第3章 諸君、この際だから言っちゃいなよ! image_maidoya3
開発について話そう。通販ショップの特集記事で、なんでIT系の開発話なのって、そんな素朴な疑問はここではとりあえず封印しておいて、話の続きを聞いてほしい。エンジニアの仕事ぶりについて書くのは、別に彼らの苦労話を披露したかったからではなく、オフィスチームの3人娘だけの話を聞いていたのでは、いささか公平感を欠くからだ。公平感?そう、公平感だ。事務コレ!は彼女たちの努力だけでひょいひょいと出来上がったわけではない。アイデアが出たら、それを実際にプログラム化する作業が待っている。そして、世間一般の会社でよくあるように、企画側と開発側は、事務コレ!の立ち上げ準備期間中、同じ社内にいて同じ目標を共有しながら、時として激しくぶつかり合っていた。事務コレ!の画面構成には、開発側の熱い想いもたくさん反映されている。一方だけの話でおしまいにしたのでは公平ではないと言ったのはそのためだ。
  開発側のチームリーダーの名前は奥(おく)という。まわりから、奥さん、奥さん、と呼ばれているから、初めて会社に来た人は面食らうことになる。おーい、奥さん、今夜空いてる?早くしようよ。奥さん、このくらいいいだろ、もったいぶらずにOKしてくれよ。きっと、来客にはずいぶん馴れ馴れしい職場だなあって思われるんだろうな。でも、それは余計な話。
  もったいぶらずに云々のくだりは、事務コレ!の開発期間中、オフィスチームの3人からも頻繁に発せられた。チームからはあれもこれもと要求が出てくる。何もそこまで凝らなくっても、もう十分トップクラスの水準に達しているんじゃないって反論しても聞く耳を持たない。他の追随を許さない、圧倒的なレベルのオフィスウェア専門店を作るっていう金科玉条の前では妥協の二文字はあり得ない。狂信的な原理主義者といっても差し支えのないほどだから、話せばわかるなんてことはまず期待できない。で、開発チームも意地になって、じゃあ、こんな風にしたらもっとかっこいいのができるよ、徹夜してでもやってやるよってことになる。結局社内にブレーキ役が誰もいなくなり、バベルの塔がどこまでも空に伸びて行くように、事務コレ!のプロジェクトプランも自分たちの能力の限界を超え、はるか天空の高みに向かってするすると拡大していった。以下はそんな無謀なプロジェクトを無事に完成させた開発チームの証言である。接近戦の打ち合いが続くボクシングのような過酷な開発期間中、彼らは何を想い、どう危機を乗り越えたのか。なんでIT系の開発話を聞かなきゃいけないのって野暮なことを言わずに、ここはどうか彼らの言い分を聞いてやってほしい。
 

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寡黙な開発チームの日常風景
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商品ページのソースコードを書く奥さん
開発チームのメンバーは、その仕事の性質からか、皆、おしなべて話を苦手としている。でも、彼らの内なる声に根気強く耳を傾ければ、それなりに聞こえてくるものがある。2013年春に3人体制でチームを立ち上げて9ヶ月。彼らの想いの断片を拾い集めた証言集。
 
  【証言1】チームリーダーのぼやき
  奥です。商品ページを担当し、商品名、商品ID、画像などのデータをスタッフ用管理画面に登録していく仕事をしています。『まいど屋』のデータを『事務コレ!』に正しく登録する機能を作るのがタイヘンでした。去年の夏は帰宅もままならず、サウナやマンガ喫茶で夜を明かしました。サウナは回数券まで買いました。企画女子チームとの静かなバトルもありました。9月には開発メンバーの1人が1ヶ月も抜けました。正直、きつかったです。でも、ただ前を向いてやるだけです。ゴールは、もう目の前です。
 
  【証言2】古参、フクシマの言い分
  なーんも文句は言いません。いや、言えません!といったほうが、しっくりくるかな。これまで、『まいど屋』立ち上げメンバーの一人としてシステムにへばりついて頑張ってきた。まいど屋のシステムを動かしてきたのは自分だという自負がある。それがどうだ。9月に1ヶ月の長期休暇をとって帰ってきたら、なんか空気が違う。こういうのを針のムシロっていうんだろうか。でもさ、前々からちゃんと言ってあったはず。今年こそ海外長期滞在敢行!って。
 
