マグショットを撮られてしまった。メモリの付いた壁際に立たされ、正面から、そして左右から。そのうちの一枚が、今回のカタログにファイルされている。写真に写っている男は確かに私だったが、私ではない誰かのように見えた。そして何を考えているかわからないような無表情で、見るからに何かをやらかしそうな雰囲気を漂わせていた。無害な一市民は、こうして裁かれてしかるべき資格を得ることになるのだ。殺風景な小部屋に置かれたテーブルの上に、私が着用していた衣類の写真が放り投げてあった。被写体となったジャケットの複数個所には、意味ありげなオレンジ色の囲み印がつけられていた。意図的かつ悪意をたっぷりと含めたそのラインに、一体どんな思惑が潜んでいるのだろう?知っていることを話してもらおう、とテーブルを挟んで座っている男が云った。何も知らない、と私は云った。君が知りたい話が何なのか、僕は知らない。それを知りたいとも思わない。明日は早朝から仕事がある。早く帰してくれないか。なかなかタフじゃないか。男はひどく嬉しそうな調子でそう言ってから、テーブルの上の写真をコツコツと叩いた。それから急に自分の役柄を思い出したように、強面を作って低い声を出した。ここでは何かを思い出す時間はたっぷりある。改心して態度を改めようと誓いを立てる時間もある。それから男はジャケットの写真をつまみ上げ、私の面前に突き付けた。これが誰の仕業なのか、どんな目的があったのか、納得できるように説明してみろ。不格好なオレンジのラインは、ジャケットのその部分に解明すべき謎が潜んでいることを示していた。アタックベースに聞いたらどうだ、と私は云った。すっきりとした顔立ちに、どういうわけか現場検証の印を想起させるオレンジの囲み。印象度は確かに高いが、胸がざわつくこと間違いなしのミリタリー風ジャケット。軽量ながらハードな現場にうってつけの高耐久仕様。防風性良好。中綿入りで保温性も上々。多少の雨ならはじく撥水加工付き。