【山田辰】100年走り続けるオートバイ印image_maidoya3
ひとは一つのことにどれくらいの間、情熱を持ち続けられるんだろう。あることに興味が湧いて勉強を始め、次第にのめりこんでいく。初めはうまくできなかったことも時間がたつにつれて徐々にコツを掴み、自分なりのスタイルが出来上がっていく。進歩していく間は楽しくてしょうがない。それを自分のライフワークにして、一生かけて極めて行こうと思う。初めのうちは。
  だが、時とともに情熱は色褪せてくる。自分を高揚させていた何かが少しずつ失われ、気付かぬうちに逃げ場を探し始める。かすかな倦怠の匂い。ちょっとした妥協。まあいいか、これくらい。言い訳を重ねるうちに、いつの間にかライフワークはルーチンワークと化す。しばらくは惰性で続けていても、やがてまったく見向きもしなくなる。情熱的だったはずのカップルの大半が、いつしかお互いに無関心になっていくように。
  唐突にこんな話をしたのは、一つのことをやり続けることがどんなに難しいかってことを読者の皆さんに思い出してもらいたかったから。好きでい続けること。興味を持ち続けること。今風の言葉なら、モチベーションをキープし続けること。凡人にとって、5年、10年とそんな状態でいることは奇跡に近い。人の集まりである企業だっておんなじこと。平凡な会社の平均寿命は、大体5年だという。世間で優秀だと言われる会社だって、10年後には半数が勢いを失っている。30年もすれば、ほとんどが消えてなくなっている。
  このレポートで取り上げる山田辰は、100年以上もツナギ服にこだわり続けてきた。その間、行き詰まったことだってあったろう。流されそうになったこともあっただろう。だが、彼らは今でも創業時の熱意を失わずにいる。ツナギ服という極めて限られたジャンルの中で、さらなる高みを追い求めている。今シーズンもまた、山田辰から新作コレクションの知らせが届いた。彼らを突き動かしているものは何なのか。一世紀以上もの間、集中力を切らさず、向上心を保っていられるのはなぜなのか。久しぶりに訪ねた山田辰本社でのインタビューで解き明かしてみたいと思う。
 

