まいど通信


        

あけましておめでとうございます! 編集長の奥野です。今回は1月公開の「まいど屋PR動画」の制作秘話をお届けしました。え、新年感がないって? いや、創業以来ほぼ変わらなかったまいど屋トップページがついに変わる大変化なんですよ。干支を一周以上して、ついにまいど屋が生まれ変わる! と、これって年が改まるのに近い感覚じゃないですか。まぁ、とにかく今年も心機一転リニューアルしたまいど屋をご引き立てのほど、よろしくお願いします。

●ルーティンを守りぬく

突然ですが、編集長は毎日ほぼ同じパターンで生活しています。

まず朝、起きると水をグイッと一気飲みし、トイレで出すものを出したあと間髪を入れず(ここが大事)、家を出て散歩をする。夏はサイクリングにすることも多いのですが、12月以降は寒いのでもっぱらウォーキング。日の出前になるときはライトを持って歩きます。

コースは毎日同じでちょうど6km。いつも50分で歩くのでスピードは時速7.2kmです。これはけっこうハイペースですけどランニングに比べればラクなもの。途中、一カ所だけ踏切があり、歩道橋で渡ることもできるのですが、タイミング的に可能なら遮断機が下りないうちにダッシュで切り抜けることにしています。さらに時間に余裕のあるときは途中でオプションコースに入って合計9kmにしたりもする。で、家に帰ってきたらすぐさまスマホの動画でラジオ体操をし、シャワーを浴び、軽い朝ごはんを食べたら、いよいよ仕事の時間です。ノートパソコンを抱えて家から徒歩5分ほどのドトールに原稿を書きに行く。

この流れは一気通貫です。順序を変えてもいけないし、間に余計なことをしてもいけない。散歩がスタートしたらドトールに行くまで、完全ノンストップです。

なんでこんな杓子定規で儀式めいた習慣を守っているのかというと、すべては最後に出てくる「原稿タイム」のためです。朝、起きてそのままドトールに行ってモーニングセットを食べたほうが、時間にゆとりができ、仕事にも早く取りかかれるのは言うまでもありません。しかし、それではうまくいかないのですね。なんだか頭がぼーっとして、文章が出てこない。10年におよぶフリーランス生活で学んだのは「頭を働かすためには、まず体を動かさねばならない」ということでした。自宅でできる仕事であっても、朝は家から出なくてはならないのです。だから雨でも傘をさして歩く。リズムを壊さないために、土日でも朝食までのルーティンは守っています。

朝食も採らずにウォーキングするのはキツいでしょう? とよく言われるのですが、まあなんとかなります。起き抜けはまだちょっと寝ぼけているというか、あまり何も感じないからです。麻酔がかかっているのに似ています。それでも、20分ほど歩いていると「ハラ減った」「暑い!」といったことを感じてきたりする。しかし、もう家からだいぶ遠くまで来てしまっているわけで、歩き続けるしか選択肢はない! 早くメシを食いたければ、なおスピードを上げなければならないのです。この点で、ジムのトレッドミルなんかと違って「ロードワーク」は強制力があっていいと言えますね。

●「書く」という労働

では、ウォーキングよりキツいのは何か? もうお分かりでしょう、ドトールに向かうときです。まだ「こういうことを書こう」という青写真があるときはいいのですが、何を書けばいいのか、何が書けるのか、まったくプランがないときは、足取りも重くて、ほんとうに暗澹とした気分になります。爽快感のあるウォーキングとは打って変わり、泥の中にじわじわ沈んでいくような感覚です。

しかし、「書かない」という選択肢はありません。泣こうが喚こうが原稿の〆切はやってくるわけで、×万字という長い原稿を2、3日で書くのは物理的に不可能。だからとにかく毎日、地道にコツコツ書いていくしかないのです。

このとき大事なことは、あまり「出来栄え」を気にしないことです。ライターと言えど人間なので、たまにはあまり面白くない原稿ができてしまうことがある。それは仕方ない。それに、たとえ出来が悪かろうといちおう形になってさえすれば、それを「たたき台」にして修正や改善を加えていくこともできるわけで、少なくとも前に進める。反対に、もし白紙のまま〆切を迎えてしまったら、もう一切、手も足も出ません。ゲームオーバーなのです。

だからドトールのいつもの席についたら、とにかく既定の文字数を書き上げることだけに専念して、いい考えが浮かばなくてもとにかくキーボードを叩きます。先の大戦で「これでB29を落とせ」と竹ヤリを支給された人はこんな気分だったのではないか、と思うこともあります。それでも、やるしかない!

