【貨物編】コンテナ奮戦記image_maidoya3
何かが足りない――。ここまで物流倉庫やフードデリバリーの現場で働いてきたが、まだギグワークの本質を味わえていない気がしている。それは、数秒から数十分の競技にすべてを賭けるアスリートのような、短時間で全力を注ぐ行為。いわば「出し切った」という実感だ。仕事に過度なやりがいを求めるのは間違っているのかもしれない。しかし、せっかくいつものキーボードをカチャカチャやり続ける日々から離れて、体を動かす現場の仕事をしているのだから、一度くらいは完全燃焼をしたい。体中の筋肉という筋肉を動かし尽くし、汗の染みこんだ作業着のまま、重い足取りで居酒屋のカウンターにどっかり座り、キンキンに冷えたビールを飲み干して「ああ、今日は頑張ったなぁ……」と浸りたいのだ。ところが「軽作業」の募集は、あまり体を動かさない仕事(それはそれでキツいのだが)も多く、実際に現場に行くまで作業内容はわからない。そこで、禁断領域に手を出すことにした「体力に自信のある人限定」と表示のある求人である。説明には「10キロ近くある段ボール箱を運ぶ」とある。ま、これくらいならなんとかなるだろう、と編集長は「応募する」を押したのだった。

貨物編
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デニムの作業着でキメる!
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今回の現場は物流倉庫
●担当者はどこに……
 
   ギグワークはほとんどの場合、選考や面接がない。その代わりに、一つひとつの現場での仕事をこなし続けた実績が、ワーカーの信用を担保する仕組みになっている。ちなみに「タイミー」では、無連絡欠勤をすると永久アカウント停止。応募した仕事を体調不良などでキャンセルした場合も「実績」として残り「キャンセル率×%」と表示が出る。さらに雇用者は個別のワーカーに「Good」「Bad」の評価をつけることができ、「Good率」は企業側に情報提供される。
 
  というわけだから、現場に入るときの第一印象は大事だ。マッチングサービス側でも、「××から来ました、△△です!」と大きな声で挨拶しましょう、と指南している。従業員からすれば、職場にいきなり知らない人が入ってくるわけだから、当然の心がけと言えるだろう。編集長も今回の現場に入るやいなや、戦力アピールをかねて元気よくハキハキと自己紹介した。……が、少し様子がおかしい。
 
  「えっ? ……ああ、アレか」
 
  「××から来ました!」
 
  「ああ……、じゃあ、そこ座っといて」
 
  現場リーダーらしき男性は、タバコを吸いながらぼそぼそ呟いた。この人が担当なのかわからないけれど、ほかに声をかけられる人がいない。自販機の前で休憩中の作業員はおそらく常勤スタッフだろうが、顔を上げすらしない。
 
  「はい、私が担当の××です。今日は△△の作業をやってもらいます。時間が余ったらほかにもお願いするかもしれません。まあ、無理しないように」
 
  こちらとしては、こういう展開を待っているわけだが、従業員はみんな煙にまみれながらスマホをつついているだけだ。そういえば、求人には「とっても明るい職場です」「未経験でも丁寧に教えます」「親切な先輩になんでも質問を」と書いてあったのを思い出した。ああ、こういうことか……。
 
  始業時間になったけど誰も動かないので、ただ待つ。リーダー(?)は缶コーヒーを飲みながら、フォークリフトのオペレーターと世間話をしている。これからどこで何をするのか。誰の指示を聞けばいいのか。一切の情報が与えられないまま時間だけが過ぎていく。
 
  ●やってきたモノ
 
  あまりにもヒマなので、倉庫内の貨物をチェックしてみる。積んである段の中までは見えないけれど、どうやらコップやお皿といったキャラクター雑貨を扱っている業者のようだ。ポケモンやディズニー、すみっコぐらしといった文字が段ボール箱のサイドにちらほら見える。そんなに重いものではなさそうだが……。
 
  そんなことを考えているとき、ついにリーダーが口を開いた。
 
  「あっ……、来たわ」
 
  スタッフが一斉に顔を上げる。
 
  事業所に現れたのはトレーラーに牽引された海上コンテナだった。
 
  すかさず従業員の一人がボルトクリッパーで封印具をカットする。開け放たれたコンテナの内部には、天井までぎっしりと段ボール箱が詰まっていた。なにもここまで几帳面に詰め込まなくてもいいのに、と言いたくなるくらいに。
 
  フォークの運転手が、コンテナの床の高さまでパレットを積み上げる。
 
  「じゃあ、この人と一緒に上がって」
 
  このとき、ついに「作業」の内容を理解した。
 
  コンテナの中に入って、ギチギチに詰め込まれた段ボールを引っ張り出し、パレットに積みあげる――。たしかに人の手でしかできない作業だ(物流用語で「デバンニング」というらしい)。しかし、これほどの量がたった二人で捌けるのだろうか?
 
