【アサヒ産業】桃栗3年、ツナギときたら20年!image_maidoya3
不思議なメーカーだ。ツナギ服の専門メーカーとして知らぬ者のない立場にありながら、どこか業界の喧騒とは離れたところでひとりポツンと佇んでいる。それでいて存在感は並ぶものがない。世の中の流行り廃りには一切の関心を持たずに我が道を行く。王者の余裕か。それともただ単に意固地なだけか。メーカーの命であるカタログでさえ、改定されることがめったにない。老舗のうなぎ屋が何十年もメニューを変えずに営業しているように、定番の商品を作り続けている。 
  正直に言うと、トレンドを追いかけるのが半ば使命である月刊まいど屋としてはやりにくい相手だ。インタビューに出かけても新商品がない。前から知っているアイテムの説明を受けたって、興味深い記事にはなりそうにない。調子はどうでっか?ぼちぼちでんな。相変わらずリピートが多いですね。おかげさまで。話をしてもそんな会話で終わってしまう可能性が大いにある。取材を終えて編集部に帰り、原稿が書けずに頭を抱えている図が目に浮かぶ。だから、とここで読者の皆さんに釈明させてもらうと、月刊まいど屋創刊以来、編集部はこの絶海にそびえる巨峰に近づくことを避けてきた。まいど屋オープン以来、定番中の定番として販売を続けてきた歴史あるブランドを、一度も顧みることなく過ごしてきた。月刊まいど屋が取り上げなくたって、きっと誰だって知ってるよね。今さらだよね。若干の後ろめたさを感じながら、編集部の行為をそう正当化してきた。今思えば、そうした我々の論理は、アサヒ産業に対しても、読者の皆さんに対しても、フェアでなかったと思う。トレンドだけが全てじゃない。秘伝のタレを足し続けながら、変わらぬ味を守り抜いていくやり方だって確かにある。それは仕事にはアサヒ産業のツナギ服しか使わないという全国のリピーターの声なき声が証明している。レポートを仕上げるのに苦労しそうだからという言い訳はもうやめよう。このインタビューで、不動の定番アイテムの魅力に正面からぶつかってみよう。
 

