【寅壱】TORAに翼image_maidoya3
「寅ブーム」の一年だった。いや今年はまだ終わってないけれど、これほど「寅」の文字を目にした年はなかったし、今後もないだろう。といっても、阪神タイガースや『男はつらいよ』の話ではなく、朝ドラ『虎に翼』である。日本で初めての女性弁護士および裁判官となった主人公の名前は寅子(ともこ)、あだ名は「トラ」。掟破りとも言えるテーマ性の高さがウケて、放送日はX(旧ツイッター)のタイムラインを埋め尽くした。しかし、編集長はこう思う。世間の皆様は忘れているのではないか? 「寅」といえば「寅壱」であり、「翼」といえば「鳶」であることを……。同ドラマは9月に最終回を迎えたことで、「ちょっと寂しい」といった言葉も聞こえてくるが、あえてこう言いたい。寅壱を着ればいいじゃない! 「寅」や「TORA」のタオルを頭に巻いた鳶スタイルで最高裁判所大法廷に乱入し、憲法第十四条を叫ぶ! これが“とらつばロス”に対するまいど屋の処方箋である。

寅壱
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新作のデニム「8922」
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対応パンツに「超々ロング」が!
●コスト増を逆手に?
 
  取材に応じてくれたのは商品企画部の平井さん。さっそく2024年秋冬コレクションの見どころを聞いていこう。
 
  「ひとことで言えば、コスト的に厳しい中で、寅壱だからできる遊びやテイストを頑張りました、といった感じです。原材料費や燃料費の高騰で製造費がかさむ一方、物価高でお客さんの節約意識も高まっている。そこで『できるだけお求めやすい価格の商品を』という考え方もあるんですけど、それだと寅壱の持ち味がなくなってしまう。そこで、ワークウェアの基本性能は押さえた上でコストにも留意するけれど、好き勝手な仕様やデザインといった遊び心は忘れないように、と。もちろん凝れば凝るほど価格に跳ね返ってしまうわけで、営業マンやショップの声を聞きながら、ギリギリの判断を重ねたわけですが……」
 
  言葉の中に、ハイブランドを背負う企画マンの苦労がうかがえる。これが4、5年前なら「このポケットは収納というより飾りですね」「カッコいいからワッペンを付けました」「この加工で価格はアップするけど、まあいいかって」といった強気な発言が飛び出したものだが、やはりメーカーを取り巻く環境は厳しさを増しているようだ。
 
  「それでも、この難局を逆手に取ってやろう! という気持ちもありますよ。たとえばデニム作業着は、これまでに脱色とかダメージ加工とか、いろんなことをやってきたのに対して、今回は控え目にして素材の良さをまっすぐに出していこう、と。今回の新作デニムでいえば、サステナブルな農法で作ったコットンを使って付加価値を高めたり、レーザー加工やケミカルブリーチで資源の消費を抑えたり、といったことです。こういったことで製造コストを下げるとともに、生地の魅力を強調したデザインで『シンプルでいいね』と言ってもらえるものに仕上げました。『デニムはもうおなかいっぱい』といった声もあるけれど、まだ店頭では人気がありますからね。これまでデニムはショップ向けのアイテムでしたが、環境に配慮した製法とシンプルな見た目で、カッコよくかつ企業ユニフォームとしても使えるものに仕上がっています」
 
  SDGsに対応したものづくりにシフトしているにもかかわらず、カタログ中に「環境」の文字は、ほぼ出てこない。いや、あえて隠しているようにも見える。「会社のユニフォームにどうぞ、って書いておけばいいじゃないですか」と口にしかけて、すぐに思い直した。
 
  これこそ、寅壱の「粋」なのだ。
 
  ●デニムに「秘密兵器」
 
  では、そんな背景から生まれたデニムの商品から見ていこう。新作の上下作業着「8922シリーズ」は、オシャレ着としても使えそうなライダース型ジャケットが目印だ。「これが今回のイチオシ」と語る平井さんの目にも力がこもる。
 
  「今回のラインナップの中では少し値の張る商品なんですが、売れてますね。ケミカルストーンウォッシュという加工法でコストは抑えつつも、ユーズド感はしっかりある。1色だけでカラー展開がないのも価格的な理由が大きいんですけど、逆に『デニムらしさがある』『正統派のデニムだ』という評価をいただいています。うちもこれまでデニムの商品をいろいろ出してきた中で、今回はシンプルにデニムの魅力を打ち出せたかな、と思っています」
 
  コスト削減のために加工やカラーを減らしたら逆に良くなった、というのは言われてみればわかる。アイコン的な目を引く意匠や装飾を廃したことで、じんわりした素朴な味が楽しめるのだ。とくに中高年ユーザーならぐっとくること間違いなしの“わびさびデニム”である。
 
  このジャケットの地味な良さをどうやって伝えようかと考えていたら、平井さんが対応のパンツを取り出した。えっ……ニッカ? あれ、この見覚えのあるスタイルは?
 
