【クレヒフク】値下げは恥だが役に立つimage_maidoya3
これからまいど屋としてはあまり言いたくないことを話そうと思う。それは本来、こうした公式のレポートに書くべきことではなく、厳重に鍵がかけられた経営会議室で密やかに語られるべき類のトピックだ。健全な判断力を持った会社であれば、風評被害を引き起こしかねないそのような情報は、時間がその意味を風化させてしまうまで、公表せずにしまっておこうとするだろう。ある種のニュースは、それが受け手に利益をもたらす場合でさえ、発信元の意図に反して心証的にまったく反対の効果をもたらすことがあるからだ。
  それでも、まいど屋は今回、やはり読者の皆さんに対して正直になろうと思う。書くネタに困ってやけっぱちになっているわけではない。むしろ逆に、皆さんに紹介したい商品は山ほどある。しかしまいど屋は思うのだが、そのような表面的な新商品のリリース情報に、一体どれほどの価値があるのだろうか。こんな商品ができました。これこれここが特徴ですよ。あの人気商品に新色です。どうです、シャレているでしょう?これを機会にもう一枚いかがですか?そんな風に淡々と書き記して、このブランドが抱えている問題の核心部分については言葉を濁して通り過ぎようとするならば、今まで築き上げてきたまいど屋と皆さんの信頼関係さえ、いつかは上辺だけのものになってしまうのではないか。
  単刀直入に言うと、実は少し前、まいど屋はクレヒフクのコレクションを全アイテム値下げした。正確には一昨年の秋に、メーカーの担当者と協議の上でそれを行った。丁度各社が値上げに動いていた頃で、クレヒフクとまいど屋は業界の動きとは真逆の行動をとったのだ。それを聞いて皆さんは、きっとまいど屋がこのブランドの拡販に動いたのだと思うだろう。販売実績の悪い商品は、値下げをして捌ききらねばならない。調子がいいなら値下げするはずがない。ユニクロだってそうじゃないか。お客の反応が鈍ければ、そうする以外に道はないんだから。もしかしてクレヒフクって意外と人気がないんじゃないか?
  そういう邪推は全くの事実無根であるともいえるし、またある一面においては正しい理解の仕方だともいえる。事実、値下げ後にはまいど屋におけるクレヒフクの販売数は目に見えて増加した。クレヒフクの担当者とまいど屋が狙った通りの結果だったのだ。ただ、誤解しないでいただきたいのだが、値下げ前にクレヒフクがジリ貧に陥っていたわけではなかった。モノを知っているひとたちからは、相変わらず高い評価を受けていた。でもそれは、本来の力からすれば、決して大きな反響であるとは言えなかったのだ。クレヒフクの担当者とまいど屋は、このポテンシャルに満ちたコレクションを、さらに多くのユーザーに知ってほしかった。まいど屋はかの担当者の提案を聞いて、確かに試してみる価値はあると思った。そして実際、値下げ前にはクレヒフクを見逃していた多くの潜在的な愛好者が、ようやくその真価に気付くようになったのだ。
  先ほどある一面で正しいと言ったのは、そういう文脈による。このブランドはまだまだ大きな可能性を秘めている。現時点でも驚くほどたくさんのひとたちが、未だにその魅力に気付かないままでいる。それをどうにかしたいと思う。例えばこの間の値下げのような手段によって。それからもし皆さんが多少なりともまいど屋の話に耳を傾けてくれるのであれば、こんなレポートを通じて。
 

