に
このように満を持して登場したデニム作業着。その最新作こそ、2022年秋冬コレクションのデニムジャケット『GC-A600』とデニムカーゴ『GC-A612』の上下だ。パッと見た感じ、多くのメーカーが発表しているストレッチデニム作業着より大人っぽい印象を受ける。これが一般アパレルで培われたデザイン性なのだろうか。
「シルエットはかなり研究しました。他社はスキニージーンズをベースにしたものが多いのに対して、この商品は少し細身でゆとりを持たせてあります。やはり作業着なので若い人以外でも着られるようにしたかった。さらに、オーセンティックな見た目や手触り、つまりデニムならではの表情を守りたかったのが大きい。こちらは綿でできた普通のデニム生地のように見えるのに、ちゃんとストレッチ性もある。しかもコーデュラナイロン糸が入っているので耐摩耗性もバツグンです」
なるほど、言われてみればストレッチデニムのアイテムは、ものによっては“ポリウレタン丸出し”というか「のびのびのウェア着てます!」って感じになってしまう。とくにゴツい体の人が着ると、デニム風プリントを施したタイツのように見えてしまうことがしばしばあるのだ。このアイテムはシルエットに加えて“デニムらしい生地の表情”という面でも、そんな危険から逃れている。要するに、安っぽく見えないように配慮してあるのだ。
「これまでのデニム商品と比べて、こちらは動きやすさ優先です。耐久性があるのに、生地は薄くて軽く肌触りもソフト。シルエットもスタイリッシュなので、オールシーズン着られる。デニム作業着の新定番と言えるモデルです」
●ジーンズの作業パンツ?
さらに「新作のデニムはまだあります」と後藤さんが取り出したのは、限定品のリラックステーパード『GC-A912』。こちらは上下もの作業着ではなく、パンツ単体の商品だ。デニムの作業ズボン……って、それ要するにジーンズだよね? という話になるはずなのだが、どう見てもジーンズとは一線を画する上、さきほどのカーゴパンツとも毛色が違う。なんともユニークなアイテムだ。
「最大の特徴はリラックスシルエットです。腰回りから膝までゆとりをもたせて、膝から裾に向かって細くなるテーパードタイプ。ウエストにはゴムも入れてあるので、体形を気にせず快適に着てもらえます。左右の大型ファスナーポケットに加えて、左腿と左右のおしりのダブルポケットなど、収納力の高さもウリです」
作業パンツとしての機能性はわかった。では、デニムのアイテムとしてはどんな特徴があるのか。
「この商品では、アパレル事業の“デニム部隊”がとくに頑張ってくれました。この加工感と色落ちはデニムメーカーじゃないと出せません。ひとつひとつ手作業で引っ張ったり擦ったりしながら、ヒゲやハチノスと言われるジーンズの持ち味を引き出しています。私も正直、おおっ、ここまでのものができたか……、と思いました。デニムメーカーの一員として誇りを感じますね」
本音を言えば、編集部はジーンズの色落ちのこだわりについてはよくわからない。ただ、加工にものすごい手間がかかっていることはわかる。そしてそれが、そこらへんのウェアとは違うんだ! といった“いいもの感”につながっていることも。
「デニムの作業着はひとつのジャンルになった、とさきほど言いましたが、いまや蔓延しすぎの感もあります。デニムに飽きたという声もあるし、もっと高品質なアイテムを求めるユーザーも出てくるでしょう。つまり、これから淘汰が始まるわけです。当社はデニム作業着では後発ですが、デニムメーカーとしては老舗。カジュアル衣料で培った技術を発揮して、ファッション性があって長く売れる商品を作っていきます」
本物志向のデニム好きは、タカヤを見逃さないように。
「秋冬コレクションの目玉? やっぱりデニムでしょう。デニムを語らせたらウチはなかなかうるさいですよ。なんせ昔からのジーンズ屋だから」
こう語るのはワークウェア事業部の後藤さん。じつは、タカヤ商事はそもそも一般アパレルのメーカーで、現在も婦人服と作業服を並行して世に出している少々珍しい会社なのである。そんなわけで、いま流行りのデニム作業着を作り始めたのは近年の話だけれど、「デニムの服」自体は大昔からずっと作り続けてきたのだ。
「井原では1960年代からデニムを国内生産していまして、70年代のジーンズブームの頃はとくに活況でした。当社は1979年、ジーンズが男性の服だった時代に国内初となる女性専用のジーンズブランド『Sweet Camel』を立ち上げています。現在でもデニムのファッションアイテムをたくさん手掛けており、ワークウェアにも一般アパレル部門の“デニム部隊”のノウハウを結集させています。代表例を挙げるなら、4、5年前に発表したデニムジャケット『GC-A700』ですね」
GC-A700はタカヤのデニム作業着の原点とも言える一品。ワーカーだけでなくデニム好きからの評価も高い。ただ、開発にあたっては迷いもあったという。
