あなたの夢を叶えます、と書かれたポスターが、作業服屋の店頭に掲げてあった。色鉛筆でアンダーラインが引かれたその魅力的なキャッチの下には、小さな文字で「願い事は3つまで」と但し書きが添えられていた。俺はふらふらとその店の玄関を入り、店主に言った。カネが欲しい。女が欲しい。ゆっくりできる休日が欲しい。その3つを全部くれ。店主は無言で顎をしゃくって、店頭の作業着を指し示した。ウェアのタグには、アタックベースThe touchの文字が印刷されていた。そのウェアを買え、と店主は言った。代金を払って、そのウェアに着替えて、とっとと現場に行け。もちろん、俺は文句を言った。誇大広告で景品表示法に引っ掛かるぞとも脅してやった。だが、店主は俺の抗議に何の反応も示さず、それどころか催促するような目つきで俺の行動を待つ素振りだった。俺は仕方なく、代金を払って店を出た。買ったばかりのウェアに着替えて現場へ行き、仕事を始めた。そしてその新しい作業着について、すぐに3つのことに気が付いた。これまでと比べ物にならないほど仕事がしやすいように、スタイルは研ぎ澄まされていた。作業性は磨き上げられていた。そしてデザインは洗練されていた。だがその3つは、俺が手に入れたかったものではなかった。仕事が終わったら、さっきの店に寄って返品してやる、あのクソ親父め。仕事は思った以上にはかどった。ハードな動作にもウェアがしなやかにストレッチし、少しもストレスを感じなかった。午後になって天候が崩れても、撥水加工が雨粒を強力にはじいてくれたおかげで、仕事の進捗に影響しなかった。ようやく現場がはねてからの帰り際、監督が俺に近寄ってきて、来月から給料を上げると約束した。今日の仕事ぶりを認めて、有給休暇までくれるという。気をよくしたままコンビニに寄ると、気になっていた店員さんに告白された。俺の仕事着姿に、胸キュンしたのだそうだ。カネと女と休日を、俺はいっぺんに手に入れた。俺の夢は、案外身近なところに転がっていたのだ。右胸ポケットは収納力のある大容量タイプ。