山田辰
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赤メッシュを効かせた寛斎ユニフォーム『12-KM-253、254』
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ヒジ、ヒザにメッシュプリーツが入った『1-1190』
「我々を突き動かしているもの?向上心を保つ秘訣?ウ~ン、難しい質問やね。それについては後ほどということで、まず新商品からいきましょう!」。お話ししてくれたのは製造企画部の島部さん。今回も「自社商品を着るのも仕事のひとつ」とばかりにツナギ姿で現れ、ラフな雰囲気の中でインタビューは始まった。
  「新作は毎回3~4点出します。夏物はこれからが本番なので、実際はどうか分かりませんが、個人的には、コレがイケるんちゃう?と思っています」。島部さんの今季イチ押しは、寛斎ユニフォーム『12-KM-253、254』。Kansaiシリーズは長らくアースカラーを中心に展開してきたが、今季はデザイン、カラーともに一新。上部にはシャープな切り返しに鮮やかな赤いライン、ズボン部分にサイドラインと、キリッとカッコよく仕上がっている。「斬新でしょ!衿横に赤いカラーメッシュのタテ使い。汗をかきやすい首まわりと脇にカラーメッシュを入れて、涼しく、カッコよく。銀イオン加工の抗菌メッシュなので爽やかに着られます」。
  続いての新作は、「雨の日は洗濯に困るんだよね。部屋干しすると臭うし・・・」という方におススメの抗菌ツヅキ服『1-1190』。背中に消込パイピングを入れるなど、デザインにスポーツウェアのトレンドを取り入れている。「最大の特徴は、速乾性、抗菌性に優れた『ROOM DRY』という生地。部屋干し臭の原因となる菌の繁殖を抑えて、乾きも早い。梅雨時なんかは特にいいですよ。それと、ヒジとヒザはメッシュ素材のプリーツ入り。通気性があって涼しくて、めっちゃラクに動けます」。
  洗濯したら色落ちした、縮んだ、裂けた・・・が怖いのでと、新商品は必ず自分たちで着てチェックしている山田辰。島部さん自身、つねに新商品を10着ほど着回しているというから、この評価は掛け値ナシといえよう。そういえば、今、着ているツナギ、それも新作ですよね?リベットや斜めファスナーが近未来的でカッコいいじゃないですか。そう水を向けると、「昭和50年代かな、その頃人気があった『THE MAN』というブランドから復刻版として出した『91-ATO-17』です。昔のツナギは細身なので、今のファッショントレンドと相通じるものがある。それで過去の商品から “今のニオイやな”というのを引っ張り出して、デザイン、シルエットそのままに復刻しました。クルマ関連のユーザーさんから“こんなに金属を使って、車体にキズがつくやんか”と言われるだろうな、とは思ったけど、強引に製品化。もう、勢いですわ(笑)」。参考までに当時の『THE MAN』カタログを見せてもらったが、モデル写真もパーマヘアにレイバンのサングラスと、かなりワイルド系。空軍をイメージしてデザインした『91-ATO-17』には、今回新しく採用したモデルさんよりもずっとインパクトがあってハマっている気がする。
  さて、新作紹介はこのくらいにして、そろそろ冒頭での質問、山田辰が会社としてどのようにモチベーションを維持しているのか?に答えていただくとしよう。「仕入れ先である生地屋さん、商社さんに負けたくないという気持ちかな。いや、我々と違う世界の人たちと話すことで刺激を受けていると言った方がいいかな。彼らと対等に話すには、自分も学んでいく必要があるし、話をしていく中でアイデアをもらえることもある。分からないことは“教えてください!”と自分から聞くし、自分が教えられることは教える。向上心と謙虚な気持ちやね。実際、100教えてもらっても、残るのは3つか4つだけど(笑)。外部の方と話すのは楽しいですよ。生地屋さん、商社さん、縫製工場のオッチャンとかね。それと、月並みだけど、たくさんのお客さんが待っていてくれるという自負心かな。“オートバイマークのツナギが欲しい。新作はまだ?”という声が常に聞こえてくるので、それなりにブランドの強みがあるし、必然的にそういった声にしっかり応えていかなければ・・・となるわけです」。
  島部さんは、本当に楽しそうに商品を説明してくれる。商品に対する愛情が言葉の端々から伝わってくる。「こんなんやってみた」「あんなんやってみた」「結果、こうだった」と。山田辰の製造企画部は島部さんを含めて3人。そんな少人数で商品企画からカタログ制作、生産計画まで担っているそうだが、彼らが仕事を楽しんでやっていることは間違いないようだ。
  最後に、新作と併せて、これからの季節にオススメのツナギを紹介いただいたので以下に載せておく。リストの中に興味があるウェアがあれば、是非、一度試してみてほしい。商品を通じて、彼らが感じている喜びが読者の皆さんにもきっと伝わるはずだから。
 
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往年の人気ブランドの復刻版『91-ATO-17』
 

    

コイツぁ涼しくて気持ちいい!おまけにスタイリッシュでカッコいい!汗ばむ季節のイケメンツナギ、KM-254シリーズ

コレはイケる!と島部さんも太鼓判!!衿横と脇のメッシュ使いが斬新なKansaiユニフォームを長袖or半袖で。生地は帯電防止機能も備えたポリエステル60%、綿40%のクラサーモUV。メッシュ部は抗菌効果のある銀イオン加工。


部屋干ししたってニオわない!ハイテクファブリックが清潔感をキープする1190

部屋干し臭の原因菌を抑える機能素材『ROOM DRY』は、吸汗速乾性に優れ、すぐに乾いて洗濯もスピーディー。衿内にメッシュ。ヒジ、ヒザにはメッシュプリーツを採用し、動きやすさと爽やかさを両立。帯電防止。ポリエステル55%、綿45%。メッシュ素材はポリエステル100%。