【セブンユニフォーム】比類なき"七つ星の流儀"image_maidoya3
子宝&安産祈願でおなじみの水天宮(東京都中央区)――。平日にもかかわらずベビーカーを押す女性やその家族とおぼしきご婦人が、次々とやってきては受付や待合のある現代的な施設に入っていく。昔ながらの神社にミュージアムのようなキレイな建物が併設されているのは、ちょっと不思議な気分だが、参拝者の快適と安全を考えてのことだろう。そう、ここは東京駅から徒歩圏内の都心ド真ん中なのである。当然こんな静謐な空間は例外であり、神社の四方にはオフィスビルがひしめいている。今回の訪問先、セブンユニフォーム本社もそのひとつだ。同社は1952年の創業以来、一貫してフードサービス系ウェアを手がけてきた老舗メーカー。フード系の"白もの"、つまりコックやホテルマンの制服を得意とし、ベテラン料理人をもって「七つ星のアレじゃないとダメ」と言わしめてきた。他分野に手を広げるメーカーも多いなか、同社のウェアは今も昔もレストランやホテルといったサービス系だけ。そんなブレない姿勢が、唯一無二のブランドイメージを築き上げている。

セブンユニフォーム
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シャツの品ぞろえを誇る小久保さん
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定番シャツはバリエーション豊富
●サービスユニフォームひとすじ
 
  今回、話を聞かせてくれたのは、企画部の井上紀恵さんと営業第一部の小久保智博さん。まいど屋では2018年の暮れから同社商品の取り扱いを開始しており、本誌「月刊まいど屋」にも今回が初登場。というわけで、まずは会社のプロフィールから語ってもらおう。
 
  「当社は今年で創業67年。戦後、いろいろとアメリカの文化やものが日本に入ってきたのを受け、創業者が『何か新しいビジネスはできないか』と考えて、コックコートに目を付けたのが始まりです。これから日本でも欧米社会のような制服の需要が高まっていくのでは、と考えたんですね。その後、コックコートに限らず飲食業やホテル用のユニフォームを手がけていくなか、1963年に業界で初めてウェイトレス用のワンピースを既製服化したことが飛躍のきっかけとなりました。このワンピースのアイテム数が7点だったことから、『セブンさん』と呼ばれ、現在のブランド名および社名『セブンユニフォーム』の由来となりました」(井上さん)
 
  そんな来歴を持つセブンユニフォームの特徴は「サービス系ひとすじ」。飲食店用・ホテル用を商品展開の二本柱にしており、あらゆるサービス業に向けた商品をひっくるめて「サービスユニフォーム」と呼んでいる。レストランの料理人や接客係に限らず、ホテルのスタッフや多種多様な物販係の制服などを含めた概念だ。
 
  「当社が手がけるのはサービスユニフォームだけ。"専業"の理由は、やはりこの分野にはほかのワークウェアとは違った専門性が要るからです。いわゆる"上下もの"ではないので、お客さんにはコーディネートを含めて提案していく必要があるんですね。飲食店のシンプルな制服でも、シャツとズボン、エプロンといった大変な数の組み合わせがあって、さらにその店ならではの個性を出すことも考えなければならない。よほど服が好きな人でもないとまず決められませんから、打ち合わせを重ねながら私たちと一緒にユニフォームを考えていただきます。サービスユニフォームというのはいわば"難しい商材"なんです」(同)
 
  ●「ラクだから」でいいのか?
 
  そう言って井上さんはカタログをめくってみせる。定番のシャツやエプロンだけでも数百種類のラインナップがあり、その組み合わせとなると膨大。パッと見ただけで素人には手に負えないことがわかる。では、実際に同社はお客さんのユニフォーム選びをどのようにサポートしているのだろうか。小久保さんは次のようにポイントを挙げる。
 
  「オーナー主導ですんなり決まるケースもありますが、ひとつ言えるのは、みんなの好みで選ぶとブレる、ということ。好きな感じは人によってさまざまなので、どれが好きかを聞いていくと迷走してしまう。それよりぜひ考えていただきたいのは『空間マッチング』ですね。レストランやホテルといった空間に、そのユニフォームを着たスタッフがいて違和感がないか。これがものすごく大事です。その上で、スタッフにオーナーにお客さん、つまり、着る側・買う側・見る側の3者が満足する効果を上げられるかが重要になってきます。お店を開業するとき、ユニフォームを決めるのはだいたい最後ですから『もうなんでもいい』となりがち。そこを何とか踏ん張ってその店ならではのコーディネートを提案するのが腕の見せ所ですね」
 
  ユニフォームも空間デザインの一環。そんな小久保さんの話に頷きながらも、一方でワークウェア全体のトレンドも影響するのでないかという気もする。特に近年はワークシーンのカジュアル化に加えて、ウエストゴムのパンツやノーアイロンシャツといった、"ラク志向"が強くなってきている。そういったユーザーの声は? と言いかけたとき、井上さんの目がキラリと光った。
 
  「確かに、私服は言うに及ばずワークウェアでも"ラクな服"を求める流れはあります。しかし、当社では『ユニフォームもそれに追随していいのか?』という問題意識を強く持っているんです。こういう場所ではこういう服を着る、という文化はどんどん少なくなってきているけれど、果たしていいことなのか? 仕事をしている人が家と同じような格好でいいのだろうか? と」
 