  【証言3】新人、平尾の光明
  社会人1年目です。入社してちょっと研修を受けて、あとはOJTでここまでやってきました。今やっているのはメーカーページ商品検索の部分。『まいど屋』サイトの思想を受け継いで作り込んでいます。プロジェクトのメンバーになるまでデータベースに触ったことがなくて、最初はさっぱり分からなかったけど、先輩2人に教えてもらいながら進めてきました。えっ、動作ですか?今年に入って、ようやくまともに動くようになってきました。今もうまく動くかどうか、テストを繰り返しているところです。今のところ大きなトラブルはありませんが、今後出てくるかもしれません。とにかく、バグを潰して動作確認。オープンまでこの繰り返しです。
 
  【証言4】古参、フクシマのシゴト
  私の仕事は“つなぎこみ”。既存の『まいど屋』サイトと新サイト『事務コレ!』との連携、データの受け渡し。それと、まいど屋クーポンが新サイトでそのまま使えるよう、クーポン機能も今やっている。オーダーまわりは私が全部引き受けた。今度のサイト、あれもこれもと要求される機能がやけに多くて、作り込みがキツイんだけど・・・。
 
  【証言5】オフィスチームとの攻防
  奥です。一応、開発チームのリーダーなので、オフィスチームとはいろいろありました。「単体でなく、そのままコーディネートで購入できるセットアップをやりたいの」「ジャケットとスカート、別々のページで買うんじゃなくて、1つのページで買えるようにしたいんだけど」・・・って、カンタンに言ってくれるよな。確かに同じページで買えると便利だとは思うけど、それを実現するための作業量を考えると目眩がする。どうしようかと、言われたときはつい躊躇してしまう。最終的には絶対にやることになるんだけど。今は作業も落ち着いてきたので、いいものができたなと満足していますが、忙しくてテンパッているときは、コノヤロウと思ったことだって何度もあります。あ、この部分、オフレコでお願いします。彼女たちには言わないでくださいね。
 
  【証言6】新人、平尾の満悦
  「ジャケット」で検索すると、ジャケットがダダダッと出てくるだけでなく、ジャケットの中でもこのメーカーで!という絞り込み機能を作りました。プログラマーとして1人で全部をガッツリやることはないけれど、このプロジェクトのメンバーになれて本当に良かった。今までこんな大がかりにやったことがなかったので、ぜ~んぶ新鮮!達成感があります!!
 
  【証言7】つい応えてしまう、奥の性分
  今はオフィスチームから来た細かい指摘を消化しています。「登録必須項目に○○を加えてほしい」とか、「××が動かないんですけど、修正してください」とか。機能を作り次第、オフィスチームに実際に登録して確認してもらって、うまく動かなければ、その都度対応していく。何度も言うようですが、一時は本当に苦しかった。オフィスチームとの意見のすり合わせができないまま時が過ぎ、互いの意見が出揃うまで時間がかかった。今思えば、最初から自分たちは「こうやりたい」「ここまでの機能なら載せられる」とキチンと言えばよかったんです。去年の秋ごろ、もう時間を無駄にできないと腹をくくって、とりあえず自分たちの意見は封印して、チームから出てきたリクエストを文句を言わずに全部実現してやるって開き直った。リクエストに応えるのが開発の使命。ムリと分かってても、何とかしちゃうのが性分。遅れた分は取り戻せ!で、しばらくがんばっていると、エンジニアとしての本能でやっぱり自分のアイデアも実装したくなる。それでついつい温めていたアイデアを提案したりすると、3人が喜んで、さらに追加のリクエストが来る。ただでさえ時間がないのに、おかげでまたしばらくサウナ通い。受付のおばちゃんが、いらっしゃいませじゃなくてお帰りって言ったときは悲しかった。提案なんかしなきゃよかったとその時は思いましたよ。あ、このコメント、書かないでください。オフィスチームのお姉さんたちと一緒に仕事ができて、自分もすごく楽しめたって言っておいてくださいね。
 
  寡黙な彼らの声なき声。勇気を出してコトバにしてくれて、ありがとう。そして皆さん、最後まで読んでくれてありがとう。『事務コレ!』を訪れたら思い出してほしい。そのワンクリックの向こうに、彼らのとてつもない時間とそれぞれの想いがあったことを。
 
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商品検索のソースコードを書く平尾さん