「長年、カジュアル衣料のジーンズを作ってきて、弱点もわかっていましたから。綿のデニム生地はハードな作業だと破れちゃうし、色落ち加工なんかもバラツキが出てしまう。はっきり言ってユニフォーム向きじゃない。つまりデニム屋としての自負があるからこそ、中途半端なものは出せない、と見送っていたわけです。ところが、その後もストレッチデニムの作業着は次々と出てきて、市場はどんどん大きくなってきた。完全にワークウェアのひとつのジャンルになってしまった以上、もう指をくわえて見てるわけにもいかないだろう、と。デニムのノウハウを持つ当社だからこそ、本当にいいストレッチデニム作業着をものにするんだ! というわけで生まれたのが、GC-A700から始まったデニムのシリーズなんです」
●「デニムらしさ」を大切に
このように満を持して登場したデニム作業着。その最新作こそ、2022年秋冬コレクションのデニムジャケット『GC-A600』とデニムカーゴ『GC-A612』の上下だ。パッと見た感じ、多くのメーカーが発表しているストレッチデニム作業着より大人っぽい印象を受ける。これが一般アパレルで培われたデザイン性なのだろうか。
「シルエットはかなり研究しました。他社はスキニージーンズをベースにしたものが多いのに対して、この商品は少し細身でゆとりを持たせてあります。やはり作業着なので若い人以外でも着られるようにしたかった。さらに、オーセンティックな見た目や手触り、つまりデニムならではの表情を守りたかったのが大きい。こちらは綿でできた普通のデニム生地のように見えるのに、ちゃんとストレッチ性もある。しかもコーデュラナイロン糸が入っているので耐摩耗性もバツグンです」
なるほど、言われてみればストレッチデニムのアイテムは、ものによっては“ポリウレタン丸出し”というか「のびのびのウェア着てます!」って感じになってしまう。とくにゴツい体の人が着ると、デニム風プリントを施したタイツのように見えてしまうことがしばしばあるのだ。このアイテムはシルエットに加えて“デニムらしい生地の表情”という面でも、そんな危険から逃れている。要するに、安っぽく見えないように配慮してあるのだ。
「これまでのデニム商品と比べて、こちらは動きやすさ優先です。耐久性があるのに、生地は薄くて軽く肌触りもソフト。シルエットもスタイリッシュなので、オールシーズン着られる。デニム作業着の新定番と言えるモデルです」
●ジーンズの作業パンツ?
さらに「新作のデニムはまだあります」と後藤さんが取り出したのは、限定品のリラックステーパード『GC-A912』。こちらは上下もの作業着ではなく、パンツ単体の商品だ。デニムの作業ズボン……って、それ要するにジーンズだよね? という話になるはずなのだが、どう見てもジーンズとは一線を画する上、さきほどのカーゴパンツとも毛色が違う。なんともユニークなアイテムだ。
「最大の特徴はリラックスシルエットです。腰回りから膝までゆとりをもたせて、膝から裾に向かって細くなるテーパードタイプ。ウエストにはゴムも入れてあるので、体形を気にせず快適に着てもらえます。左右の大型ファスナーポケットに加えて、左腿と左右のおしりのダブルポケットなど、収納力の高さもウリです」
作業パンツとしての機能性はわかった。では、デニムのアイテムとしてはどんな特徴があるのか。
「この商品では、アパレル事業の“デニム部隊”がとくに頑張ってくれました。この加工感と色落ちはデニムメーカーじゃないと出せません。ひとつひとつ手作業で引っ張ったり擦ったりしながら、ヒゲやハチノスと言われるジーンズの持ち味を引き出しています。私も正直、おおっ、ここまでのものができたか……、と思いました。デニムメーカーの一員として誇りを感じますね」
本音を言えば、編集部はジーンズの色落ちのこだわりについてはよくわからない。ただ、加工にものすごい手間がかかっていることはわかる。そしてそれが、そこらへんのウェアとは違うんだ! といった“いいもの感”につながっていることも。
「デニムの作業着はひとつのジャンルになった、とさきほど言いましたが、いまや蔓延しすぎの感もあります。デニムに飽きたという声もあるし、もっと高品質なアイテムを求めるユーザーも出てくるでしょう。つまり、これから淘汰が始まるわけです。当社はデニム作業着では後発ですが、デニムメーカーとしては老舗。カジュアル衣料で培った技術を発揮して、ファッション性があって長く売れる商品を作っていきます」
本物志向のデニム好きは、タカヤを見逃さないように。
色落ちについて語る後藤さん
|
新作では「デニム以外」も用意
|
職場はもっとアクティブに! 軽量&フォーマルなジャケット「TW-A185」 どんな現場にも合うシンプルなルックスの作業着ジャケット。フォーマル感もあるので、屋外作業だけでなくオフィスや外回りでも活躍。コシのあるストレッチ仕様のツイル生地は撥水性のあるテフロン加工を施しており、油や汚れも付きにくい。安全を意識して両脇ポケットはファスナー付き。 |
|
“デニム屋”が作るとこうなった! ストレッチ作業服「GC-A600・612」 デニムのふるさと「井原」にルーツを持つタカヤが、満を持して企画した上下作業服。ポリウレタンとコーデュラナイロンを織り込んだ生地はストレッチ性と高い耐摩耗性を実現。綿の数倍の耐久性にもかかわらず見た目は正統派デニムで、色落ちやヒゲの表情は真のジーンズ好きを唸らせる。 |
|