【特集2】動画職人たちの奮闘!image_maidoya3
いきなり!ステーキ……ではなく、いきなり浮上した動画プロジェクト。「制作の様子を見てきてほしい」との依頼を受けた編集部は、さっそくエンジニアチームが製作に取り組む現場を訪ねた。おそるおそるドアを開けると、見るからにハイスペックなPCを連ねたデスクで、製作指揮を執る男性スタッフHさんとサポート役の女性、Sさんが編集作業を行っているところだった。「あ、月刊まいど屋の取材ですか。ちょうどよかった、2、3日前にパイロット版が出来上がったところなんです。まだまだ修正を加えるところはありますが、いちおう最初から最後まで、通しでご覧になれますよ」。Hさんが「ほら」とキーボードを操作すると……おおっ、文字がスムーズに流れている! 続いてまいど屋の秘蔵写真が次々とカットイン! 切り替わるときのエフェクトもすげぇ! と思わずこちらのテンションも上がる。さすがウェブ製作の専門家、予想以上のクオリティだ。うーむ、動画を作ると聞いたときは、どんなヤバいものが出来上がるかと思ったけれど、フタを開けてみれば、ちゃんと体裁の整ったPRムービーである。「圧倒的な品揃えに全米が震えた」「超ブラックなハードワーク」といったテキストや"秘蔵写真"自体の問題はあるが……。それにしても、よくあのWORDファイルから、ここまでちゃんとした動画に漕ぎつけたものだ。きっとその和やかな表情からは想像もできない苦労があったのではないか――。そんな目を向けるとHさんは訥々と語り始めた。

特集2
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製作を担当するまいど屋エンジニアチーム
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従来の画像も組み込まれている
●「読ませる動画」を!
 
  「当初はまいど屋のサイト上で文字や写真をスライドさせてほしい、という話だったんですよ。それならYouTubeに動画をアップして、トップページに動画リンクを埋め込んだ方が簡単で早い。そんなわけで、ゴールはすぐイメージすることができましたね。で、問題だったのは素材としてもらったテキストですよ。ファイルを開けた瞬間、多すぎる! と思いました。写真をスライドさせる余地あるかな? と思うくらいで。レクチャー動画なんかは作り慣れているのですが、さすがにこれだけの文章が入ったムービーは作ったことがなかった……」
 
  異例のテキスト量をどう料理するか。Hさんが最初にぶつかったのがこの壁だった。言われてみれば、企業ホームページで流れる動画はよくあるものの、たいてい画像のスライドショーのようなもので、テキストは二言三言、最後にちょこっと出るだけ。「何かの文章を読ませる」というのは、そもそもサイト埋め込みのムービーでやることではないという。
 
  「とはいえ、定石通りのものを求めているわけでないのはわかってますから(笑)。テキストはカットせず全部流そう、と。前後関係のある文章になっているから、もうそのまま前から順に流すしかないんです。また、読んでもらうためには、サイト埋め込みサイズでも見える文字の大きさで、デザインにも気を配らなければならない。オーダーはこのテキストを使うことだけなんですが、条件をクリアするとなると意外に難しい」
 
  動画制作の第一歩は、カット割りを考えることから始まる。WORDファイルを受け取ったHさんは、さっそくガストにこもって青写真を練り始めた。腰を据えてじっくりと素材のテキストを読み込むうち、当初よりさらに難しさを感じたという。
 
  「このテキスト、一見ふざけているようですが、ちゃんと韻を踏んでいてリズムがあるんです。だから、ただ一定のスピードで流すだけだと魅力がなくなってしまう。心地よく読むことができて、しかも人を惹きつけるためには、表示するタイミングにも工夫を凝らし、メリハリのある展開にしなければいけないわけです。つまり、ちゃんと文章が頭に入ってくるムービーにするために、けっこう頭を使いましたよ……」
 
  ●混迷するコンセプト
 
  テキストの処理に加えてHさんを悩ませたのが、"味付け"の問題だ。たとえば発案者から「○○というメッセージを伝えたい」「親しみやすい雰囲気に」「コンセプトは××で」といった要望があれば、それに沿った要素を加えてムービー全体の方向性をつくっていくことができる。ところが田中氏から伝えられたのは「映画の宣伝風に」という漠然としたオーダーのみ。つまり、ほとんど「おまかせ」なのだ。
 
  「こういう動画を作るときって、ふつうは要望がたくさん出てくるものなんです。もちろん全部一気にかなえることはできないので、優先順位を付けてひとつひとつクリアしていったりするわけですが、今回はそれがほぼない。だから最終的にどういうテイストのムービーを目指すか、こっちでイチから考えないといけなかったんです。これがまた悩みのタネでした。要望が多いと盛り込むのが大変だと思うかもしれませんが、製作者の立場では『自由にやっていいよ』と言われるほうが大変なんです。何かアイデアを出そうにも手掛かりとなる課題そのものがないわけですから」
 
  そういえば、かつてインタビューした建築家も同じようなことを言っていた。注文住宅の依頼で「先生にお任せしたい」と言われるのがいちばんつらい、と。もちろん過去に建てた家を高く評価してくれているからこそ出てくるセリフであり、建築家自身が理想とする家づくりのチャンスがもらえるという意味でも「いい話」ではある。しかし、実際に取り掛かると、「寝室はどうしよう?」「キッチンに何を求める?」「玄関のイメージは?」という具合に、住宅の1から10までをいちいち考えなくてはならず、通常業務に支障をきたすようになったりするそうだ。「要望は多ければ多いほどいい。実現困難な夢でもどんどん言ってほしい。それがプランを考える上での手がかりになる」というのが、その建築家が施主にいつも伝えているメッセージだという。つまり、クリエイターの裁量が大き過ぎるのも考えものなのだ。
 
  話を動画に戻そう。このようなぼんやりしたオーダーを前にして、Hさんはどんなアプローチから解釈し、製作の方向性を定めていったのか?
 
