こんなに軽いクセに、メガヒートなんだってよ、このジャケットは!知らずに現場で使ってみて驚いたね。そのときの気持ちは、気軽な気持ちでちょっとカツアゲしてやろうと思って捉まえた相手がヤクザだったみたいなもんだ。途中で気がついて、俺は何とか軌道修正を試みた。まず、最初のぞんざいな態度は、30秒後には保険のセールスマンみたいな卑屈なお愛想笑いに取って代わった。60秒たつと力量の差が歴然としていることが判明し、捨て身の抱き付き作戦に活路を見出すしか道はなくなっていた。いや、何かのお間違いですって、あなた様がお聞きになったのは。わたしくはただ、あなた様のお姿に、その圧倒的な実力者ぶりに、ほれぼれと感心してお声掛けをしただけなんです。俺はその場を取り繕うのに必死だった。どうにか逃げ切ろうと色々な言い訳を考えたんだけど、今度は相手が俺を離そうとしてくれなかった。まさに絶体絶命のトホホな状態だ。俺のボディーはカッカと火照りだした。真冬というのに体の芯がジンジンと熱くなり、額にはうっすらと汗さえかき始めた。トリプルAクラスの保温性能を誇る、あの3層構造のメガヒートエンジンが、その威力を容赦なく発揮し始めたんだ。ところがウェア内は一向にドライなままで、汗冷えをすることなく快適なコンディションをキープし続けた。なかなか気持ちがいいもんだろう、とドスの効いた声でヤツは云った。こういうのは透湿性が高いっていうんだ。空からはみぞれが降り始めていた。次々と落ちてくる雪片はウェア表面で水玉に変わり、それからコロンと地面に転がり落ちていく。ヤツはさも当たり前のように、撥水性があることを俺に通告した。これくらいの悪天候じゃ、ビクともしねえ。おめえは雪が降っても働かなきゃいけねえ。俺はヤツに抱き付いたまま、とうとう離れられなくなった。あれから2カ月も経っているが、いまでも毎日ヤツと現場で一緒にいる。ヤツは実力のあるヤクザであると同時に、かなりしつこいストーカーでもある。このページにたまたま目を留めた皆さんも気を付けた方がいいぜ。少なくとも春までは、絶対に離れられなくなるから。JIS T-8118対応の高度な制電機能付き。