影も形もない「無」の状態から、なにか意味のあるものを作り上げようとする――。これはけっこう悲壮な覚悟を要する行為なのです。

●ドトールの流儀

言うまでもなく、こういうケースではストレスでかなり神経がピリピリしています。店員が私語をしているだけで本部にクレームを送りたくなったりする(過去2回ほどメールを送ってしまった)。バサッとでかい音を立てて新聞をめくる高齢者にもイライラしてくる。さらに、ドトールのコーヒーは普段からとくに美味しいとは思わないのですが、こんなときはいっそう不味く感じる。せめて飲み物が美味しかったら、この気分もいくらか晴れるのに……。

そんなある日のこと、例によって朝のドトールでレジに並んでいると、しみじみ「もうコーヒーは飲みたくない」と思ってしまいました。コーヒーより高くつくけど、ジュースか何かでも……、とメニューを見て、気づいたのです。「ホットの紅茶はコーヒーと同じ値段だ!」と。紅茶があることは知っていたのですが、無意識のうちに「なにも珈琲屋で紅茶を飲むこともなかろう」と考えていたんでしょう。今まで視野に入ってこなかった。たぶんコーヒーを飲めない人用のメニューだから期待できないな……、と思いつつも注文し、熱湯にティーバッグを浮かべたカップを持って席につく。

しばらくしてティーバッグを引き上げたとき、驚きました。うわ、重い。テトラ型のバッグには茶葉がぎっしり。家で飲んでるリプトンのティーバッグなんかとは葉っぱの量がぜんぜん違う。へー、ちゃんと紅茶にも力を入れてたんだ、と感心しながら一口飲むと、おお、うまい。コクも香りも、家でたまに飲む紅茶を確実に上回っている。紅茶には詳しくないけどこれは値打ちあるな、と。

次の朝、またドトールで紅茶をたのみました。ある実験をするためです。昨日、仕事を終えてから紅茶についてネット検索し「ティーバッグの紅茶を美味しくする方法」をゲットしていました。これを実践し、どこまでドトールの紅茶が美味くなるかを調べるのです。

専門家によれば、ティーバッグを美味しく淹れる秘訣は以下の3点です。
1:沸きたての熱湯を注ぐ
2:カップはあらかじめ温めておく
3:抽出中はフタをする

1と2は、お店の人がやるのでクリアされていると考えて、残すは3です。カップを持って席についたらすぐさま受け皿でフタをしてみました。こんなことくらいでホントに味に違いが出るの? 紅茶好きはなんだか迷信深そうだしな……と半信半疑になりつつも3分ほど待ってフタを取る。バッグを引き上げて、さあ味を――うッ、香りがスゴイ! 高温を長くキープできたせいかうま味も強く出ている!

つまり、結論は「ティーバッグは必ずフタをすべし」です。フタすることで香りと熱を閉じ込め、茶葉が持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるのです。

そんなわけで、「ドトールに行く」で終わっていた私のルーティンに次の新儀式が加わりました。「ちゃんとフタをして最高の紅茶を飲む」。

紅茶の魅力に気付いたおかげで、ドトールに向かう足取りも軽くなりました。何を書けばいいのか見当もつかないような場合でも、一杯の美味しい紅茶が心の支えになってくれます。

ちなみに原稿作成のノルマは1日3000字で、午前中は半分程度クリアしておけばOK。2000字も書けると「これで午後はラクできる!」と小躍りしたくなります。たまに自分でも満足のいくレベルの原稿を書き終えたときは、ドトールを出るついでに「お手伝いしましょう!」と杖をついた老人のカップを返却してあげたりすることも……。

とても新聞をめくる音にイラついていた男と同一人物とは思えません。

   ☆

そんなこんなで、今月は久々にワークウェアとなんの関係もない「まいど通信」になってしまいました。いや、でも「ワーク」という点では関連性あるかも。つまりは「千里の道も一歩から」。すぐに結果を求めず、毎日コツコツやっていこうという身も蓋もない話ですね。ではでは、また次回の「月刊まいど屋」をお楽しみに!