  「なにかインパクトがほしいな、と思ったので、パンツは多展開にしました。おなじみのカーゴとカーゴジョガーに加えて、『ニッカズボン』『細身超々ロング』の4種類です!」
 
  うわぁあああーーー、そうきたかぁーーーーっ。
 
  頭がくらくらする。鳶装束の新作はもう出ない、とかさんざん言っておいて「デニムの超々ロング」って……いま2024年ですよ!
 
  「じつはデニムで作ったのは今回が初めてなんです。まあ、『作ってみた』って感じなんですが、意外とウケてますね。もはや鳶スタイルを知らない若い人が、『なにこれ!?』『おもしろい!』と言ってくれる。店頭での話題作りにもオススメですよ」
 
  あの娘ぼくがデニム超々ロングで現場に出たらどんな顔するだろう。……と、だれも元ネタがわからなくても書かずにいられない。
 
  ●ユニフォームにも遊び心を
 
  さて、気を取り直して(?)、今度はオーソドックスな上下作業着「3560シリーズ」を紹介してもらおう。ポリエステル100%の軽量モデルながら、防風仕様でしっかりストレッチもする。事業所ユニフォームにぴったりの逸品だ。
 
  「これはハッキリ言って、ユニフォーム採用を狙っています。同デザインではないけれど、テイストとしては春夏モデルの『3561』の秋冬バージョンといった感じで、レギュラーな形でシルエットも万人向け。価格も抑えめだし、ポリウレタン配合ではないポリ100%のストレッチ仕様で、長持ちするのもポイントです。表情豊かなドビー柄の生地に防風素材を接着しているので、少しくらいなら寒さも防げます。裏メッシュなのでサラッとしていて着心地もいいですよ」
 
  たしかにコストに配慮しているのはわかる。しかし、それでもチープになっておらず、「寅壱らしさ」も感じる。物流や軽作業のユニフォームとしてちょうどよさそうだ。
 
  「言ってしまえばシンプルな化繊の作業着なんですけど、襟を立てて鳶装束みたいに着こなせるのは寅壱ならではでしょう。実際、4色展開のカラーの中でも『トビ茶』がウケてます。まさに鳥の鳶に例えられる伝統色で、少し赤が入った暗めの茶褐色ですね」
 
  納入向けのアイテムでも「鳶」のキーワードが出てきて、しかもセールスポイントになっているとは……。
 
  追い打ちをかけるように、平井さんは定番感のあるアイテムとして新作の「9540シリーズ」を広げる。
 
  「こちらは混綿の化繊ワークウェアですが、綿100%のようなナチュラル感を出すことにこだわりました。実際、ポリエステルがメインで綿は33%だけなのに、かなりコットン系に見えますよね。じつは、昔からある綿の作業着『3942』のリニューアル版として企画したので、ちょっと旧世代の作業着っぽい武骨な雰囲気もあります。綿らしさのある風合いに加えて、高級感のあるヘリンボンの織り柄が売りなので、あえて色は淡くして生地の表情が楽しめるようにしました」
 
  胸ポケットに、通気と水抜き用のハトメ穴があるのも、一昔前の作業着テイストがあっておもしろい(綿の作業着は乾きにくいのでこういった仕様が多かった)。静電仕様なので、工場や軽作業の制服としてもハマりそうだ。
 
  「企業向けとはいっても、やはり遊び心は大切なんです。昔からあるさまざまな着物や装束だって、『身につけるものを楽しみたい』という意識から生まれたものですから」
 
  デニム作業着から定番のユニフォームまで、新アイテムにも寅壱の美学は息づいていた。
 
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遊び心のある「3560」のポケット
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「寅壱をよろしく!」

    

軽量なのにしっかり防風! 寅壱の新定番ワークウェア「3560シリーズ」

建設業のほか、軽作業や物流現場などでも活用できる軽量ワークウェア。ポリエステル100%の生地は、風が冷たい季節にうれしい防風仕様。 メッシュ圧着の裏地は、肌離れがよく着心地もよし。さらに高めの襟を立てた“鳶スタイル”も様になる。幅広い年齢層に合うシンプルデザインで、企業ユニフォームにもおすすめ。


いくぞ、“デニム沼”の最深部へ! シンプル&ディープな「8922」シリーズ

素材そのものが持つ魅力を最大限に活かしたデニム作業着。ストレッチ仕様の生地にケミカルストーンウォッシュ加工を施し、表情豊かに仕上げた。パンツはオーソドックスな「カーゴ」に「カーゴジョガー」に、「ニッカズボン」「細身超超ロング八分」を加えた4タイプ展開。かつてなかった着こなしを楽しめる。