【アイトス】カオスが生み出す明白な独自性image_maidoya3
先日、編集部に突然アイトスの営業マンから電話があった。これから上役を連れてまいど屋に来るという。まいど屋が何か都合の悪いことでもやらかしたのかなとあれこれ思案していると、30分もしないうちに彼らは現れた。まいど屋担当のいつもの営業マンのほか、東京支店長さんや営業課長さんなど、総勢5名の大所帯だ。なんでも、安全靴のセールスキャンペーンが行われて、まいど屋の販売数量が断トツで多かったのだそうだ。キャンペーンに参加した記憶はなかったのだけれど、とにかく記念の賞品を置いて彼らは帰っていった。滞在時間は正味30分くらいだっただろうか。そのわずかな時間で最近の市場動向やら、売れ筋商品の傾向やらの話をし、アイトスとまいど屋の今後の協力関係のことを確認し、おまけにバタバタとこの取材のことまで決まってしまった。編集部としてもちょうど春夏作業服の特集で取り上げるメーカーを検討していたところだったので渡りに船だったのだが、あまりにもテキパキと物事が決まるとこちらとしては狐につままれたような気持ちになる。
  レポートの冒頭にこんな話を持ち出したのは、このエピソードが良くも悪くもアイトスというメーカーの体質をよく表しているからだ。そう、アイトスと一緒に仕事をするときは、いつもこんな調子なのだ。そして、大抵、結果はいい方に転がっていく。勢いがあって多少危なっかしくも思えるが、気が付くとへえ、なるほどねと感心するようなカタチがちゃんと出来上がっている。多分、アイトスのつかみどころのなさ、同社が抱える驚異的な商品ラインナップの幅広さは、こうした社風が生み出したのだろう。作業服のほか、先ほど話に出てきた安全靴、警備業やサービス業向けのユニフォーム、白衣まである。かなり意識してテーマを絞ってやらないと、初心者は簡単に迷子になる。何かわけのわからないるつぼの中に放り込まれてしまったように。
  アメーバーみたいに増殖を続け、混沌の中に秩序を築き上げようとするアイトスは、編集部にとっても手強い相手だ。まともにぶつかっていっても一般の皆さんと同じように咀嚼しきれない恐れが十分にある。だから、この取材では春夏作業服、特に新商品に狙いを定めた。彼らが今度はどんなことをしでかしたのか、しっかりと確認し、編集部なりの解釈をしておきたい。読者の皆さんが混沌のるつぼで迷い人にならないように。
 

