そのインタビューの間、男が一度だけむきになって反論した質問がある。一度堕ちてしまうとですね、そこから抜け出すのはなかなか難しいんですよ、と男は云った。口調は投げやりで、理解されないことへのいら立ちが絶望を、そして相手への敵対心を芽生えさせているようにも聞こえた。それは誰でも、ええ、たとえあなたのように立派に人生を歩んでいるひとであっても同じじゃないですかね。私の意思が弱かったからとか、だらしがなかったからとか、そういう資質の問題ではないんです。あなたはこの私に非があるとでも言いたいんですか?そういうことならば。質問者は慌てて男をなだめ、礼を失してしまったことを謝った。カメラは小ざっぱりとした職人風の男の背中越しに、その様子を撮影し続けていた。質問者が促すと、職人風の男は少し冷静になってまた話を続けた。堕ちてしまった人間は誰でも同じでしょうがね、最初は一日か二日、ほんの少しの間だけ緊急避難するつもりでいるんです。もちろん、そのときは仮の対応だと思っているから、それほど悲壮感もない。それどころか、初めの一歩にはある種の高揚感すらあるんですよ。わかりますか?なんというか、自分が勇者になった気がするんです。周りで同じことをしている連中に対し、私は彼らとは違うんだと優越感を覚えてしまうんです。ただの好奇心で体験しているだけだと思って、私は彼らを見下していました。それでキャンプにでも出掛けて来たたようにわくわくしながら、私はハウスを組み立て始めたんです。カメラのモニターは膝の上で固く結ばれた男の両手を大きく映し出していた。親指の爪が人差し指の関節に食い込み、その周囲が白くなりかけていた。しばらく沈黙が続き、やがて男はゆっくりと膝を開いた。問題の核心に踏み込む覚悟が、男にできたようだった。ハウスの中で一夜を明かすと、私は不思議なことに気づきました。そこはびっくりするほど心地よかった。冬だというのにちっとも寒くなく、元々住んでいた安アパートなんかよりもむしろ体が休まっていた。私はすっかり元気を取り戻し、ハウスから這い出て仕事場へ行こうとしました。ところが実際に外に出てみると、あまりの寒さに気力が萎えてしまったんです。その日は特に寒い日で、まあこういうことがあったのだから一日くらい休んでもよかろうと考え、私はハウスに戻ってまた身を横たえた。そこはまるで天国でした。ハウスの横を寒そうに歩いている人間をダンボールの隙間から眺めながら、私はまたしても優越感を味わっていました。ええ、ばかばかしく思われるでしょうが、それは本物の優越感なんです。自分が選ばれた特別な人間に思えてくるんです。二日のつもりが三日になり、一週間、一か月が過ぎ、そして気付いたときには、私は本当に堕ちていました。もしも私の話がひと様の役に立つのだとしたら、これだけは言っておきたい。ダンボールという構造体には、きっと悪魔が潜んでいるんです。悪魔は通り過ぎる人間に優しく誘いかけてくる。そしてひとたびその中に身を委ねてしまえば、自分の意思とは関係なく、体がそこを離れることを拒否し始める。悪魔が歌う子守歌というのは、うっとりするほど安らかなものです。皆さんはそれを知っておかなければなりません。ダンボール断面構造のダブルニット素材が、デッドエアーを蓄えて外気をしっかり遮断する快適ギア。伸縮自在、体を包み込むようにフィットして動きを妨げないストレッチモデル。現場での優越感を掻き立てる、アウトドア風のフーディースタイル。両脇にポケット付き。*97.ガンメタリックのみ胸にプリントがあります。*Mのレディースサイズはボディーラインをよりキレイに見せるジャストフィットシルエット仕様です。*この商品はカラーによってご用意できるサイズが異なります。
■ メーカー:バートル
■ 型番:4095
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