クレヒフク
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ヴィンテージ感がカッコいい『21000』
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ストレッチ素材で作業服も揃った『K510』シリーズ
本日、月刊まいど屋の読者の皆さんに対し、話をしてくれるのは営業部の原田さん。今回の値下げの仕掛け人だ。彼はこの日の取材を待ち焦がれていた。まいど屋におけるクレヒフクのプレゼンス拡大の場として、また将来のユーザーに対して直接語りかけることができる貴重な機会として、この特集を非常に重要視しているからだ。会議室には手回しよく、特集のピックアップ商品にするための商品が揃えてあった。準備は万端だった。
  手始めにこれなんかはと言いながら、原田さんは、その中からデニムのツナギを拾い上げてテーブルの上に広げた。この春にリリースされたばかりの新商品『21000』。思わず見とれてしまうほどのヴィンテージな顔立ちは、数多くの商品を知るまいど屋も感嘆の声を上げるほどの衝撃性がある。しかし、その表情はワークウェアとしては全く異端であり、裏原宿あたりの小さな店に展示されている方が似合いそうなマニア性をも漂わせている。まいど屋には原田さんが最初にこの商品を取り上げた理由がすぐに理解できた。こういうところがまさにクレヒフクなのだ。インパクトという点で、また彼らの発想のダイナミズムを端的に表す格好の例として、特集の最初の話題とするにこれ以上相応しいアイテムはない。
  「ローライズのスリムなシルエットです。時間の経過を感じさせるような見せ方こだわって、バイオストーンで洗いをかけ、ダメージ加工を施しています」。味のある色落ち。インディゴブルーに映える赤銅色のボタン。こなれて生地に馴染んだステッチがタフな作りを主張し、人工的に演出されたものではあるが、脚の付け根の横ジワや太ももの擦れ具合が着込みに着込んだ歳月を想像させてくれる。「以前にもボタンタイプのデニムツナギを出したことがあります。もう完売しちゃいましたけどね。そのときも通常よりウエストを4cm下げたローライズのシルエットでしたが、今よりももっとタイトに作っていました。今度の新商品はシルエットはローライズを踏襲していますが、スリム加減は若干、ゆとりを持たせる方向に修正しています。今くらいのフィッティングの方が、より着慣れ感が増して雰囲気が出るからです」。
  採用している生地そのものの品質にもかなりのこだわりがありそうだ。「この商品には、当社の他品番でも使っていない厚手の13オンスデニムを使っています。贅沢でしょ。このところ、デニムツナギのご要望が多く、そういう状況ではなおさら中途半端なことはしたくなかったんですよ。クレヒフクがデニムでツナギをつくるとどうなるか、これは皆さんに対する我々の回答なんです」。
  ユーザーの要望に応えて出した商品といえば、ストレッチツナギ『K510』も忘れてはならない。この春、同素材・同デザインのブルゾンやカーゴパンツまで同時デビューさせてしまったくらい力の入った、今後の彼らのフラグシップ的位置づけになる予定のウェアだ。「お客さまから、今までにないような機動力のあるツナギを作ってくれと言われていまして。アイデアはあったんですけどね。ただ、使いたかったストレッチ性の生地が値上がりして狙った価格帯に合わなくなってしまっていた。ずっと諦めていたのですが、ここにきて、やっとこなれた価格帯で作れるようになりました」。
  満を持して出したアイテムだけに、デザイン的な洗練度にも目を見張るものがある。一見ラフな印象だが、胸元を左右に貫くカラーステッチと胸ポケットのファスナーが、野性味あふれる表情に都会的なアクセントを加えている。また、「傷つけ防止のためにボタンやファスナーなどの付属品を隠すと似たり寄ったりになってしまうので」と、ファスナー隠しなどの細かな部分のデザインにも、クレヒフクらしいシグナチャーを感じさせるような工夫を凝らしているようだ。
  ストレッチついでだからもう1つ、「無地よりもカジュアルっぽく見えてスタイリッシュ」というストレッチへリンボンの『659』にも触れておこう。「2016年の秋に出した商品で、柄物でのストレッチはこれが初めて。ウチの定番商品の中でもヘリンボンは人気が高く、それにストレッチが加わって人気のツナギとなっています」。ツナギのユーザーは綿混率の高い物を好むことから、採用したのは綿65%混のヨコ伸びストレッチ素材。フロントファスナーのチラ見え配色と胸ポケットのファスナー、補強ステッチに赤みの強いオレンジ色を使い、スタイリッシュに仕上げている。
  さて、ここまでデザイン性が特に話題になっている最近の商品を紹介してきたが、クレヒフクには着やすさと実用性で長く支持されているツナギも数多くある。例えば、軽くてハイスペックなビスロンファスナーを使った『660』シリーズ。また、頑強な当て布で肩、肘、膝を補強したプロ仕様の『330』シリーズ。さらにカーレースのメカニックウェアから着想したピットスーツや、学校などでも採用されている実用性の高いツナギ、イベントなどで重宝するカラーツナギなど、ラインナップが幅広い。
  それではこのレポートを終えるに当たり、改めてクレヒフクとは何かをおさらいしてみよう。デザインに対する過剰ともいえる思い入れと実用性に対する深い洞察力。この二つが相まって、誰もが感じるあのクレヒフクらしさを生み出しているのは間違いない。時にはデザインに重心が乗りすぎることがあるかもしれない。また、時には機能性の追求に偏向することもあるかもしれない。しかし、基本的に彼らが目指しているものは、この二つのベクトルを高いレベルで融合させることであり、その点こそが彼らの日々の苦心の全てであると言っていいのだろう。そしてそのどちらにも完璧を求めすぎるあまり、価格面の優位性が若干おろそかにされることがままあるのだろう。冒頭で書いた「このブランドが抱えている問題の核心部分」とは、正にその点であるような気がする。ただ、原田さんの特別な計らいによって、まいど屋のお客さまにはそのハンデは先般ほとんど解消されてしまったんだけどね。
 
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ストレッチヘリンボン素材の『659』
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ピットスーツ『KR904』 を掲げる原田さん

    

ヨコのびストレッチで動きラクラク!ツナギあり、作業服ありのスタイリッシュワークウェアK510シリーズ

シンプルフェイスにカラーステッチをオンして渋カッコよく仕上げたヨコのびストレッチシリーズ。春夏向けのやや薄手の生地は、綿98%、ポリウレタン2%。ツナギは腕上げがラクな脇トリカットで、ジャンパーとシャツは肘タックで、動きやすさをさらにアップ。カラーはカーキ、チャコールグレー、ネイビーの3色。


このイケメンぶりには男も濡れる!思い切りスタイルよく、何かを吹っ切るようにカッコよく、どこから見ても一分の隙もない659

エレガント、伊達、粋。スタイリッシュ・・・。そんな賞賛ワードが似合う、ストレッチへリンボンのツナギは、フロントファスナーのチラ見え配色と胸ポケットのファスナー、補強ステッチの赤いがアクセントのイケメン仕様。綿65%、ポリエステル33%、ポリウレタン2%のヨコ伸びストレッチ生地は、ほどよい中肉厚で春秋冬の3シーズンで活躍。袖口、胸ポケットは隠しドットボタン仕様。カラーはブラック、ブルー、ブラウンの3色。