【丸五】伝統が生み出す独創image_maidoya3
地下足袋の会社が安全スニーカーを作っている――。始めて聞いたときはちょっと不思議な気がした。そもそも足袋と靴はぜんぜん違うものじゃないか、と。作業用フットウェアという点では共通しているけれど、安全靴は厚くてハード、地下足袋は薄くてソフト。安全靴はハイテク素材やデザインなどで新しさを競っているのに対して、地下足袋は昔ながらの産業やお祭りなどでしか使われない伝統的な履物だ。このようにかけ離れた二つのアイテムを作るマルゴとは一体どんな会社なのか? 疑問を抱えながら編集部は指定された店舗へ向かった。地図によれば東京駅八重洲口から歩いてすぐ。こんなところに庭師や宮大工が地下足袋を買いに来るわけ? いや、職人が安全スニーカーを買いに来るのか……。いろいろ思いめぐらしながら歩を進めると、表参道のセレクトショップのようなショールームが目の前に現れた。な、なんだ、この洗練された雰囲気は!?

丸五
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アンテナショップ「MARUGO TOKYO」
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履き心地が自慢の「マンダムニット」シリーズ
●安全スニーカーの先駆者
 
  「驚きました? ここ『MARUGO TOKYO』は、2019年8月、当社の創立100周年を記念してオープンしたアンテナショップです。地下足袋というと古臭いイメージがあると思うんですが、足の健康をはじめ靴にはないメリットもたくさんある。そんなわけで、この日本独自の履物の魅力を伝えるため、足袋タイプの運動靴や幼児用の足袋シューズなど、カジュアルに使える新感覚の地下足袋アイテムを展開しているんですよ」
 
  こう語るのはFW営業部の小椋雄太さん。店内ではオシャレな足袋シューズを履いた店員さんが、疲れにくいエアークッション入りの地下足袋、スーツにも合いそうな本革製の地下足袋、ファッション性の高いカラフルな地下足袋などをお客さんに紹介している。あまりの"地下足袋愛"に「何か僕におすすめのモデルは……」と言いかけたとき、今回の取材テーマが安全スニーカーだったことを思い出した。
 
  「こんなふうに地下足袋も作っているんですが、じつは現在、当社のメイン事業は安全スニーカーなんです。この分野でうちは先駆的なメーカーでして、1995年には先駆けて先芯入りのスニーカー『マジカルセーフティー』を発売し、大ヒットを記録しました。その後、安全スニーカーに参入するメーカーが増えたことで業界としてのルールが必要という話になり、2003年には安全規格『JPSA』(現在のJSAA)の立ち上げにも関わっています」
 
  そんな同社の主力ブランドは「マンダム」シリーズ。2000年代に発売したスリッポンタイプの安全スニーカー、「マンダムセーフティー775」「同767」は、その軽さや通気性が評価され、幅広い人気を集めた。今でもホームセンターの売り場には必ずと言っていいほど置いてある定番モデルだ。
 
  「うちは地下足袋と作業靴の会社。ハイスペックなソール素材の開発など、テクノロジーの面ではスポーツ系メーカーにはどうしても敵いません。だから、確実に自分たちのできることをし、ひと工夫ある商品開発を続けていくのが大事だと思っています。お手ごろ価格で買えて『これを履いてれば安心だね』と言ってもらえる商品を作っていこう、というわけです」
 
  ●通気性だけじゃない!
 
  90年代の「マジカルセーフティー」、00年代の「マンダムセーフティー」と、定番商品を世に送り出してきたマルゴだが、近年は話題性のある新商品の開発にも力を注いでいる。2017年発売の「マンダムニット」シリーズは、デザインと安全性に加えて、優れた快適性が評価され、ダイヤモンド・ホームセンターの年間ヒット商品2018の第1位に輝いた。
 
  「この商品はお客さんの声から生まれました。商品企画の前段階で『なぜ当社の安全スニーカーを選んだのか』とユーザーにアンケートを取ってみたら『蒸れないから』という回答が一番多かったんですね。ワーカーの皆さんにとって最大のストレスは靴の中の蒸れだった。そこで、通気性に特化した超快適なモデルと開発しよう、と。そして風を通しやすいニットのアッパーにベンチレーション付きのソールと中敷きを組み合わせて『マンダムニット』を完成させたわけです。涼しくて履き心地がいいと評判の『マンダムセーフティー767』より3倍も通気性がよくなっています」
 
  最大のウリは通気性だが、それだけではない。リーズナブルな価格の割に作業用スニーカーとしての基本性能が高いのも支持される理由だという。
 
  「アッパー部分のニット生地は、摩耗強度が高くて縫い目がないから、すごく耐久性が高い。それに伸縮性もあるから足によくフィットする。ニットの利点は単に風通しがいいからだけじゃないんです。ソールもただ通気孔を空けただけじゃなくて、クルマの運転がしやすいドライバーソールになっています。メインは通気性ですが、作業靴としての総合力も高いんです」
 
  ●ついに一線を越える!?
 
