【特集1】流亡のトップページimage_maidoya3
「月刊まいど屋の製作にもだいぶ慣れたでしょ、次は『特ダネ』を書いてみない? ギャラは別に出すから!」。まいど屋の社長で本誌の前編集長でもある田中氏から、こんな話をされたのは昨年の秋ごろだった。なんでもまいど屋では月に一度、トップページでセレクトした商品の特売セールを行い、商品リンクの横に何らかのテキストを付けている、との話である。「それって要するに商品説明ですよね? コピーライティングはちょっと苦手で。レポートみたいな記事ならいくらでも書けるんですけど……」「いや、読み物だよ。要は何か書いてあればいいんだ、商品とまったく関係なくてもいい!」。そう淀みなく言い切るのを聞いて、今回ばかりは言葉にならない不安を覚えた。リアル店舗と違ってオンラインショップは見た目の変化が少ないから、期間限定セールなどの「賑やかし」を積極的に行う。楽天でもアマゾンでもおなじみの光景だ。ここまではわかる。だが、そこに載せる文章が『なんでもいい』というのはどういうことか。各メーカーの売れ筋商品とか、今シーズンの着こなしの提案とか、ユーザーにそういう話題を提供するのが定石というものだろう。しかもトップページはもっとも人目に触れるショップの顔である。そこに『どうでもいい文章を載せよう』というのは、どう考えても常軌を逸している……。「あの、参考までにこれまでどんなテキストを載せてきたのか、見せてくれませんか?」「いいよ、すぐメールで送る」。このやりとりが"まいど屋迷走劇"の始まりとなることは、まだ誰も知る由もなかった。

特集1
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なごり惜しそうに「特ダネ」を眺める田中氏
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文章量はとんでもないことに……
●「特ダネ」暴走の軌跡
 
  さっそくメールに添付されていたWORDファイルを開くと、16万字を超えるテキストが怒涛のごとく押し寄せてきた。「インターネットから入手したファイルは、ウイルスに感染している可能性があります」というwindosの警告が、これほど説得力を持つシチュエーションもないだろう。孤独死した老人の家で発見した手記を開くような気分で文字を追い始める。
 
  《<ロイター通信、東京>日米関係筋によると、トランプ大統領が10月、国賓としてまいど屋を(以下略)》
 
  特売のドクターコートの横に載せるテキストとして、白衣どころかウェアにすらまるで関係のない文章が並んでいた。最近では吉本興業の不祥事から、いま世間をにぎわす「桜を見る会」など、いちおう時事ネタに絡めてはいるが、新聞や雑誌のコラムのように本題への導入になっているわけでもなく、ただ絡めてみただけ。ところが、昆虫を食べるときのベア・グリルスのような表情を浮かべながら画面をスクロールしていくうちに、記憶がよみがえった。あ、これ前に読んだことあるぞ!
 
  このとき、編集長は初めて「特ダネ」と呼ばれているものが、まいど屋トップページの下の方にある異常なテキスト量を付けた商品リンクであることを理解したのだった。ウェブサイトのデザインを破壊、いや蹂躙しつくしているアレ。あの奇怪な文字の塊を「代わりに書いてほしい」と自分は頼まれていたのだ。
 
  断ろう!――決意は完全に固まった。ちなみに「なんでも書けるフリーライター」を標榜している編集長が、依頼された仕事を断ったことは過去にほとんどない。記憶しているのは報酬が割に合わないケースだけだ。この「特ダネ」の条件面はまったく問題ないから、今回、目の前の仕事を蹴ったのは、これまでとまったく違う新たなケースということになる。
 