アイトス
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通気性を高めるフロントベンチレーション(AZ-30530)
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「ドライ愛す」仕様のベンチレーション(AZ-30430)
「作業服でアンケートをとると、ご要望のトップにくるのは、やはり動きやすさ、生地の強度です。最近はファッション性も重要になってきていますが、やはり機能あってのデザインなんですね。その逆であることは決してないんです。そこで勘違いをすると、いつか自分たちで自分たち自身を否定することになる。気をつけなきゃいけません。そういう意味で今春夏も、特徴的な機能を明解に打ち出した、わかりやすい新商品を出しています」。そう熱っぽく切り出したのはアイトス商品部 商品課の柴山さん。無秩序に、ただやみくもに動き回っているように見えても、ベースにしっかりした軸があるから、破綻せずにラインナップを広げていけるのだという。なるほど、そうなのかもしれない。じゃ、それが具体的なカタチになるとどうなるか。今回柴山さんが紹介してくれる新作は3シリーズ。一つは、動きやすさと涼しさを両立させたCOOL STRECH。一つは涼しさを徹底追求したCOOL DRY。そして、もう一つは、生産現場での異物混入を防ぐNO POCKET WORK WEARだ。
  それでは、1つ目、COOL STRECH『30530』シリーズから。「カジュアル系ワークブランド『AZITO(アジト)』から昨年秋に出した新作(AZ-60301・60501ほか)の春夏バージョンです。秋冬物ではストレッチによる動きやすさを徹底的に追求し、皆さんから高い評価をいただきましたが、春夏はこれに涼しさをプラスしています」。
  注目すべきは、ブルゾンのフロント切り替え部分。一見すると普通のブルゾンとなんら変わりがないが、左右に少し引っ張ると、胸ポケットから裾に向けてメッシュ仕様のベンチレーションが一直線に走っているのが見てとれる。さらに背中上部のヨーク部分にも肩幅いっぱいにベンチレーションが。。。「・・・でしょ!ウェアの中を風が抜けるんです。フロントファスナーを閉めても、動くたびに熱気や湿気が排出されて涼しく過ごせます」。
  機能的な特徴はまだまだある。「ブルゾンは背にアクションプリーツ、袖に肘タックを入れて、より動きやすくしています。また、ブルゾンとシャツの背中、袖、脇ポケットには反射パイピングを施しました。ふつうの織りに反射材を織り込んでいるので、よくあるシルバーの反射材と違ってデザイン的な一体感があり、見た目もカッコいい」。
  アイテムは、長袖ブルゾン、長袖シャツ、カーゴ、スラックス。帯電防止機能もきっちり押さえ、トップスはSS~、パンツは3S~のサイズバリエで女性にも対応している。
  さて続いて2つ目、見るからに涼しげな生地を使ったCOOL DRY『30430』シリーズ。こちらも昨年秋に『AZITO』ブランドからデビューしたAZ-60401ほかの春夏バージョンだ。「生地から涼しさにこだわった、涼感空冷式ウェアです。『ドライ愛す』仕様といって、背中左右の切り替え部、背ヨーク、脇にメッシュ素材のベンチレーションを入れているのでやはり風が抜けて涼しいです。これ、通気で特許を取っているんですよ。メッシュの幅とか角度とかで。このほか、パンツにも腰の部分にベンチレーションを入れています」。
  麻のようなシャリ感のある生地は、ポリエステル80%、綿20%のオーウィッシュトロピカル。仮に上記のベンチレーションがなかったとしても、素材自体の通気性が非常に高いからそれだけで涼しく快適だ。おまけに吸汗速乾で帯電防止機能も併せ持つ。「展示会では生地の通気性をPRするために、発泡スチロールの粒を使ってデモンストレーションしました。生地に風を当てると、その向こうにある小さな粒がパーッと舞うんです」。
  アイテムは長袖ブルゾン、長袖シャツ、カーゴ、スラックスで、いずれも男女兼用。ブルゾン、シャツは肩に肩章、袖にはキーや小銭が収納できるファスナー付ポケット、ひと手間かけた反射パイピングと、ディーテールにもこだわりが見える。「値段は少々高めですが、それでも人気があるのは、それなりの付加価値が認められてのことだと思います」。そう話す柴山さんの言葉から、この商品も好調な滑り出しを見せていることがわかる。
