まいど通信


        

まいど!まいど通信編集長の田中です。全国の怒れる労働者の皆さま、まずはお手元のカレンダーをご覧ください。いや失礼、そんなものをいちいち確認するまでもなく、皆さんはそのことについてとうの昔に認識していらっしゃるのでしたね。まいど屋などに改めて指摘されるまでもなく、私たちプロレタリアートを襲ったこのあまりに理不尽な仕打ちに身を震わせ、運命を呪い、何か行動を起こすべきではないかと感じ始めている。違いますか?我々自身の内側にしっかりと根を下ろしつつある問題意識は虐げられた民を結集させ、正義を求める社会的機運は沸騰し、やがて臨界点に達するはずです。そのときこそ、革命は成就する。人びとは解放される。まいど屋は皆さんに呼びかけます。今こそ我々は立ち上がらねばならない!連帯し、勝利を掴み取らねばならない!
本日、5月1日、人民がその疲れ切った両足でかろうじて立っている今日と明日の二日間は、将来、屈辱のシンボルとして、そして我々を団結させた血の月曜日、涙の火曜日として記憶されることになるでしょう。そうです、我々は非人道的で悪意に満ちたこの両日を決して忘れてはいけません。そして既に怒りの赤で塗りつぶされた両脇のマスに挟まれながら、なお頑迷に白くあり続ける忘れられた二日間を、我々は一刻も早く血涙をもって赤く染め上げ、我々自身の手に取り戻さなければなりません。
今現在、我々はこの横暴な暦によって、まるで囚人のように日常に監禁され、出勤を強いられています。しかし一体、48時間で何ができるというのでしょうか?中年男の額の上にかろうじてぽつんと残された未練がましい残り毛のような、あるいはただ迷惑がられることそれ自体が唯一の目的と化してしまった成田闘争の一坪農地のようなこの二日間に、一体何の意味があるのでしょうか?例えばここ編集部であれば、パソコンの前に座ったところで目前に迫ったGW後半の期待に気もそぞろで、まともな仕事などできるわけがないのです。おかげでこうして書いているまいど通信だって妙にイデオローグ的な色彩を帯び始め、読者の皆さんをアジることでストレスを解消するような、この欄の本来の趣旨からは遠く逸脱した方向に向かってしまうのです。
かつてケネディーは東に取り残された孤島のようなベルリンで「私はベルリン市民である」と演説し、人びとを勇気づけました。本日、連休の谷間に出勤してきた読者の皆さんに対して、まいど屋は、いやもっと正確に言うならば月刊まいど屋編集部は同じレトリックを使ってひとつの決意を示したいと思います。周囲を高い壁で囲われ、自由な大型連休を分断しているこの出勤日に身を置いている編集部は、皆さんと同じ勤労市民なのであります。しかしいつか、私たちの闘争が実を結び、編集部がまいど屋という強権的な勤怠管理システムに勝利すれば、連休に谷間はなくなり、壁は取り払われ、9連続の赤が並ぶカレンダーを手にすることができるでしょう。その日は意外に近いかもしれません。そしていずれそうなるのがわかっているからこそ、編集長の私は本日、こうして出勤はしていますが、仕事などは適当にやりながら、休日のプラン作りに精を出しているのです。今月号の本欄に手抜きが目立つのは、そうした事情によるものです。論旨が甘く、構成も粗いのは、ケネディーに倣った解放運動の一環なのです。それは信念に基づいた行動です。そして我々すべての労働者のためを思ってのことなのです。

今月のテーマはツナギ服
テーマはツナギ服。しかし、そのキーワードの前に「レッドライン越え」という修飾語を付けています。では、そのレッドラインとは何か。それは最近やたらとタフガイぶりをアピールし始めたかの国の最高司令官が好んで使う、「超えてはいけない一線」という脅し文句であります。平たく言えば、お前がこの線を一歩でも越えたらぶん殴るぞという、極道の掟的定番フレーズであり、その言葉を投げつけられたひとは余程のチャレンジャーでない限り、掟に従って誰でも素直に言うことをきくようになるという例のアレなのです。
レッドライン越えのツナギ服---今回取り上げた3ブランドは、どれもその道を踏み外した筋金入りの挑戦者ばかりです。いや、他人の指図など気にも留めない本物の極道と言っていいのかもしれない。業界で自然と出来上がっていた、しかし根拠には乏しい常識なんか屁とも思わず、自分のやりたいことをやりたい放題やり続ける確信犯的アウトローたち。既成の業界勢力や市場は、そんな彼らの無法ぶりを目の当たりにしても、結局はぶん殴ることもできずに黙認するしかないのでした。彼らは目に見えない脅迫に勝利しました。そんな彼らを祝福し、それぞれの活動を詳細にレポートしたのが今回の特集です。
なお、蛇足にはなりますが、レッドラインはこの月刊まいど屋を読んでいる読者の皆さんにも適用されることを皆さんの心情に配慮して控えめに、しかし曖昧にしておいては真意が伝わらなくなる恐れがあるためやむなくはっきりと表明しておこうと思います。特集の内容に文句があるならぶん殴るぞ。タイトルにはそういった意味も込められているのです。それとも、レッドラインを越えたのはまいど屋であって、ぶん殴られるのはこっちなのかな。