  さらに同社ではマンダムニットに続く新作モデルを開発中。2020年夏の発売を目指して現在、試作品のテストを進めている。テーマは「防臭」とのことだが、一体どんな背景があるのだろう。
 
  「空調服が普及したこともあって、夏場の臭いに敏感なユーザーが増えてきています。そこで、これまであまり注目されていなかった作業靴の防臭機能も、これからは重視されるようになるだろう、と。開発中のマンダムシリーズ新作は、抗菌・防臭素材を使うだけでなく、通気性の面でもマンダムニットを超えるものになります。靴の中に風が通って、蒸れを逃がせれば臭いも発生しない。通気性は何よりの防臭機能なんです」
 
  と新作のコンセプトを語ると、小椋さんは新モデルのために試作した先芯を取り出した。マンダムニットに使われているのと同型のつま先の保護パーツだが、よく見るとサイドに穴が空けられている。
 
  え、これって? まさか、そんな神をも恐れぬようなことを……。
 
  「今は、『常識を超えた通気性』とだけ言っておきましょう。通気孔はあっても求められる強度はクリアしているので、JSAA認定製品として発売できる予定です。まいど屋のお客さんには、近日発売、乞うご期待! と伝えておいてください(笑)」
 
  ●カジュアル化を見据えて
 
  通気性特化モデルに加えての独自路線として、レディースモデルがある。マルゴでは10年以上前から女性向け安全スニーカー「メダリオン」を手がけてきた。
 
  「男性用安全スニーカーを多サイズ展開して『女性も使えます』ではダメだろう、というのが企画の始まりです。メダリオンでは女性の足型を使い、女性が喜ぶデザインやカラーを研究して商品開発しました。近年、大手ゼネコンも女性採用に積極的になり、建設現場でも女性の姿をよく見るようになってきた。そんな背景もあって堅調に売れています。先日は、ワーカー向けショップにメダリオンを含めた女性向けウェアのコーナーを作ってもらったら大評判でした。レディース作業服もオシャレでカラフルになってきたので、靴も『もっと違うものが欲しい』という声が出てきているんです。今後はそんなニーズに応えていきたいですね」
 
  このように、女性専用モデル「メダリオン」や、履き心地を重視した「マンダムニット」など世の中にない商品を世に出してきたマルゴ。しかし、いま強く意識しているのはトレンドだという。
 
  「作業服のカジュアル化という流れを意識して、安全靴も変わっていかなきゃいけない。というわけで、近年は作業現場だけでなくタウンユースでもイケるようなデザインに力を入れています。お客さんからは『マルゴさんは長く売れるものを欠品させずに作り続けてほしい』と言っていただいているんですが、今後はユニフォームにも合わせやすいデザインも追究していきたいですね。わたしたち営業も『商品企画のアイデアを出せ』とハッパをかけられてますよ」
 
  安全スニーカーの先駆者として手がけてきた革新的な商品から、ワークウェアのトレンドを踏まえたデザイン性の高いモデルへ――。100年前、伝統と新技術を組み合わせて地下足袋を開発したように、大胆な発想で安全スニーカー界に波乱を起こしていく。
 
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ソールの横から外気を取り入れる
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ついに先芯に通気孔が……

    

「履き心地のよさ」でベストセラー! 「マンダムニット」ローカットモデル

とにかく通気性のいい安全スニーカーを、との声から生まれた「マンダムニット」の大定番。ベンチレーション付きのソールと中敷き、ニット素材を組み合わせることで、靴の中に空気を通し、蒸れや熱気を追い出す。靴底はクルマの運転がしやすいドライバーソール採用。JSAA規格(A種)認定品。


ゆったりフィットで疲労軽減! 「マンダムニット」ミッドカットモデル

履き心地のよさで大評判の「マンダムニット」ミッドカットタイプ。ソールと中敷きはベンチレーション付きで、アッパーは伸縮性のあるニット素材を使用。足の裏から甲まで、全方位に風が通る最高レベルの通気性を実現した。JSAA規格(A種)認定品。