まいど通信


        

まいど! 編集長の奥野です。今回は、コロナ禍の世を賑わす新しい働き方「ギグワーク」の体験記をお送りしました。ちょっとお金が足りないとき、または休日に時間を持て余しているとき、サクッと数時間だけ働いてみるのはいかがでしょう? きっと充実した一日になりますよ。その際、必要になる作業着や安全靴などは、ぜひ「まいど屋」で!

●マッチングは万能か?

体験ルポの趣旨から外れるので書かなかったんですが、よく考えたら、この「マッチングアプリ」って、けっこうヤバいですね。

まず、互いに相手が何者なのかわからない。企業もどんな人が来るかわからないし、ワーカーもどんな現場かわからない。ひとつ目のレポートのような大手企業なら安心ですけれど、安全対策などがずさんな現場に応募してしまうケースもありえる。労災認定など、法的なことはよくわかりませんが、仮に治療費や保険金が下りるとしても誰もケガなどしたくないでしょう。

マッチングアプリの肝は「評価システム」です。企業はワーカーを、ワーカーは企業を、と相互にレビューすることで、あまりにも低評価な企業やワーカーは自然に淘汰される(とアプリ運営者は説明している)。しかし、そのような「規模による自浄作用」を期待するにはまだまだ求人が少なすぎるし、また、実際に働いたワーカーの低評価のレビューが増えてから排除されるというのでは、遅すぎるのではないでしょうか。あと、生活に困っているような場合「泣き寝入り」するケースもあるのではないか、といった懸念もあります。

少なくとも、私は派遣された作業現場で感じた安全上の問題などをマッチング事業者には伝えませんでした。なぜかと言えば、そんなことしてもこちらに何のメリットもないから。ダメな会社には二度と関わらない。それだけの話です。

以上は主にワーカー側に立った問題提起でしたが、雇用する側も注意しておくべきことがあると思います。

●「問題化」の可能性

それは「本人確認」です。マッチングされたワーカーは当日、いきなり現場に行って働くわけですけど、そこで身分証の提出を求められないケースも多い。企業側が持っているQRコードをワーカーが読み込む(チェックイン)ことで、アプリ運営側は「ちゃんと現場入りした」と見なします。つまり「スマホを持っている人が本人だ」という前提になっているわけです。どうでしょう、このシステムに穴はないのでしょうか。他人からスマホを借りて「なりすまし」のチェックインするのも不可能ではない気がします。とくに今は、みんなマスクしてますからね……。

実際、すでにこの便利なシステムを悪用した事件は起きているのです。いちばん有名なのは、今年2月に発覚した大村秀章・愛知県知事に対するリコール署名の不正事件。市民から集めたと見せかけて、じつはある団体がギグワーカーを集めて署名を偽造していました。その「手書き要員」を集めるために使われたのが、なんと今回の取材で編集長が利用したマッチングアプリなのです。

正直、悪用する人はいるだろうなとは思っていました。アプリを使い始めてすぐ思い付いたのは、たとえば、法に触れるようなモノを受け渡しするようなケースです。捜査が心配なら、3人ほどギグワーク要員を雇って複雑なルートでリレー輸送させたり、わざわざ遠隔地のポストに投函させたりといった偽装工作をしておく。「指定場所まで荷物を運ぶだけの簡単なお仕事です」と書けば怪しまれるでしょうが、「軽作業」ならあっさり集まるかもしれません。なにせ、募集枠は秒で埋まるわけですから。

このアプリを利用できるのは18歳以上。利用者の大半は大学生とのことです。まあ、トラブルに巻き込まれるようなケースはほぼないと思いますけれど、若い人にはあまりオススメしたくないですね。ある程度、経験を重ねないと危険性は見抜けないものです。

と、ネガティブな話ばかりしてしまったものの、編集長はギグワーク、けっこう好きです。選考や面接がないから話が早いし、いろんな現場に行って職業体験ができるから。

べつにすごくやりたいわけじゃないのに、「不採用」が来ると落ち込むんですよ……。とくに今回、チラシ配りのバイトに連続で落ちたときは、本当に言葉を失いました。もう二度とこんな気持ちは味わいたくないので、編集長は「早いもの勝ち」のマッチングアプリを使います。もしヤバい現場に行くことになっても、自己責任と割り切って。

   ☆

というわけで、今月も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。編集長の体験ルポシリーズはこれで一旦終了。4月号はプロの職業人の生き方に迫るインタビューをお送りする予定です。では次回をお楽しみに!