手間のかかることが何より嫌いだという男が、まいど屋にやって来てこう言った。寒くてたまらねえんだ。今すぐ温まりてえんだ。真冬の現場仕事は体に堪える。わかるか?ええ、わかりますよ、とまいど屋は云った。それなら、風呂にでも入ったらどうですか。男は不意を突かれたように驚いた顔をした。それから、おちょくられたことに気付いて腹を立てたが、何とか気を取り直して、それはいいアイデアだと呟いた。だが、問題が3つある、と男は云った。第一に、家まで帰るのに1時間はかかる。そして、風呂が沸くのを待っているとさらに30分経っちまう。最後に風呂に入るには服を脱がなきゃならねえ。俺は面倒事が嫌いなんだよ。熱湯風呂は服を着たまま入るのが作法だと思っていましたがね、とまいど屋は云った。男はまいど屋をじろりと睨みつけたが、今度は怒った素振りを見せなかった。いいか、俺は面倒くせえことがダメなんだよ。今や、その口調は明らかに哀願めいた響きを伴っていた。目つきにさえ、助けを求めるものに特有の、強がりと媚びへつらいが入り混じった、探るような弱さが宿っていた。今すぐお宅に何とかしてほしいんだよ、と男は続けた。俺は松屋のカレーが嫌いなんだ。カレーとライスが別々の皿に出てくるカレー、スプーンでチビチビと飯の上に移し替えるあのまどろっこしい作業が大嫌いなんだ。なぜヤツ等は客にそんな面倒を強いて平気な顔をしていられる?ビッグマックがバンズと肉のセパレートで出てきたらどう思う?周囲の人間は俺がせっかちだと陰口を叩くが、俺に言わせりゃ、俺ほど合理的な人間はいやしねえよ。わかるだろ?わかりますよ、とまいど屋は云った。男はホッとした顔で、お宅には電熱防寒があるだろう、とようやく本題を切り出した。スピードが命だと言う割には、随分と余計な前支度をするものだという感想は、あえて男に伝えなかった。ほら、これがあなたが求めている電熱ベストですよ、とまいど屋は云った。電熱シートがウェアに内蔵されているから、別売りのシートを買って装着するような手間がかかりません。シートは特殊な耐久複合繊維だから、ウェアをそのまま手洗いすることだってできる。ボタンを押せば瞬間発熱。自動で電源OFFの安全機能付き。使用中はシーンに応じて三段階の温度調節も可能だ。何か注意点はないのか、と男が訊いた。ええ、あなたの流儀で言えば、とまいど屋は云った。問題が二つあります。第一に、別途バッテリーを用意し、使うたびにそれをウェアに繋いでもらう必要がある。わかりますか。この際、それくらいの労力は我慢しよう、と男は云った。で、二つ目は何だ?この場で代金を頂かないといけません、とまいど屋は云った。俺の尻のポケットから財布を抜き、必要な額を取って元に戻せ、と男は云った。*モバイルバッテリーは別売りです。別売りのモバイルバッテリーは、「関連商品」欄をご覧ください。*電圧5V、電流2A以上のリチウムイオンバッテリーであれば、手持ちの携帯用バッテリーなどもご使用いただけます。