月刊まいど屋 --特集-- 2010年10月号[日進ゴム]1ページ

日進ゴム本社の会議室。挨拶と雑談を交わし、さっそく『ハイパーV』のことを質問しようとすると、おもむろに「DVDを見ませんか」と内田さん。『ハイパーV』が人気バラエティ番組に取り上げられた映像があるというのである。屈強なラガーマン達が油で濡れた斜面を駆け上がる。他社のスニーカーではスリップして転がり落ちる彼らが、『ハイパーV』を履くといとも簡単に斜面を上ってしまうという内容。ビデオを見終わると、福嶋さんが言う。「じゃあ、実際に試してみましょうか」。
彼が指差した会議室の脇には、鉄板で坂道がつくられていた。そこに油を垂らすので、実際に上ってくださいと言うのだ。少しばかり怖かったが、言われるままにハイパーVを履いてみると足裏には確かなグリップ力。まったく滑ることなく、斜面の上に立つことができた。試しに自分の靴で片足を置くと、ものすごく滑る。両足とも乗せたら、絶対に立っていられない。これだけインパクトのあるデモンストレーションもないだろう。もう、納得するしかないのである。ハイバーVなら滑らない。滑らない靴を探しているお客さまには、ハイパーVが断然オススメだ。
「最初は安全スニーカーにハイパーVを搭載して売り出しました。安全靴を使用するような危険な現場では、耐滑性能に対する要望も切実だったからです。ちょっとしたスリップが大事故につながってしまうから、ハイパーV搭載モデルは大変喜ばれた。SPIDER MAX 6000や2000などのシリーズです」。内田さんが続ける。「私たちの商品が現場の役に立っていることを知って嬉しかった。ところが、しばらくすると、安全靴を履くお客さま以外から、『ハイパーVの商品はないのか』という声が聞こえ始めた。確かにスリップに注意する場面は他にもある。油で濡れたキッチンのフロアや入浴を助ける介護施設など、数え上げればキリがない。ハイパーVのラインナップを横に広げていくきっかけになりました」。
同社が『ハイパーV』を開発する際に苦心したのは、ソールの材質と形状だという。ゴムの配合と、V字の滑り止めの角度を突き詰め、接地面から完全に油分を取り除くことを目指した。「難しかった。防滑性に関する情報が全くなかったから。自分たちが納得できる防滑性能を実現するまでに試作したパターンは600種類もあります。完成までに膨大な時間がかかりましたが、諦めようとは思わなかった。みんな絶対にやってやると必死でしたよ。年間2600人が転倒事故で亡くなられている。そこを完全にゼロにすることが私たちの使命なんです」そう言い切る両氏の表情が、強く印象に残った今回の取材だった。