  とにかくやってみるしかない。タオルを頭に巻き、パレットに足をかけてコンテナ内部に上がる。
 
  「安全靴が必要」といった文言は募集要項になかったのに、明らかにスニーカーでは危険な作業だ。ちょっと大げさかも、とも思ったものの、ストレッチデニムの作業着&高性能の安全靴というフル装備で来てよかった! 今回は会社がアレなので仕方ないけれど、ヘルメットも着用した方がいいのは言うまでもない。
 
  ※編集部註:読者の皆さまへ。もしギグワークの現場で、安全上の問題があると感じた場合は、決して無理をせずマッチング業者に連絡してください。不安な人は保護具を持参した方がいいと思います。
 
  ●ひたすら段ボール!
 
  現場入りから20分、やっと作業開始だ。
 
  まず、崩落を防ぐために上の段ボールを優先的に下ろし、階段状にしていく。とはいうものの、コンテナ内の高さは2m以上ある上、足下に箱があっては手も届かない。このへんはまあ「ミスったら落とすかも」という作業になるのはやむを得ない。
 
  貨物が軽いのは幸いだった。たぶん100円ショップとかで売られているようなプラ製品なので、ひと箱10kg程度。ここだけは募集要項に書いてあったとおりだった。ただし、商品によっては1.5個分くらいの重量のものがあり、それがよりによって天井の近くに固まっていたりする。作業を始めてまだ10分くらいなのに、汗ぐっしょりだ。
 
  パレットに箱を積むときは頭を使う。フォークで運んでいるときに崩れないように特殊な積み方をしなくてはならない。3、4段積むときは、格段を同じように積むのではなく、上の段の重量で下の段がガッチリ固定されるようにパターンを工夫する。これを「8回し」や「9回し」といって、上から見ると「卍」のように見える。はっきり言って素人には手に負えない。一緒にコンテナに入った人が教えてくれて助かった。
 
  30分ほど経過。10kg程度の段ボールとはいえ、ずっと休みなく持ち上げたり積み下ろしたりしていると体に堪える。とくにパレットに箱を4段以上積むときがキツい。顔の高さくらいまで段ボールを持ち上げないと届かないのだ。そもそも体格的に無理があるような気もするけれど、やるしかない。根性でラスト15cmを持ち上げる。
 
  今日ほどコンテナの長さを恨めしく思ったことはない。汗をボタボタこぼしながら必死で積み出しているのに、ほとんど奥に進めないのだ。
 
  「あ、それ違うヤツ」
 
  もうひとりの作業員は、箱を積みながら商品名をちゃんとチェックしている。
 
  「マスクぼとぼとやわ~」
 
  フォークのオペレーターに笑顔を向ける。さすが本職、余裕がある。
 
  ●「奥行き」が憎い
 
  1時間が経過。ついにコンテナの手前に数メートルのスペースができてきた。作業の進捗が実感できてうれしい。だが、この奥はまだ10m近くあって、天井まで段ボールでぎっちぎっちなのだ。正直、けっこう体力を消耗している。この仕事をするにはまだ修行が足りなかったようだ。
 
  疲れきった腕や肩に、段ボールは容赦なくダメージを与えてくる。その側面には「ピカチュウ 仲良しフレンズ」とか「くまのプーさん のんびりシリーズ」とか「すみっコぐらし お誕生日セット」とか、ファンシーでほのぼのした商品名がプリントされていて、凶悪な重量とかわいい商品名との狭間で頭が混乱してくる。
 
  ピカチュウ、もう勘弁して! 重い、死んじゃうよプーさん!
 
