男は現場の向かい側にある洋館の壁を眺めていた。まるでその壁のどこかに人生の重大な秘密が隠されているみたいに、男はじっと立ったまま目を離そうとしなかった。壁には一面に蔦が絡まっていた。不思議に思った同僚が近づいて来て男に言った。向こうの家に何か関心があるのか?あの蔦の葉がすべて落ちたとき、と男は云った。俺は死ぬ。俺の墓場はこの現場になる。あの葉が全部落ちるほどの冷たい風が吹けば、俺は間違いなく風邪をひいて肺炎になる。同僚はあまりの馬鹿げた答えに狼狽し、それから冷静になると今度は男に対して猛烈に腹を立てた。葉っぱがなくなっただけで、お前は死ぬのか。好きにしろよ、このろくでなしが。北風が吹いてきた。蔦の葉が何枚か、茎から離れて宙を舞った。それからますます風は強まり、昼ごろには雨も降ってきて蔦の葉はどんどんと地面に落ちていった。夕方にかけて、猛烈な暴風になるって予報だぜ、と例の同僚が囃すように男に言った。この調子なら、仕事がハネる前には丸裸になる。その言葉通り、夕方日が沈むころには、蔦の葉は最後の一枚を残すのみになっていた。だが、どんなに風が強く吹き荒れても、その一枚だけは散ろうとしない。男は壁に梯子を立て掛け、上って行ってその葉を確かめた。葉っぱは壁にペンキで描かれた絵だった。雨脚が強まった時間帯に男が雨宿りをしている間、あの同僚が急いで壁に細工をしたのだ。なぜ俺を騙した、と男が同僚を問い詰めた。だけど俺は死んでない。風邪だってひいてない。それどころか、仕事もすっかり順調に片付いちまった。どうしてなんだ?暴風雨の中、ペンキ塗りをして体調を悪くした同僚が、ぜいぜいと苦しそうな息を吐きながら、男に言った。当たり前だ。お前は高性能の防寒パンツを穿いている。身体の動きにしなやかにフィットするストレッチ性があるから、いつも以上に作業がはかどる。加えて軽量なのに風を一切通さないし、耐水圧10000mmという途方もない防水性能まで備えてる。オマケにウェア内の湿気を外に逃がしてドライ感を保つ透湿性も完璧だから、汗冷えすることも決してない。そんなの着てりゃ、真冬のどんな悪天候だって身は持つんだよ、このろくでなしが。同僚は振り絞るようにそう言って、遂に息絶えた。向かいの家の壁では、彼が描いた最後の一葉が、二人を見下ろすような位置で風に吹かれ続けていた。右ひざ裏に反射プリント付き。立ち姿がスラリと見えるテーパードシルエットスタイル。
■ メーカー:クロダルマ
■ 型番:57370
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