熱中症で意識がもうろうとし始めた男の後ろで、聞き慣れた女の声が呼びかけた。お加減が悪いようね、こっちへいらっしゃいよ。男は足場の鉄パイプにつかまったまま、やっとの思いで後ろを振り返った。また声がした。そこにいたらダメよ。早くこっちにいらっしゃい。声がどこから届いて来るのか、男にはわからなかった。だが、それは間違いなく亡くなった妻の声だった。男はゆっくりと周囲を見回し、それから上空を見上げた。太陽が男の顔を強く照らしつけた。目が回り、景色が歪んで見え、時間の感覚がなくなりつつあるのがはっきりと感じられた。一秒が永遠になり、未来は消失し、今この一瞬が果てしない過去と地続きになって男に覆いかぶさってきた。それは安らぎに似た感覚だった。ほら、こんなに熱を持って、と女が耳元で囁いた。ヒンヤリとした女の手が男の肌に触れる。その感触は、遠い昔に風邪をこじらせた男のおでこに妻が手を当ててくれた時と同じに思えた。さあ、こっちへいらっしゃいよ、と女がまた云った。女の両腕は今や男の全身を包み込み、男の体温を急速に奪い取り始めている。両脚が地面を離れ、空中をフワフワと漂っているように感じる。このまま身を任せてしまおうという気持ちと、頭の隅に残っていた最後の理性が取っ組み合いの喧嘩を始め、ぎりぎりのところで理性が勝った。頼むから、俺を連れて行かないでくれ、と男は叫んだ。そして正気に返った男は、自分がペルチェベストのバッテリーを握りしめていることを知ったのである。強にスイッチが入ったバッテリーはケーブルで4つのアイスパッドにつながり、パワフルに男の身体を冷やしていた。男はその最新デバイスによって、意識を回復していた。気化熱を利用する空調方式ではなく、ペルチェ端子で直接体をクールダウンさせるという新発想。連続稼働時間は5度の強で約5時間。弱の15度で約9.5時間。充電時間は約6.5時間。ウェア本体の他、ペルチェライフを始めるのに必要なデバイス類(アイスパッド4個、スイッチケーブル1本、モバイルチャージャー1個、充電用ACアダプター1個、USBケーブル1本)がすべて揃ったコンプリートセット。
■ メーカー:桑和
■ 型番:13109
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