【エスケープロダクト】それさあ、早く言ってよおimage_maidoya3
初めて口説かれたのはもう何年も前のことだった。編集部宛てに突然電話がかかってきて、会って話がしたいと若い男の声が言ったのだ。声は朗らかで、どちらかといえば世間に慣れていないような印象だった。男はまいど屋に見せたいものを持っており、まいど屋はそれを見るべきなのだと言った。まいど屋さんはきっと気に入ると思いますよ。損はさせませんから時間をください。できればすぐにでも。
  いつものルーチンに従って、丁寧にお断りの言葉を言いかけると、その声は急に慌てたように早口になり、実はもうまいど屋の駐車場に来ているのだと言った。窓から外を見ると、携帯を耳に当てた痩せた男が宙に向かって何度もお辞儀をしながら熱心に何かを話しているのが見えた。脇には黒っぽい大きなスーツケースが置かれていた。
  仕方なくオフィスに入ってもらい、一通りの話は聞くことにしたものの、それはまいど屋にとって、わざわざ足を運んできた人物に対する最低限の礼儀以上の意味は全くない、よくある処理作業に過ぎなかった。オフィスに引っ張り上げてきたスーツケースから男が次々と取り出して見せる商品をぼんやりと眺めつつ、差し出されたカタログをパラパラとめくって時間が過ぎていくのをただひたすら待った。男の説明は、その言葉や実際にとっている行動とは裏腹に、どこか頼りなく遠慮がちに響いた。
  もうあと5分したら何か理由をつけて帰ってもらおう。そんなことを考えながら、手持無沙汰で先ほどもらった名刺に何気なく目をやると、そこには小さく代表取締役の文字が印刷されていた。代表取締役社長、池本誠治。恐らく、挨拶の際の自己紹介さえ、うわの空で聞き逃していたのだろう。控えめな物腰でまだ何かをしゃべっている男の顔に再び目をやると、今度は最初の印象とは違った落ち着きと経験が、その一見若々しい外見の下に隠されているようにも思えてきた。男の中では相反する二つの要素が、特に問題を起こすことなく同居しているようだった。情熱的な行動力と照れたような態度と。軽薄さと真摯さと。アマチュアリズムと深謀遠慮と。
  それから男は数か月おきにまいど屋を訪ねてくるようになった。あまり覚えていないのだが、初めの2、3回は最初の時と同じように、適当な相槌を打って時間をやり過ごし、最後は頃合いを見て話を打ち切っていたはずだ。それでも男は諦めずにまいど屋に通い続けた。そうした状況が変わり始めたのは、恥を忍んで読者の皆さんに告白すると、男が率いるエスケープロダクトの評判が、業界のあちこちから聞こえ始めてきてからだ。広島の方に、小さいながらも恐ろしくセンスのいいツナギ服メーカーがあるらしい。トレンドを生かした商品作りに長けているだけでなく、価格設定も非常に良心的らしい。そしてほどなくして、そうした噂を裏付けるような記事を業界紙で頻繁に目にするようになったのだ。もう忘れてしまったが、男の何度目かの来訪の時、まいど屋はそれまでの態度を手のひらを返したように改めてこう言った。いやあ、お待ちしてました。前から早くお取引を始めたいと思っていたんですよ。是非、一刻も早くお付き合いさせていただけませんか。
  今、この原稿を書きながら、男にもらった名刺を改めて眺めている。代表取締役の文字の上にある余白には、男が初めてまいど屋に来た日の日付と、まいど屋の無礼な感想が、ボールペンの汚い走り書きで残っている。「広島のツナギメーカー。特に注目すべき商品なし。取引優先度C」。本日お届けするこのレポートは、まいど屋の判断力のなさによって何年も、最も注目すべき存在であったエスケープロダクトの商品に接する機会を奪われてしまった読者の皆さんと、そして忙しい時間を無駄に取られてしまった池本社長に対する、まいど屋なりの心からの詫び状である。そう、まいど屋は全く思慮が足りませんでした。ワークウェアの分野におけるプロ中のプロを自認しながら、初対面の印象に引きずられて肝心の中身を見ることを怠っていたんです。この取材でしっかりとその特筆性を検証しますので、どうかお許しください。今さらのレポートを読んできっと皆さんは、それさあ、早く言ってよおとあのCMばりに唇をとがらせているかとは思うけど。
 

