【寅壱】叛逆の白デニム!image_maidoya3
「デニムの次」という言葉を耳にしたことがあるだろうか? 2、3年前から作業着メーカーが新作コレクションを発表するたびに呪文のように繰り返されてきたフレーズである。「デニムはありふれているので」「もう普通になっちゃったから」「売り場でも目立てないし」と、企画担当者はデニム偏重への危機感を口にしてきた。そしてジャージやスウェットなど、さまざまな“新味”も試されてきた。しかし、どうだろう? 「デニムの次」は見えてきたか? 筆者はそう思えない。むしろ逃れようとすればするほど蟻地獄のように絡め取られ「やっぱデニム強いわ!」といった結論になってしまう気がする。さて、今回の寅壱も「デニムの次」を強く意識してきたメーカーであり、このほどひとつの回答といえる新作をユーザーに披露した。なるほど「デニムの次はデニム」……っておい、禅問答か!

寅壱
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倉敷市児島の寅壱本社
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白デニムを語る平井さん
●織物から作業着へ
 
  取材に応じてくれたのは商品企画部の平井さん。長く織物メーカーで働いてきた繊維のベテランであり、入社1年目のフレッシュマンだ。一般アパレルから作業服に“転身”しての感想を次のように語る。
 
  「似ているようでぜんぜん違う、という感じですね。いちばん衝撃を受けたのは『在庫』についての考え方です。前職で扱ってきた普通のカジュアル衣料の場合、シーズンごとに企画した商品をすべて売り切るのがベストで、在庫を抱えるのは失敗といった感覚だったんですよ。でも、作業着やユニフォームは常に在庫を持ってないとダメ、という世界。しかも、カラーやサイズもできるだけそろえて、さらに何年も前の型番もちゃんとストックしておかなきゃいけない。岡山出身なので作業服メーカーは身近な存在だし、寅壱がトンがった商品を作っている会社だとも知っていたんですけど、けっこうカルチャーショックでした」
 
  一方で、ワークウェア業界の急激な変化も感じ取っているという。
 
  「在庫がカギの商売とはいうものの、昔ながらの定番アイテムを作っていれば長く着実に売れるといった世界でなくなってきているのも事実です。世の中も変わればユーザーも変わっていくわけで、作業着メーカーも変化が求められる。ニーズの多様化・細分化に合わせつつも、寅壱ならではの形やデザイン、そして独自のカッコよさを打ち出していこう! といった話を社内ではよくしています。弊社でも新作で限定アイテムをたくさん出していますが、1シーズンで売り切るカジュアル衣料的な感覚も必要な世界になっているのを感じますね」
 
  では、そんな平井さんがイチ押しする23年秋冬の新作ウェアを見ていこう。
 
  ●ブラックデニム誕生!
 
  一番手は、デニムワークジャケットに対応のパンツをそろえた上下作業着「8870シリーズ」。正直、カタログを目にしたときは「またデニムか」と思った。しかし、実物を眼の前にすると「うん、やっぱりデニムはいいな」という気がするから不思議だ。おなじみのブルーを避けた結果のブラックデニムは、こちらが想像もしなかった新鮮な印象を生み出している。
 
  「デニムの次は、という話は企画チームでずっとしているんですけど、作ってみるとやはり反応がいいんですね。お店も喜ぶしお客さんにもウケる。こういう声がある以上はデニムをやろう、と。ただそれでも、これまでと同じようなアイテムを出すわけにはいかない。この壁を乗り越える工夫を考えた結果、たどり着いたのが『ダークグレー』のブラックデニムであり、『ライトグレー』の白デニムです」
 
  と口にしながら、平井さんはテーブルに「8870シリーズ」の色違いを広げる。
 
  白である。洗いざらしのシャツのように真っ白、と言っていい。ライトグレーじゃないだろこれ、ホワイトだよ! と思いつつも、よく見ると部分的にグレーがうっすらと残っている。とはいえ、ほぼ白だ。まいど屋としてはこのアイテムを「白デニム」と断言しておきたい。しかし、まあなんでこんな突飛な、もとい攻めまくったデニム作業着を? いや、それ以前にどうやって作ったの?
 