ちょっと古いですが、先日の作業服の日の話
この話題は本来なら先月号で話しておけばよかったのですが、諸事情ありまして、一か月遅れのご報告です。諸事情というのはいわゆる諸事情で、本音を言うと皆さんに深く詮索されたくないその諸事情を、諸事情のままにしてこれから話を進めたいのですが、そうするとこのまいど通信が伏字だらけの発禁本のようにいかがわしく見えてきますし、そもそもその諸事情がこの話そのものなのですから、話してしまわないわけにはいかないようで、ここは甚だ不本意ではありますが、とりあえず人生の恥はかき捨てだと開き直って、渋滞中の高速道路で車から降りて放尿するかのごとく、今日は思い切ってすっきりしてしまおうと思います。
諸事情---それはもちろん4月号の締め切りに間に合わせる時間的余裕がなかったことであり、こうして文字にするための心の準備ができていなかったことでもあります。そして一番大きいのが、敢えてこの話を公にする動機がそのとき私にはまったくなかったことなのです。誰も好き好んでこんな話をしたいはずがありません。本当は誰も知らないどこか遠くの森の中に穴でも掘って葬り去ってしまいたかったのですが、今回はこのページを埋めるネタがどうしても見つからず、やむなく穴を掘り返してきたんです。そして穴から出てきたのは、見るも無残に泥だらけで横たわっていたあの日の自分自身でした。
そう、あれは3月29日、全国の作業着フリークたちを熱狂させていたあの祭りの真っ最中、編集部宛てに1本の電話がかかってきました。相手はあるラジオ番組のディレクターで、準備はいいかと私に訊きました。私は大丈夫ですと答えました。それから電話越しの音声チェックが始まり、一から十まで数を数えるよう要求され、私は数を数えました。まいど屋のオフィスに、いち、に、さんという私の乾いた声が響くのを、周りにいたスタッフたちは耳にしたことだと思います。
それから私は受話器を耳に当てたまま5分ほど待たされました。やがて受話器から番組のタイトルコールが流れ、音楽と共に男女のDJが軽快に話し出す声が聞こえてきました。二人は作業着について話しているようでした。それはどこか、異国の空港で耳にするアテンション・プリーズのアナウンスのように、私の手の届かない意識の底には確かに引っ掛かりながら、話の意味が具体的な像を結ぶ前に片っ端から空中で消えていきました。スピードを落とさずに駅のホームを通過していく快速電車みたいに、放たれる言葉が次々と目の前を横切っていくのを、私はただぼんやりと眺めていたのです。
そのうち、DJたちの会話の中に、「作業服の日」という言葉が含まれ始めました。それから、突然、「まいど屋」という単語がその中に挟まれました。私はそれをはっきりと耳にしました。外国語を初めて音声として理解した時の学生みたいに、私は自分自身に起こっている状況がよく飲みこめないまま、その不思議な感覚に圧倒されました。受話器を握り続けている私の手は汗ばんでいました。そしてとうとう、多分、女性の方の声だったと思いますが、その透き通るような声が私の名前をコールしたんです。「なんと、今日はその作業服の日をつくった、まいど屋の田中さんと電話がつながっています」---なんと!感嘆符付きのそんな大げさな接続詞の後に続けられた私の名前はいかにも場違いに響きました。誰かの結婚式にサンダル履きで来てしまったような気分で、私は今日はと挨拶しました。月刊まいど屋編集長の田中です。
間髪を入れずに、今度は男の方が質問を浴びせてきました。言葉がまた立て続けに私の前を高速で走り抜けていきました。何を言っているのか、ほとんどわかりませんでした。覚えているのは、その声が男の私でも惚れ惚れするような低音で、恐らくテレビやラジオで何度も耳にしたことのある人物の声だったということだけです。私は何かをしゃべりました。およそ10分くらい何かを話し、その間、私の声は生放送の公共の電波に乗って、空中をふらふらと漂っていたはずです。最後にあの甘い低音が、「田中さん、今日はありがとうございました」と言って私の要領を得ない話を終わらせるまで。
読者の皆さんは、何で月刊まいど屋の編集長がラジオ出演なんかするんだと訝しがると思います。自分だって不思議に思うくらいですから。でも、「作業服の日」って、意外にメディア受けしそうなネタみたいなんです。番組のネタに困ったディレクターが、何かヒントがないかとネットを探し回り、ほう、作業服の日ってのがあるみたいだぞって知ってまいど屋に電話をかけてくるんです。ちなみに、その日はこの番組のほか、地元のラジオ局のインタビューにも応じました。何年か前はテレビが取材に来たこともあります。月刊まいど屋の編集長と同様、困っているディレクターは、世の中に意外とたくさんいるみたいです。

GW期間中のお休み
誠に勝手なことを言いますが、下記日程を「作業服を忘れる日」と定め、当該期間中はまいど屋も勝手にお休みとさせていただきます。作業服を忘れてレジャーに専念するための国民の記念日ですから、どうか皆さんも好き勝手にお望みのところへ出掛けるなりして、まいど屋のことなど忘却の彼方へと完全に追い払っていただきますようお願いいたします。

5/3(水)~5/7(日)

なお、「作業服を忘れる日」当日はまいど屋に電話をしても誰も出ないため、いくらネタに困った哀れなディレクターのお願いでも取材には応じられませんのであしからずご了承くださいませ。
8日月曜日から元気に営業します。また、お会いしましょうね。