エスケープロダクト
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春夏向けの麻混ヒッコリー『GE928』
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人気の『GE-105』(左)とへリンボン素材の『GE-106』(右)
「まいど屋さんを初めて訪問してから3年にもなるんですね」。インタビューを開始する前の雑談の中で、池本社長は感慨深げにそう言った。「こうしてようやくここにまいど屋さんをお迎えすることができ、嬉しく思っているんですよ」。
  その感想はまいど屋も全く一緒だった。彼の言葉通り、まいど屋はこの場所にたどり着くまでの間、3年もの歳月を失っていた。今日、月刊まいど屋の取材を兼ねた初めての会社訪問で、まいど屋は失われた時間を一度に取り戻さなければならない。もちろん、そうするにはやはり力業が必要で、そのための工夫も必要だろう。ならば具体的にどうしたらいいか。この取材の目的は、彼が情熱をこめて作る個々のプロダクトを深く掘り下げて解説することだが、まいど屋はあえて読者の皆さんにここで今しばらく辛抱していただこうと思う。そうすることで、後に続く説明がより血の通ったものになるはずだからだ。回り道のようだが、まずは社長の基本的考え方を説明してもらい、併せてそこに至るまでのエスケーの変転を、できれば生い立ちから遡って説明してもらうのがいいだろう。
  まずは池本社長の考える「エスケーらしさ」について。「上質感があって、着る方がカッコよく見えるデザインに尽きますね。商品作りのポイントを3つ挙げろと言われれば、まず最も大事なのがデザイン、次がデザイン、最後がデザインだと答えます。そこを追求するために他社が企画しないような素材使いをしたり、ちょっとしたディテールにも納得がいくまでこだわったりします。だから私たちの作るウェアは、どちらかというと小規模事業者や個人のお客さま向けなのかもしれません。若い方やオシャレな方で、私たちの考えに共感してくれる人たちが強く興味を持ってくれるのかな」。
  だがエスケープロダクトは初めからそうした路線を歩んできたわけではない。創業は1956年。先代が起業し、ツナギ一筋で家内工業的な生産を行ってきた。2007年、現社長が家業を引き継ぎ、社名をエスケープロダクト(株)に変更。そのとき同時に、今も主力となっている基幹ブランド『GRACE ENGINEER’S』 (グレイス・エンジニア―ズ、以下GE)を立ち上げたのだ。「GEのコンセプトには、先ほど話した現エスケーの思想と価値観が全て注ぎ込まれています。池本被服時代は“他社の売れ筋を低価格で”という路線でしたが、価格を競っても大手にはかないません。商品価値を高め、ユーザーの皆さんにファンになってもらえるようなブランドが確立できれば、小さいメーカーでも存在感を発揮できる。そう思ったんです」。
  新体制になって10年。GEブランドも徐々に浸透し、存在感を示すようになってきたが、いったいどんなツナギを出しているのか。代表的なものをいくつか挙げてもらおう。
  一番手はこれからの季節におすすめ、定番のヒッコリーを綿麻生地で表現した『GE-925』(半袖)と『GE-928』(長袖)。ユーザーの強い要望に応え、今期からレディースサイズも登場した人気シリーズだという。「2009年に出したロングセラーで、綿75%、麻25%混の清涼感ある素材を使っています。麻混は作るのが非常に難しく、自分の知る限り、ツナギではウチのこの商品だけじゃないかな。吸汗性、通気性に優れ、薄手ですがハリ感があって作業服にも使えるだけの耐久性があるんですよ」。
  ゆったりめのシルエットは作業するのにちょうどよく、着るとカッコよく見える絶妙なバランス。「肩から股までの距離が長過ぎると袴みたいになるし、短過ぎるとつっぱって動けません。当社のツナギはどれも量産化する前に試作を何回も行い、試着を繰り返して納得のいくものだけを出しています」。ウエストにはボタン式のアジャスターが付いて適度に絞ることもできる。また、胸ポケットのボタンは、強くつまむとクニュッと曲がるシリコンゴム製で、クルマを整備する際もボディーを傷つけにくい。
  さて、春夏の人気アイテムの次は、オールシーズンで人気No.1の『GE-105』について。綿100%のやや厚手のヒッコリーを使ったこの商品、一般的なヒッコリーよりもストライプが細く、都会的で洗練された印象が強く残る。素材感だけでも十分魅力的なアイテムだ。しかし、そこにもうひとヒネリ加えて独自の世界観が現れるところまで持っていくのがエスケーの流儀。ワンウォッシュのこなれた風合いに対し、ヴィンテージ感あるボタンと色糸を使ったボタンホールがアクセントとなってシャレた表情に仕上がっている。「胸ポケットのボタン、雰囲気あるでしょ。わざとペンキで汚していて、同じものは2つとありません。ボタンホールとファスナーの色にもこだわり、ネイビーのヒッコリーにはくすんだイエロー系、ブラックヒッコリーにはワイン系を挿し色にしています」。
  ディテールに対する探究心はこれだけではない。「実はボタンもボタンホールもフェイクなんですよ。実際は中についているパチンとはめるタイプのドットボタンを使うんです。そっちの方が使い勝手がいいですからね。それと、袖口のマジックテープは斜め45度に。こうすると、合わせた時にジャストフィットするんです」。
  なお、『GE-105』はメンズ、レディース、キッズと揃ってサイズも充実。ファミリーでコーディネートできるのも大きな魅力になっている。
  以上、エスケーの代表的シリーズを春夏とオールシーズンから一つずつ選んで解説してもらったのだが、最後に池本社長が今回、この機会にどうしても紹介したい商品があるというので話を聞いてみよう。それが2017春夏限定商品のメランジ調サマー半袖ツナギ『GE-145』だ。
  この新商品では、池本社長はこれまでエスケーが大事にしてきた価値観に加え、経済性という新たなベクトルを加えることに挑戦したのだという。「GEブランドではユーザー価格で3,000~5,000円と、値ごろ感のある中価格帯が主力ですが、これは2,000円台。より幅広い方に着ていただこうと、最もリーズナブルな価格にしました。もちろん、安いからそれなりにという方法論は絶対にNGです。コストをかけずにアイデアでセンス良く。いいなあと感情に訴えるものでなければ買っていただけないし、お店でも扱っていただけません。心に響かなければ、GEブランドを冠するわけにはいかないんです」。
  汗ばむ季節も涼しく着られる薄手の夏仕様。カラーはネイビーとグレーの2色。ムラ感のあるメランジ調の染色により、シンプルな素材・デザインに清涼感ある色彩と質感をもたらし、ステッチを加えてスタイリッシュに仕上げている。「ステッチの色使いをスパイスにして、デザインに変化を付けました。組み合わせは無限ですし、縫うと糸の色が変わって見えるので、何度も何度も試行錯誤を繰り返したんですよ」。
  池本社長は商品づくりでは細かなことで悩みまくるそうだが、「もともと服が好きなので、服を作らせてもらって幸せです」と話す。そんな社長が自信をもって送り出すツナギの数々、以下にも多数紹介しておくので、ぜひともチェックいただきたい。
 