  ●あえて「脱色ホワイト」
 
  「この白は、ブラックデニムを限界までブリーチ加工することで実現しました。当然ながら、はじめから白い生地で作ればいいじゃん、との声もあったわけですけど、あえて「縫製後の脱色」という手の込んだことをしました。おかげで袖口や裾、ステッチ、ポケットあたりに色ムラがあって、豊かな表情が出せたと思います。普通に考えると、過度なブリーチ加工は生地を傷めるので、作業着としてはやっちゃいけない“禁じ手”なんですが、最新技術によりワークウェアとしての耐久性はちゃんとキープしています。ユーザーにこの強烈な加工感を楽しんでいただけるか、当社としてもチャレンジングな商品ですね」
 
  それにしても、である。あえて白い生地を使わず、染色した生地を脱色して白にするなんて、酔狂というかなんというか……。黒いクルマを買って白の全塗装をオーダーするみたいな話で、なかなか頭がついていかない。
 
  「うーん、いま街では破れたジーンズが流行ってますよね。もう膝が丸出しみたいなパンツまである。デニム作業服もひと昔前はありえなかったし、ましてダメージ加工なんて想像もできなかった。しかし今、デニム作業着は普通だし、その上にユーズド加工したアイテムも展開しています。じゃあもう、どんな激しい加工をやってもいいんじゃない? と。もちろん作業着としての基本性能は損なってはいけないわけで、これだけ加工しているのに耐久性は犠牲にしていません。高いクオリティーコントロール能力を持つ寅壱だから実現できた、とも言えますね。もうデニムはいいかな……、というユーザーさんには『いや、これがあるよ!』『これならどう?』と提案していきたいです」
 
  このアクの強い美意識--つまり“粋”を面白がれるか、ユーザーも試されることになりそうだ。
 
  ●ワーキングもカジュアルも
 
  さて、続いて見せてもらったのは、新作のスポーティーなナイロン作業着「3630シリーズ」。先ほどのデニムとはまったく方向性が違っている。一見するとオーソドックスな今時のカジュアルワークウェアだけれど、右胸の大きなロゴテープなど、かなり捻りの利いたアイテムだ。平井さんは「デニムに負けず面白い商品」と紹介する。
 
  「特色はまず、強度の高いコーデュラナイロンを使っていること。摩擦や引き裂きにはめっぽう強くて、しかも軽量で縦横のストレッチ性もあります。耐久性は作業服としてオーバースペック、といっていいくらいの振り切ったアイテムです。あと、けっこうアグレッシブな感じのデザインなのに形としてはド定番、というのも面白いなと思っています。大きな胸ポケットが左右にあって、右にはスマホが出し入れしやすいモバイルポケットもある。そして、ペン差しは左右の袖に付いている。見た感じは新しいけれど、機能的には“おなじみのアレ”なんです」
 
  新感覚のデニム作業着に、昔ながらの使用感の化繊ウェアがあるかと思ったら、“ワークキング味”がまったくしない商品も登場した。「5310ワークトレーナー」「5310ワークフーディー」の2アイテムだ。ひとことで言うと極厚トレーナー。「ダンボールニット」と呼ばれる重量感のある生地を使っている。
 
  「これは大反響の商品です。遊び心のあるゆったりとしたシルエットで、完全にカジュアル衣料として使っていただけます。トレーナーは背中に大きな『TORA』のロゴ、フーディー(パーカー)は、存在感たっぷりのフードが目玉です。よくあるドローコードではなく、1.8cmの大きなドットボタンひとつでバチンと首元を留めるのがユニークですね。ワークウェア要素ゼロと思うかもしれませんが、左袖に小物が入るポケットがあるので、通勤や仕事にも便利ですよ」
 
  ファッションアイテムを味わっているかと思えば作業着を堪能することになり、ワーキングに誘われたかと思いきや、気がつけばカジュアルに連行されている--。寅壱の新作コレクションは、もはやイリュージョンだ。
 
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迷彩柄にも「TORA」が……
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8870シリーズをよろしく!

    

洗練の黒&反骨の白! 世界を塗り替えるデニム作業着「8870シリーズ」

黒と白のカラーリングが際立ったデニム作業着の上下。ダークグレー(黒)は従来のブルー系とは一線を画す都会的なルックス。ライトグレー(白)は染色生地で縫製した後に強烈なブリーチ加工を施した、まさに“粋”な逸品。パンツは「カーゴ」に足さばきの良い「ジョガー」を加えた2タイプ展開。


ロゴテープが異次元に誘う! 耐久素材ナイロン作業着「3630シリーズ」

耐久性の高いコーデュラ素材を使った上下作業着。スポーティーな見た目に大きなロゴテープでインパクト抜群。寅壱独自の4D MOTIONストレッチで動きやすさも文句なし。パンツは「カーゴ」「ジョガー」の2タイプで、ともに膝部分にニーパッドを入れるポケット付き。