  言われてみればそうかもしれない。「見る側」としては、自動車整備士はツナギ姿がいいし、庭師は乗馬ズボンを着こなしていてほしい。それに「着る側」としてもウェアによって仕事に誇りが持てるといった側面もあるだろう。料理人やホテルスタッフといった専門性が高い業種ならなおさらだ。そういうプロが「ラクだから」とポロシャツを着てしまったら、何か大事なものを失ってしまうような気がするのだ。
 
  ●「ユニフォームはファッションではない」
 
  このような「ユニフォーム観」を説明するために、井上さんは「ユニフォームはツールなので、ファッションとしては捉えない」との言葉を挙げた。先代社長がよく語っていた名文句だという。
 
  「たとえるなら、寿司職人にとっての包丁のようなものですね。ユニフォームとは、その仕事をしやすくするために設計された恰好である、と。決してなんでもいいわけじゃなくて、着用することでその職業特有の動作がやりやすくなったり、視覚的にも業務を円滑化してくれたりといった『××するためのウェア』でなくてはならない。こんなふうにユニフォームのことを真剣に考えておかないと、お客さんに自信を持っておすすめすることはできません」
 
  「ラクだから」とポロシャツとウエストゴムのパンツで働こうというのは、料理人が万能包丁でなんでも済まそうとするようなものではないだろうか。家庭料理ならそれでもいいけれど、コックや板前と名乗るなら、きちんと手入れの行き届いた包丁を使い分けてほしい。
 
  では一方、「ファッションとして捉えない」とはどういう意味なのか。
 
  「アパレル業界的な流行は追わない、ということです。接客作法や調理器具など、ホテルや飲食業界の変化にはきちんと対応していくけれど、ファッションの流行は意識しない。もちろん無意識のうちに影響されているところはあるでしょうが、少なくとも流行を追おうとの意図は持っていない、というわけです」(同)
 
  デザイン的な流行は追わないものの、素材の面では最新技術を柔軟に取り入れている。伸縮性の高い「トリコット素材」や抗菌防臭機能の「ナノツイル加工」などだ。
 
  「スポーツやアウトドアのメーカーを中心としたハイテク化繊の開発競争がユニフォームの世界にも波及しています。調理服というと、火を使うから綿100%じゃないとダメと思われがちなんですが、じつは今やプロの厨房でもIHヒーターが珍しくない。コックコートも『綿じゃなくていい』というユーザーが増えてきています」(同)
 
  ユニフォームとして変えてはならないこと、変えていくべきこと。その線引きを考える手がかりは、あくまで「現場」なのだ。
 
  ●「これから出てくる仕事」のユニフォームを
 
  と、ややシリアスなユニフォーム論が続いたので、ここからは今後の商品展開について聞いてみよう。ずばり、セブンユニフォームが狙っていることについて、井上さんが熱意を込めて語ってくれた。
 
  「いま当社として考えているのは、今ある職業のユニフォームではなく『これから出てくる職業』『いま代用ユニフォームで働いている職業』のユニフォームを作ろう、ということです」
 
  えっ、飲食店とホテルじゃないの? と思ったら、こちらの想像もつかなかったようなプランが飛び出した。
 
  「一例を挙げれば、ホテルのテナントに入っている花屋さんです。街の花屋さんと同じ恰好はできないので、だいたい事務服で働いている女性が多いのですが、大変ですよね、けっこう体を動かす仕事なのに。というわけで『ホテルの花屋』のユニフォームがないなら、うちが作ろう! と開発したのが、このエプロンドレス(CS2349、CS2347など)です。枝切で高いところに手を伸ばしたりゴミを拾ったりする動作も、これなら大丈夫です」(同)
 
  同商品は高級感のあるワンピース風のエプロンドレス。ホテル宴会場の接客係のようなエレガントさを基調としつつも、エプロンのようにも見え、"花屋テイスト"をしっかり感じる。この手があったか、と言いたくなるウェアだ。
 
  「ホテルの花屋さんに限らず、ほかにも『ホテルで働くホテルマンじゃない人々』の中にユニフォームが必要な人がいるのではないか? こんな目線を持つことが、いろいろな商品開発につながっていくのではと考えています」(同)
 
  ホテルはレストランだけでなく、写真スタジオやジム、託児所まであり、ひとつの街とも言える。今後、これまでになかったような「××のユニフォーム」が登場する可能性は十分にあるだろう。
 
  オフィスはカジュアルウェアに、ワーキング現場はスポーツやアウトドアウェアに、と脱ユニフォーム化していく社会。そんな中で同社の「まだ決まった格好のない仕事のユニフォームを作る」という考え方は、時代の流れに逆行しているようにも見える。
 
  だが、それでいいのだ。セブンユニフォームはユニフォームメーカーなのだから。
 
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エプロンはフタの上からペンが差せる
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小久保さんと企画部の井上さん(右)

    

これがなくっちゃ始まらない! 袖・襟・色・柄など自由に選べる「新定番シャツ」シリーズ

現代のワークシーンに合わせてセブンユニフォームが考え抜いた"定番中の定番"シャツ。袖は長袖・七分・半袖から、襟のタイプはレギュラー・ボタンダウン・スタンドカラーなど、さらにはカラー・ストライプ柄と、好みの組み合わせを自由に選べる。膨大な選択肢の中から絞り込むときは「まず素材から選んで」とのこと。


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