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『GE-105』 のウエストアジャスター
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リーズナブルな『GE-145』を前にする池本社長

    

現場の定番をスマートにシェイプアップする!鍛え上げられたスペックを、シャレたカラーとイケメン風の顔立ちで味付けしたGE-627シリーズ

ソフトで扱いやすいポリエステル65%、綿35%の生地を秋冬向け(E-627)は中肉厚で、春夏向け(GE-628、629)は薄手で。袖はツッパリ感を軽減する3D縫製。さらに春夏向けには背中プリーツと脇下に通気性バツグンのメッシュ素材を使用し、ムレを放出。肘あて・膝あて付きのタフな作りもうれしい。カラー4色。サイズはB体も揃った12サイズ展開。


スタイリッシュに爽やかに、思いっきりカジュアルを気取りたい!細目にアレンジしたヒッコリー柄とストリート感あふれるシルエットの絶妙コラボ、GE-105シリーズ

細目ストライプの綿100%ヒッコリーをワンウォッシュして風合いよく。洗濯を重ねるごとに雰囲気のあるムラ感が出て、愛着が増すシリーズ。胸ポケットのフェイクボタンとカラーボタンホール、フロントのカラーファスナーが粋なアクセント。ボタン式のウエストアジャスター内蔵。カラーはネイビー、ブラックの2色。ツナギはメンズ、レディース、キッズが揃ってファミリーコーデもOK!サロペットはメンズとキッズのサイズ展開。