不完全であることに、誇りを持て。どんな文脈から出てきた言葉であるか忘れてしまったが、あるとき、バートルの社長は僕にそう言った。その状態を恐れちゃいけない。いびつであることを、恥じちゃいけない。そもそも、完璧なんてものは存在しないんだ。社長の断定的な物言いに、僕は多少の反感を覚えたことを記憶している。それでも、まいど屋はパーフェクトを目指しているんですよ、と僕は口答えをした。そのために、必死になって努力しているんですよ。バートルさんだって、常に課題を見つけて新しいことに挑戦しているじゃないですか。そんな風に力んだ口調で、社長の真意を確かめようとした。空想の世界を基準にして現実を測ることほど、非生産的なことはないよ、と社長は言った。それから、もしも何もかもが調和してしまったとしたら、それはきっと恐ろしく醜い光景になるはずだ、と謎めいた言葉で話を締めくくった。僕もそれ以上の追及はしなかった。そんな抽象的な会話より、もっと現実的に処理しなければならない話題がいくらでもあった。新商品の特徴について訊かなければならなかったし、価格や納期だって確認が必要だった。こまごまとしたやり取りを終え、僕らはいつものように握手をして別れた。完璧についての社長の見解は、また次の機会に聞かせてもらえると思っていた。だが、今度とお化けは出たことがないという諺通り、そんな機会は二度と巡ってこなかった。社長が言いかけてやめてしまった話について、僕は今でも時々考える。空想の世界で、社長は饒舌に語っている。いいかい、この世界では、原子時計ですら狂ってるんだ、と社長は言う。3000万年に1秒の割合だといったって、狂ってることには変わりはない。世界は誤差に満ちている。だから美しいんだ。コンピューターグラフィックで作った美人の顔を見たことあるだろ?完璧に見えるが、同時に世界で一番醜悪だ。千利休がわざわざ茶碗を割って、それを繋いで茶器にしたのはなぜだと思う?なぜなんだろう、と僕は考える。あの会話からほどなくして、バートルは 左右非対称のデザインや、ヴィンテージ風の味わいを持つウェアを数多く発表するようになった。今度のモデルでは、ムラ糸片サイド染めで年代感を加え、デニムテイストのボディーがかつてなく親密な雰囲気に仕上がっている。身体の動きに自由自在にフィットする、タテ・ヨコ2WAYのスーパーストレッチ仕様。ほどよくタイトなスリムシルエットもベリーグッド。*SとMのレディースサイズはボディーラインをよりキレイに見せるジャストフィットシルエット仕様です。
■ メーカー:バートル
■ 型番:1815
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