【ハヤシ】1割打者のあくなき戦いimage_maidoya3
靴下なんてどれでも同じと思っているなら、認識を改めたほうがいい。シューズの高さに合わせて微妙に丈を変えてみたり、保温性の良い新素材を使ってみたり、あるいはムレ防止にメッシュ仕様にしてみたり。ユーザーの声に真摯に耳を傾ければ、まだまだ改良できそうなヒントはたくさんある。
  足を入れる単なる袋であるソックスは、単純な構造ゆえに実は奥が深い。まじめな商品とそうでない商品。靴下に対する誠実さと愛情が、着用感という結果に如実に現れる。例えば縫い目のゴロつきをなくしたシームレス縫製。または適度な締めつけ感があり、ズリ落ち防止にもなるサポート加工。一日中肌に直接触れているものだから、ほんのちょっとした工夫が、天と地ほどの違いを生む。
  ハヤシはそんなまじめなソックスの代表格。和歌山県でソックスを作り続けて56年。同社の林社長に、ヒット商品の人気の秘密を解説してもらった。
 
 

ハヤシ
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レトロな雰囲気が漂う築50年の工場内
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高知「よさこい祭り」の練習用にオーダーされたスベリ止め付5本指ショート
「小さい会社なので、アイデアでいろいろやっていかないと…」。そう語るのは、代表取締役の林浩三さん。商品に触れるだけで、糸の番手から裏糸の種類までわかる、手足モノ(手袋・ソックス)のプロフェッショナルだ。創業者である先々代が建てた築50年の工場には、200台もの編み機がズラリと並び、うち130台は手袋、70台はソックス用。この自社工場で全製品の50%、あとの50%は中国で生産している。「人件費・原料が安いので中国で生産していますが、不思議なもので、同じ材料、同じ編み機で作ってもウチの工場で作ったもののほうが、ふんわりと風合いがいい。日本製を100点とするなら中国製は75点ぐらいかな。日本の方が我々の目が届くからでしょうか」。
  まいど屋ではそんなハヤシのソックスのデキのよさにホレ込み、主にソックスを中心にして販売を続けてきた。同社のソックスは学生さんや会社員の方など、現場作業をしないような人たちからの引き合いも多い。そこで、改めてその人気のヒミツと最近の売れ筋の傾向を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。「メッシュが売れていますね、夏でも冬でも。それと、ショート丈がよく出る。ウチはワーク用に作っているけど、最近は丈もカラーもバリエーションが増えて、カジュアルにどんどん近付いている気がします。反対に、作業用ソックスの代表格であり、ウチの得意分野でもある5本指ソックスは、今ではデパートでもカジュアルショップでも販売されている。垣根がなくなってきて、ユーザー層が拡大しているんじゃないでしょうか」。5本指ソックスは、商品化して20年ほど。本体と指の部分の淵に沿ってつなぎ合わせる加工を初めて取り入れたのは同社で、5本指ソックスのパイオニア的存在だ。「5本指は、ふんばりが利くので、野球やゴルフなどのスポーツでも人気があり、アメリカでは大リーガーも愛用しているほどですよ」。
  先駆者精神が強いハヤシが最近特に力を入れているのが、8年ほど前に意匠登録して商品化した『スベリ止め付ソックス』シリーズ。やはり作業用途以外の一般消費者からも問い合わせが多いヒット商品である。開発のきっかけは、近くの家電量販店に勤めるお客さまの声だったそうだ。納品でお宅に伺うと、床がフローリングなので靴下が滑って困る、何とかならないか、と。「最初は、軍手のスベリ止めのように、足裏部分に塩ビの丸いボツを付けたんです。すると、足裏のツボを刺激しすぎて長時間はけない。それならと、スベリ止めの形状に凝ってみたが、どれも足あたりが悪くて抵抗感がある。試行錯誤した末、たどり着いたのが波型です。これならタテ・ヨコどの方向への動きにも対応できる。また、ツボを刺激しすぎないように凸部を低く抑える工夫もしました」。
  このスベリ止めは5本指タイプにも展開しているが、ここにもちょっとしたエピソードがある。「当初は本体にスベリ止めを付けただけで、指には付けなかったんですね。すると、千葉でヨガをやっている人から、指先に力が入らないから指にも付けてほしいと要望があった。それで、すぐに指にも付けました」。
  この春には同シリーズから新たに女性用の5本指ソックスが誕生する。高知『よさこい祭り』の練習用にとの声に応えたもので、足袋代わりとなる新商品は、淡いピンク色のショート丈。激しい動きをしてもズレにくいよう、カカト部分を深くしたYヒールを採用している。「夏だけかと思ったら、練習は一年中あるというんです(笑)」と林社長。口コミが口コミを呼び、思わぬ分野へと市場が広がっていく。
  「カタチにならないプランは山ほどあります。それに、苦労して製品化しても10に1つぐらいしか当たらない(笑)。販売店からの要望もありますが、リサーチもしますよ。近くで土木工事をやっていると聞けば、現場で働いているお兄ちゃんたちの足元を観察しに行くし、日経トレンディとかBest Gearといった雑誌からも、スポーツショップの店頭からもヒントを得ています」。
  林社長の話を裏付けるかのように、事務所の壁一面にはサンプルボックスがびっしり積み上げられ、その一つ一つに企画段階の試作品が入っている。サンプルは社長自身が実際に使ってみて、納得がいくまで改良を続けるという。「自分で実感しないと商品にできない。社員にも意見を求めますが、はき心地は個人の感覚に左右されるので、あくまでも自分の感覚が大事なんです」。
   自らの感性を信じ、試行錯誤を経て商品化に至った、林社長キモ入りの商品の数々。以下に紹介するので、ぜひチェックしてみてほしい。
 
 
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壁一面に積まれたサンプルケースの一つ一つに林社長のアイデアが詰まっている
 

    

◆着用感にとことんこだわったEXサポーターシリーズ

伸縮性抜群のストレッチ素材でぴったりフィット!ダブルのサポーターでズリ落ち防止!着用感にトコトンこだわった、ハイグレード作業ソックス。ワークソックスでは超レアなブラックカラーにも要注目!


◆安全靴の高さに合わせ、ほんの少し丈を長くしたショートソックスシリーズ

軍足では長すぎる。一般のショートソックスでは短すぎる。そんな微妙な丈を安全靴の履口に合わせて作った仕事人専用のショートソックス。吸汗性に優れ、肌当たりも良い綿100%素材。