アサヒ産業
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ゆったりストレッチを実現する腰プリーツ
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プリーツ裏にはゴム入りの幅広生地が施されている
「大正元年(1912年)創業で、ツナギの製造販売は1973年から。30年ほど前、先代社長が女性のスカートをヒントに、腰にプリーツを入れたツナギ服を作って特許申請したんです。それがヒットして、いつしかツナギがウチのメイン商品に。この腰プリーツ、現在でも当社のツナギのほぼすべてに入れています」。そう話すのは、生産管理部の吉本部長。おもむろにツナギのファスナーを開け、プリーツの裏側に施されたゴム入りの生地を見せてくれた。「ツナギは、アメリカンスタイルの長くてダボッとしたものだと1着1kg以上になります。アメリカ人は体格がいいので平気ですが、日本人にはキツイ。着ると肩が凝るんです。そんなわけでウチは昔からA体(細身)でやっています。体のラインに沿った形で、腰プリーツでストレッチ性を持たせて・・・」。
  ツナギ服の作業性に革命をもたらし、アサヒ産業の名を一躍全国にとどろかせた腰プリーツだったが、20年ほど前、その特許期限が切れると、すぐに他メーカーが追随。安価な海外製品も出てきたことから、アサヒ産業も生産拠点を海外にまで広げ、国内生産との2本立てで製品づくりを行うようになる。だが、コストを抑えることが目的の海外生産においても、品質に少しでも不安がある場合は安さにこだわらず、技術レベルが納得のいく水準に達するまで、決して生産を許さなかったという。「整備工場などでは昔は白が主流でしたが、今は圧倒的にブルー。最近は紺も増えてきました。濃い色は汚れが目立ちにくいので洗い替えが少なくていいし、買い替えも少なくて済む。会社もユニフォーム支給の頻度を減らして経費節減が図れます。でも、これができるのも品質あってこそ。会社支給から半分個人負担になり、“ホームセンターで買ったけど、やっぱりダメだった”と戻ってくるお客さまもいらっしゃいます」。吉本部長も認めるように、アサヒ産業のウェアは他メーカーに比べて価格がやや高い。だが、その価格にはそれなりの理由があるということなのだ。ユーザーの側もアサヒ産業にしておけば結局はトクになるってことを知っているからこそ、喜んでアサヒ産業を指名してくるのだろう。
  さて、一般的な会社の紹介はそろそろ終わりにして、この辺で彼ら自慢のコレクショをご紹介いただくことにしよう。まずはメイドインジャパンにこだわった定番『500シリーズ』から。「ユニチカの『パルパー』という繊維(綿70%、ポリエステル30%)を使用しています。この生地、ポリエステルの芯を綿で包んだ二層構造糸で織られているので、綿の肌ざわりを保ちつつ、防縮、防シワ性があり、引き裂きや摩耗に強い。また、肩や袖付けなど力のかかる部位には、ミシン針3本で同時にステッチ(三本針縫い)をかけているので丈夫です。これができるミシンは海外にはほとんどありません」。
  国産といえば、10色のカラーバリエをもつ『100シリーズ』も定番中の定番。こちらも三本針縫いを採用し、タフな作りになっている。「細身で、胸ポケットは縦ファスナーという昔ながらのデザインです。ずっと綿100%でやってきましたが、2年前に『パルパー』に変更しました。でも、長年使っているひとも、おそらく素材が変わったことに気づかないんじゃないかな。着た感じは今までのコットンそのものですから。綿の風合いと利点をそのままに、綿の弱点をカバーする生地なので、これまでのリピーターの方にも変わりなく使用していただいています」。
  一方、海外生産の代表選手は、綿100%の『1100シリーズ』。愛され続けて20年、今やアサヒ産業の人気No.1となっているロングセラー商品だ。「ウチが初めて海外で作ったパイオニア的な商品で、その後の製品づくりのひな型になりました。胸ポケットは収納物の落下を防ぐファスナー仕様。ベルト持ち出し部分はマジックテープで、袖口はキズ付け防止の隠しボタン。ヒジにはダーツを入れ、曲げやすく、腕の形に自然に沿うようにしています」。腰プリーツ入りで背の両サイドにタックを入れたノーフォーク型とくれば動きもスムース。しっかりした綿ドリル素材と基本を押さえたシンプルな作りがユーザーの心をつかんで離さない。
  最後に、これからの季節にオススメの涼しいツナギを紹介しよう。国産の『200シリーズ』は、20年以上も前からコンスタントに出ている夏物の定番商品だ。「備後地方の作業服とツナギを一緒にできたら・・・と先代社長が考案した上下別生地のツナギ服です。上はシャツ生地、下は20番手の糸で織った薄手生地の涼感素材で、特に上は折り衿で脇にメッシュを入れているので涼しく着ていただけます」。
  また、海外生産の『8700シリーズ』はデビュー5年の比較的新しい(!)商品。ここ2~3年で認知されるようになり、じわじわ~っと人気が出てきている。「綿100%の薄手生地を使い、開襟、脇メッシュ仕様にした軽くて涼しいツナギです。コットンは縮みやすいので防縮加工をし、速乾性、防シワ性、イージーケア性も持たせています。胸には縦ファスナーも付いた二重ポケットで収納も充実させました。同シリーズの通年モノとして出した『8600シリーズ』(スタンドカラー)も人気がありますよ」。
  20年クラスの揺るぎない定番商品をいくつも持つアサヒ産業。だが、未来の定番商品づくりについては、一体どう考えているのだろう。今年も新商品が出なかったですねという言葉をグッと飲み込んで尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきた。「ツナギってポケットのデザインが変わるくらいで基本スタイルは同じ。着やすさを考えると必然的に形が決まってきて、変わりようがないんです。それでも、昨年は夏物の試作を2点ほど作ったんですよ。残念ながら今季には間に合いませんでしたが、いずれ新商品として出しますから期待していてください」。
  もちろん期待したい。そして、これまでと同じように、今後も長期にわたって多くのユーザーに愛され続ける定番商品が生まれてくることを辛抱強く待ち続けたい。一番聞きたかったことが最後に聞けてインタビューは終了し、なぜかホッと胸をなでおろした。吉本部長のその言葉を聞き出すことが、この取材の真の目的だったのだから。
 
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上下別生地で涼しさ抜群の200シリーズ
 

    

基本に忠実!だから仕事で酷使できる!丈夫で動きやすい、ナチュラルコットン100%の1100シリーズ

アサヒ産業人気No.1のロングセラー商品。素材は定番の綿ドリル。袖口はキズ付け防止に配慮した隠しボタン。胸ポケットはコイルファスナー仕立て。ヒジダーツ、背中ノーフォーク、腰プリーツ入りで動きやすさも超GOOD!

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    ■型番:1100
    ■定価:\11,400
    ■販売価格:\5,630

ハイテク2層構造糸でウェアの性能はここまで進化する!強靭性とソフトな肌当たりを兼ね備えた500シリーズ

ポリエステル芯入りの綿糸で織った生地だから肌当たりが良く、縮みやシワを防いで、擦り切れ、切り裂きにも強し!力のかかる部位は3本ステッチで強靭に。袖口、ベルト持ち出し部、胸ポケットはマジックテープ仕様。背中ノーフォーク、腰プリーツ入り。

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    ■型番:500
    ■定価:\14,000
    ■販売価格:\6,900