  「素材の文章と写真を並べて、どうしよう……と悩んでいたとき、ひらめいたんです。動画全体を貫くコンセプト、その手掛かりは他にもあるんじゃないか、と」
 
  ブレイクスルーの瞬間が、目前に迫っていた。
 
  ●キーワード浮上!
 
  ただ映画の予告編風にテキストを流す――。それだけでは動画はただの情報であり、字幕やテロップのようなものだ。まいど屋のサイトを開いた人に何を感じ取ってほしいのか、ほかでもない製作者の自分が考えなければならない。Hさんはこう考えた。
 
  だが、思考はすぐ隘路に入り込む。まいど屋の動画制作はただの"ノリ"であり、訴えたいメッセージなどはじめからありはしないのだ。一体、自分はどうすれば……。頭を抱えそうになったとき、脳裏に思い浮かんだのは田中氏のことだった。動画としての成立を危うくするようなテキストを書き、使いづらさ満点の"秘蔵写真"を送ってきて、「あとは任せる」と言ってのけた今回の元凶、もとい発案者。おかしい、普通じゃない。とっくの昔にわかっていたことだが、どうかしているっ……!
 
  「ふと呟いたんですよ、『クレイジーだなぁ……』って。そのとき、あ、この言葉こそ動画のキーワードになるかもしれない、と。つまり本来ならマイルドにするべきアブノーマルさをあえて前面に押し出し、『まいど屋はクレイジーなネットストアである』というコンセプトで行く。そうすれば全体的な味付けをうまくまとめることができるんじゃないかと思ったわけです」
 
  まいど屋はクレイジーである――。世間の人がこのコンセプトをどう感じるかは知らないけれど、『月刊まいど屋』の読者なら心の底から納得がいくフレーズだろう。サイトのデザインはもちろんヤバいし(見慣れるとそれほど感じなくなるのは恐ろしいことだが)、商品説明テキストのテンションも異常。ほぼ日本中の作業服メーカーを網羅した空前の品ぞろえと、その実現のために命を削る経営者とスタッフたち。頭のてっぺんからつま先まで、360度どこから見ても「クレイジー」の一言だ。
 
  今回の動画ではそんなクレイジーさを肯定的に発信することを心がけたという。
 
  「伝えたかったのは、『まいど屋は普通の作業服ショップじゃないんだ』ということ。圧倒的な品ぞろえと驚きの低価格。それにネーム入れや丈つめ加工などの対応もやりすぎじゃないかと思うくらい親切で。要するに、まいど屋はお客さんのためにかなり無茶をしている、ということですよ」
 
  ●クリエイターの想い
 
  というわけで、コンセプトが固まったことで製作は順調に進むようになった。素材のテキストや商品写真だけでなく、さまざまな画像をあしらったり、文字にエフェクトを加えるなど、クリエイターとしての工夫も凝らす余裕が出てきたという。
 
  普段、まいど屋サイトのバナー製作などをしているSさんは、今回の動画でロゴの製作などを担当した。
 
  「まいど屋のロゴマークを動画に使おうと思ったんですが、すでにオリジナルデータはなかったので、サイトからトレースして新たに作りました。ほかにも、映画の予告に出てくる有名なロゴマークの"まいど屋版パロディ"をデザインしたりと、いろいろ遊ばせてもらってます。いつも作っている商品カテゴリごとのバナーなんかとは、かなりテイストが違うので、けっこう楽しい体験でしたね」
 
  一方、Hさんが心血を注いだテーマは、サイト訪問者が違和感を持たないようなクオリティの高い"見心地"だ。
 
  「文字を出すタイミングや動画のテンポは、納得がいくまで徹底的に追求しました。ここひと月ほどは、何度も繰り返し再生と修正を繰り返したので、もう目をつぶっても頭の中で再生できるくらいですよ。あと、テキストが出てくるときのエフェクトも、既視感のあるものにならないようにするため、複数の効果を重ねて使ったりすることで複雑で見応えのあるものにしました。エフェクトやパーツを多用すると余計なコストがかかるのですが、そのあたりはいろいろ試しながら兼ね合いを考えつつ……。最終的には、軽くて効果的なエフェクトだけを実装した、いい仕上がりになったと思います」
 
  と、回想も終わりに近づいて、Hさんははじめて満足げな表情を浮かべた。今回のインタビューは苦労話が中心になってしまったが、もちろんクリエイターというのは基本的に新しいものをつくるのが好きな人たち。今回の動画製作でも、表現者としての「挑戦」があったという。最後にそんな一言を紹介して、この制作ドキュメントの締めとしよう。
 
  「まいど屋のクレイジーさと同時に、ひそかに表現したかったのは社長のクレイジーな仕事姿勢ですね。素材提供された文章には苦しめられましたけど、あのハードな働きぶり、仕事への情熱だけは本気で見習いたいといつも思っているんです。ムービーを通じて、まいど屋のヤバさに加えてこの店を率いる社長がどんな人なのか、その人柄も少しはお客さんに伝わるといいかな、と思っています」
 
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「アップは1月って、マジっすか?」
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エナジードリンクを飲みつつ作業は続く……