  すなわち「こんなの書けるか!」というわけだ。
 
  ●ギブアップ宣言
 
  「えー、書いてくれないの? 困ったな、どうしようかなぁ」
 
  埼玉県川口市。いつも訪問をためらうほど多忙を極めるまいど屋だが、この日は珍しく穏やかな時間が流れていた。編集長が「特ダネ」を引き受けるか考えている何日かの間に、すでにまいど屋のトップページには新たな「特ダネ」がアップされている。その文字量は過去最高レベルにまで増加しており、もはやスマホのカメラで読み込む三次元バーコードのようだ。もはや伊達や酔狂といった範疇を越え、禍々しささえ感じるまいど屋トップページを満足げに眺めているのは、いうまでもなく執筆者の田中氏である。
 
  「いやー、月刊まいど屋を自分で書くのやめたでしょ。ラクになってよかったんだけど、そのぶんこっちに力が入っちゃって、ついつい長くなるわけ。ほら、今月なんか特にヤバいよ。いつもみたいな流行歌や時事ネタのパロディとかじゃなくて完全に身辺雑記だからね。サイトに来てくれたお客さんもまったく意味わかんないんじゃないかなぁ……」
 
  極めて不穏な発言がジャブのように繰り出される。が、ここで怯んではいられない。「特ダネ」と同じくトップページを飾る『月刊まいど屋』を担う編集長としては、定期的な特売セールを行う背景や特集ページの意図、ひいてはウェブサイトの設計思想からまいど屋というショップの精神構造に至るまで、ひととおり頭に入れておく必要があるのだ。いや待てよ、それ以前にそもそも「特ダネを書くのがしんどい」と言ってなかったっけ?
 
  「そうだよ、これ書くだけで土日のどっちか潰れるからね。ホントなら注文ページに載せる商品説明テキストの方を書かなきゃいけないんだけど、『特ダネ』を書き始めるとつい余計なことを書きまくってすごく時間がかかっちゃう。まいど屋のオープンと同時に始めたときはマジメに商品のことを書いてたのに、だんだん脱線してきて、替え歌してみたり、それもネタ切れしたら物語風にしてみたりと遊ぶようになったわけ。これまでずっと自分で書いたのを読んで笑ったりしてたけど、もうさすがにしんどいね。正直かったるくてしかたない。セール価格にするとお客さんは喜んでくれるけれど、同業者の中には怒る人もいたりして、それが愉快、いや気になる面もあったというか……」
 
  まいど屋はネットショップなので夜でも注文が入ってくる。その対応をしながらコツコツと商品説明のテキストをアップし、さらに毎月の特ダネの商品を選んで、話題喚起のための文章を書き上げて載せる。このような超人的な仕事量をこなすのはもう不可能だ、と。それは悲鳴にも似た「ギブアップ宣言」だった。
 
  ●トップページの深い話
 
  というわけで「特ダネ」は2019年末をもって終了するわけだが、まいど屋ユーザーはガッカリしないでほしい。田中氏によれば、これまでのような10点ほどの商品をピックアップした特売イベント自体は、「毎月のセール」といったかたちで今後も続くという。つまり、あの商品リンクの横についた呪文のような文章がなくなり、「今月の特売商品はこの10点です」といったあいさつ文とともに、毎月、商品リンクがまいど屋トップページに並ぶことになる――って、え? わざわざ余計な文章なんかつけなくても、はじめからそれでよかったんじゃ? 怪訝な目を向ける編集長を見てとると、田中氏は「いい質問ですねぇ」と漏らす池上彰のような表情を浮かべて、その意図を語り出した。
 
  「あのさ、ネットショップで買物したとき、その店のこと覚えてる? アマゾンとかヨドバシじゃない個別の店で。そこの屋号とかトップページのデザインとか」
 
  「たまにオフィス用品の専門店でプリンターのトナーを買ったりしてますけど、ぜんぜん覚えてないですね。同じ店にまた注文したいときは過去の注文票メールを検索して、そこに貼られたリンクからお店のサイトに行ったりして……」
 
  「そうでしょ! 誰も『どこで買ったか』なんて覚えてないんだ。これがネットショップを運営する上で忘れちゃいけないこと。また同じ店で買おうと思っても、お客さんはなかなかショップに再訪できない。店の名前がわからなければグーグル検索でも出てこないから」
 