  そして最後、3つ目の新作は、ポケットのない異物混入防止ウェア(型番:AZ-3630、 AZ-3620)。「生産ラインにモノを持ち込まない。工場からモノを持ち出さない。これを徹底させるためのユニフォームです。数年前から国内外で食品への異物混入がいろいろありましたからね。こうした事態を防ぐために企業さんはユニフォームを購入する際に “ポケットを縫い閉じて納品してほしい”とオーダーされ、私どもで一着一着縫い閉じ加工して納めることが数多くありました。ノーポケットはそんな背景から生まれた商品で、昨年秋に出したばかり。今回の新商品はそれを春夏向けの生地に変えたものです」。
  そういえば、異物混入の事件が大騒ぎになったのは記憶に新しい。なかなか目の付け所がいいなと感心しながら用意してあったサンプルを見せてもらうと、上下とも確かにどこにもポケットがない。これならわざわざポケットを縫い閉じるよりはるかに合理的。考えてみれば簡単なことだけど、なかなか思いつかない。コロンブスの卵みたいですねと水を向けると、柴山さんは頭を書きながらこう答える。「いや、それほど簡単でもなかったんですよ、実際に作ってみると。最初の試作モデルはつるんとしてヘンでした。ポケットがないと “のっぺらぼう”に見えるんです。あまりにも寂しいので、あたかもポケットがあるかのようにステッチを入れました(笑)」。
  そんなダミーポケットと切り替え配色でカッコよく仕上げたブルゾンとパンツは、突起物が表に出ない傷つけ防止仕様。制電糸入りなので食品加工だけでなく、精密機器や電子部品を扱う工場などでも活躍しそうだ。「ノーポケットの需要はあると思いますが、なにせ業種が限られてくるので、2~3年かけて認知いただいて、普及していければと思っています」と柴山さんが言うように、これからが楽しみな商品。長い目でじっくり育てていってほしい。
  以上、アイトスの新商品3シリーズ。柴山さんが初めに言ったように、どれもコンセプトが明確で読者の皆さんも商品の輪郭がストンと入ってきたのではないだろうか。それぞれ訴求する方向が違っても、ベースがブレていないから、やはりいつものようにどの商品からもアイトスのアイデンティティーらしきものを感じ取ることができたのではないだろうか。混沌の中に不思議な統一感があるのは、おそらく彼らのベースが想像以上に強固であるからなのだ。これからもアイトスは、一見すると行き当たりばったりに見える行動を積み重ねて、独自の王国を築き上げていくのだろう。その王国は、各商品のバラバラな印象と違って、極めてはっきりした、たった一つの個性を有しているはずだ。ちょうど予測できないランダムな物理現象を集合体にすると、ある単純な基本法則によって、全体としてひとつの明確な方向性を持ち始めるみたいに。インタビューの終わりに、柴山さんはこんなことを言っていた。「今年1月に女性用の事務服を出し、これでワークシーンでユニフォームといわれるものは、ほぼ網羅しました。当社は他メーカーに比べると、モノづくりに関して冒険的。企画の発想だけでなく、それを認めてGOを出す上層部も柔軟です。特徴のある商品が多いので、カタログページをめくって見るだけでも面白いよね、という声も多く、いい意味でカタログが独り歩きしてくれるので営業もしやすいんです」。
  改めてカタログを見ると、そのバリエーションの豊富さに感心する。そして同時に途方もないカオスに足がすくむ。アイトス初心者なら、きっと簡単に迷子になるだろうな、とやっぱり思う。長年アイトスを取り扱ってきたまいど屋でさえそうなのだ。この王国を始めて旅するなら、ある程度熟練したシェルパに頼った方がいい。以下、とりあえず、まいど屋で多くのワーカーの支持を集める春夏アイテムを並べておく。読者の皆さんが混沌のるつぼで迷い人にならないように。
 
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ノーポケットの異物混入防止ウェア
 

    

汗ばむ現場をクールに乗り切る!最旬のイケメンフェイスに快適性を目いっぱい盛り込んだ30530シリーズ

ストレッチ素材の動きやすさに涼しさをプラス。前身と背ヨークのメッシュベンチレーションにより、ウェア内を風がスーッと抜けて涼しさバツグン。生地はポリエステル65%、綿35%のライトストレッチツイル。ブルゾンは背にアクションプリーツ、袖に肘タックが入って動きやすさをさらにサポート。帯電防止機能、夜間の視認性をアップする反射パイピングもうれしい。


動けば動くほど涼しくなる!独自の空冷式ベンチレーションでウェア内がチョー快適な30430シリーズ

通気性に優れた生地と、背中ヨーク、背中切り替え部、脇にメッシュベンチレーションを配した『ドライ愛す』仕様で涼しさバツグン!パンツも腰部にベンチレーションが入って、これまた快適。シャリ感のある麻ライクな生地はポリエステル80%、綿20%のオーウィッシュトロピカル。吸汗速乾で帯電防止機能も併せ持つ。トップスは反射パイピング付き。