最強のサマーギアを作りたかった、というのが事後に確認できた彼らの唯一の述懐である。だが、それが本当であるならば、どうしてこんな結果になってしまったのだろう?それについて、まいど屋は随分と長い時間をかけ、あれこれと推測を重ねてきた。担当者に何度問い合わせをしてみても、具体的な動機や目的は伏せられたままだったからだ。結局、全てが謎に包まれたまま、まいど屋の物流センターにはこの商品だけが残された。だから、以下に記すことは、まいど屋の全くの想像でしかないことを、ここであらかじめお断りしておく。限りなく真実に近いはずの、ある種の奇譚。もとよりそれは、正確な意味での商品説明にはなり得ないが、このウェアを理解する上での貴重な手掛かりにはなるだろう。そう考えて、この不思議な商品の誕生にまつわるひとつのイメージを、ここに提示してみようと思う。皆さんの腑に落ちるスッキリとした解説とはいかないことを承知の上で、とにかくまいど屋の頭に浮かんでいることをそのまま書き記す。恐らくそれは、一年以上前の、むし暑い季節のことだったであろう。或る満月の晩、神に背く行為が、とある実験室で行われた。部屋に集まっていたのは、T社の社員たちだった。彼らは理想の作業着を追い求めていた。そして情熱が高じて遂には狂気に駆られ、絶対に手を出してはいけない実験を始めてしまったのだ。男たちのうちのひとりが、鋏を手に、布地を切り裂いていった。瞳孔が大きく開かれ、髪の毛は逆立ち、両手はぶるぶると震えていた。そのため、切り裂かれた布地は不揃いになった。それを横にいた別の男が拾い集め、慎重に縫い合せていった。窓から差し込む月光が、鋏を持った男の手許を薄暗く照らしていた。そして最後のパーツが縫い合わさったとき、その醜悪なウェアに魂が宿ったのだ。それはまるで、墓から掘り出した死体を切り刻んでつくられたフランケンシュタインのようだった。ウェアは自分の醜さによって迫害を受けることを恐れ、男たちに自分の仲間を作ることを要求した。もちろん、その願いは叶えられた。そしてジャケット、カーゴパンツ、ジョガーパンツの3点セットが世にリリースされたのだ。皆さんが想像する通り、継ぎはぎだらけの人造ウェアは、あのフランケンに勝るとも劣らない強靭なボディーを獲得している。そしてやはりあの怪物と同様、内面には繊細な感覚を宿している。裏面点接触のサラリとした肌あたりと、ドライ感をキープする吸汗速乾性。そして着用者の動きにしなるようにフィットする、伸縮率45.5%のストレッチ性。加えて真夏の太陽を遮る遮熱性まで備えて、あくまでも人間を労わろうと努力している。我々は誤って生まれてきてしまったこのウェアを、愛することができるだろうか?それともフランケンを絶望させてしまったのと同じように、その特異な容貌のみをもって攻撃を続けてしまうのだろうか?結末は皆さんの態度にかかっている。そしてまいど屋としては、この最強のサマーギアが先入観抜きで評価され、皆さんの役に立つことを願っている。
■ メーカー:寅壱
■ 型番:8860
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