  「たしかに、楽天に出店してる個々のショップなんか、まったく見分けつきません」
 
  「そ・こ・で、まいど屋のトップページをもう一度見てほしい。何か気が付くことは?」
 
  「あっ……印象に残る! なんかヘンな文章が載ってたり、妙なキャラがいたり、ブラとかズラとかふざけたものが載ってたり……。雑然としたサイトのデザインもほかのショップとぜんぜん違いますね」
 
  「そう、まいど屋は『お客さんに覚えてもらうこと』を目指したネットショップなんだよ!」
 
  web製作会社に任せれば、イマドキ風の小ぎれいなサイトを作るのは簡単だ。しかし、それでは「よくあるユニフォームショップのひとつ」になってしまう。その結果、お客さんの記憶に残らずリピート購入にもつながらない。そうではなく、作業服を買い替えるとき「前はなんかヘンな店で買ったなぁ……。なんか長ったらしい商品説明があって、丸っこいキャラもいて、えーとたしか……まいど、だったっけ?」となんとか記憶をたどれるようにしておく。これがまいど屋のトップページに仕掛けられた” リピーター獲得システム”なのだ。
 
  まいど屋・最大の謎「なぜ、あんなサイトデザインなのか」が、ついに解けた瞬間だった。
 
  ●新プロジェクト始動!
 
  「だから『特ダネ』がなくなると困るんだよ。月替わりのセール商品とあいさつが並ぶだけじゃあどうにも弱い。お客さんの印象に残るトップページにするためには、『月刊まいど屋』なんかのほかに、何かインパクトのあるネタを載せておかなければ。……と、そこで、こういうものを用意しておいた」
 
  と、言いながら田中氏はWORDファイルを開いてプリントする。また、なんか長くてわけのわからない文章が出てくるのか……、と恐れを抱きながら目を落とすと、こちらの予想に反してそこにはCMのキャッチコピーのような整然とした文が並んでいた。
 
  《2006年、ある夏の日、インターネットの片隅に、名もなきユニフォームショップが誕生した。彼らが目指したのは、日本で使われている全ての作業着をネットで取り扱うという壮大な目標だった》
 
  これが、あの長文に代わるものなのか? 商品について書かれていないのはもはやツッコむまでもないが、これは自分語りというかなんというか。まさか、まいど屋の創業からこれまでを振り返るノンフィクションを書いていくつもりなのでは……。さまざまな憶測が頭の中を駆け巡る。
 
  「これで動画を作ってもらうことにした。素材はこのテキストとまいど屋の創業以来の秘蔵写真で、イメージとしてはアクション映画の予告編とか、とにかく壮大な感じで。『古畑任三郎』のオープニングみたいなシリアス感もあるといいなぁ。トップページを開くと、埋め込みの動画が流れていつものトラック運転手の画像に戻ってくる感じね。商品購入リンクはなし。宣伝じゃないから。とにかくこの動画で『まいど屋ここにあり』というのを見せたい!」
 
  というわけで、突如浮上したトップページ動画。例によって「メッセージは特にない」とのことで、ただサイト訪問者の印象に残ることだけを目指した新プロジェクトだ。公開は1月を予定しているというから、もうあまり余裕はない。
 
  「動画がアップされたらトップページの印象はガラッと変わる。まいど屋創業以来の大変化だよ。で、じつはもうウチのクリエイターチームが動画の製作に入っている。だいぶ前に始めたから、もうそろそろ完成も近いんじゃない? 編集長はぜひ、製作チームに密着して奮闘の様子をレポートするといいよ」
 
  ただでさえアレなトップページなのに、まいど屋はさらなる混沌を作り出していこうというのか。そう感じながらも、編集長はライブ中に起きたアクシデントを楽しむ観客のようにワクワクしている。頭の中ではこんな言葉が繰り返されていた。――正気にては大業ならず。
 
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浮上した動画プロジェクトの計画書
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忙しい師走のまいど屋