  上半身は限界を迎えつつあるので下半身を使っていくことにした。体を曲げて持ち上げるのではなく、足を開いてしっかり腰を割り、低い姿勢で荷物を運ぶ。ややスピードは落ちるものの、こちらのほうが体の負担が少ない。ストレッチデニムのパンツはどれだけ腰を落としてもツッパリ感がなく、体の動きを妨げない。汗で濡れても固くなったり貼り付いたりすることもなく、快適だった。
 
  安全靴も予想外の効果を発揮した。床に置かれた段ボールを持ち上げるとき、底の部分につま先を当て「支点」とし、手前に倒すようにすると持ち上げやすいのだ。普通のスニーカーなら足の指を痛めてしまうだろう。もともと倉庫の中を歩き回るようなケースを考えて用意した安全靴だったが、何の役に立つかは使ってみないとわからない。新品の安全靴は1時間ほどでキズだらけになってしまった。
 
  フィジカルに恵まれた人なら、普段着でもじゅうぶんこなせる作業かもしれない。しかし、そうではない人間は、最新のウェアや靴で身体機能を拡張しないと太刀打ちできないし、疲労が深まるとケガや事故につながってしまう。「ギア」としてのワークウェアの力を思い知らされた。
 
  ●晴れやかな帰路
 
  ついにコンテナのいちばん奥に到達した。ここまでくれば、もう体力の配分を考える必要はない。フルスロットル、一気呵成にパレットに積んでいく。コンテナ開口部に立ち、最後のパレットが運び出されていくのを見届けると、マスクをずらして深呼吸。時計を見ると、作業開始から90分ほどしか経っていなかった。人間やればできるものだ。
 
  コンテナの中をホウキで掃いて、倉庫に戻る。
 
  「ほかに何かやることありますか?」
 
  「ああ、しばらく休憩しといて」
 
  水を飲んで喫煙所のベンチに座った。背もたれに体を預けるともう立ち上がれない……、といった感じになるかと思いきや、意外と元気だ。もう一本コンテナをやれ、と言われてもなんとかできそうな気がする。絶対やりたくないけど。
 
  終了時間まであと30分ほど。今回のバイトは合計2時間で、うち最初の20分くらいは、コンテナが来るのを待っているだけだった。そのあと、90分ほどコンテナの中で牛馬のごとく働いて、今に至る。あとは15分ほど簡単な作業でもするのだろうか? ちらちらとリーダーに視線を送ってみるものの、仕切り前の横綱・鶴竜のような表情からは、何ひとつとして読み取ることができない。
 
  このあと何をするにしろ、仕事はほぼ終わりだ。実働90分で報酬2500円(交通費500円込み)だから、時給としては悪くないのかもしれない。だが、某社ロジスティクスセンター休憩室のような居心地のいい場所ではなく、この会社に拘束されるのは苦痛だ。時計を見ると、終了まであと20分を切っていた。勇気を出してリーダーに言ってみる。
 
  「あの僕、16時で終わりなんですけど」
 
  「え? 2時間だけかいな?」
 
  「はい(やっぱり理解してなかった……)」
 
  「うーん、じゃあもう上がってええわ!」
 
  「あざーーっす!」
 
     ☆
 
  帰宅途中、家まで15分ほどのターミナル駅で途中下車。商店街の焼き鳥屋に入る。緊急事態宣言中は20時閉店のため、平常時より2時間ほど早くオープンしている。お酒のラストオーダーは19時までだから、17時や18時の仕事上がりではキツい。しかし、今日の編集長にはぴったりのスケジュールだ。
 
  カウンターに座ると女性店員が「お疲れさまでした!」とあいさつ。これも作業服のおかげだ。計画通り、一昔前のCMのようにビールを喉を鳴らしながら呑む。と、胸の奥から「やりきった感」がこみ上げてきた。
 
  店はすでに満員である。向かいの厨房ではマスク姿の店長が慌ただしく鳥を焼いていた。串のオーダーが入るたび復唱するその声は、痛々しく涸れている。彼がカウンター越しに差し出す串を堪能し、ラストオーダーの19時前に会計した。
 
  店を出て駅に向かおうとすると、背後から勢いよく扉を開ける音がした。振り返ると、なんとさっきの店長である。
 
  「またお願いします! きょうは早くてすみません! ぜひまた……ぜひ、お願いしますッ!」
 
  「大丈夫、今度はゆっくり来ますよ!」と、マスクの中で言いながら、大きく手を振る。
 
  懸命に働く人の姿は、なぜ胸を打つのだろう。
 
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  【ギグワーク その③】海上コンテナからの雑貨搬出
  肉体疲労度=☆☆☆☆☆☆☆(かなりキツい)
  精神疲労度=☆☆☆☆(会社がヤバい)
  やりがい=☆☆☆☆☆(いい筋トレになる)
  報酬=2時間で2500円(交通費込み)
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大活躍のアシックス安全靴
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ついにコンテナをやっつけた……

    

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