これは何だ?一体、何を意味してるんだ?難易度が高い謎解きに、俺たちはいつまで苦しめられるんだ?コイツを前にして、そうボヤいている寅壱ファンは多いんじゃないかな。まいど屋だって諸君と同じだ。初対面の展示会では、あまりに突拍子がなさ過ぎて、ただ唸るしかなかったんだ。初めはガキの頃のアップリケを連想した。平成以降の記憶しかない若い職人にはピンとこないだろうが、その昔は衣類がほつれるたびに当て布を縫いつけ、そのまま着続けることが一般的だったんだ。今なら前衛アート風にデコってるとでも解釈されて逆の意味で注目を浴びるのだろうけど、当時は貧乏臭く、みじめったらしく、そんな服を着るのがたまらなく嫌だった。そうした時代ギャップに光を当てて、問題提起をしたつもりなのか?だが、稀代の表現者である寅壱が、そんな陳腐なテーマでわざわざ新作を発表するはずがないだろう。じゃ、彼らの真の意図は?悩んでいてもラチが明かず、そうしているうちにも寅壱の営業担当者から早く販売を開始してユーザーに商品を届けてくれと矢の催促が続いているので、まいど屋はここで一つの仮説を立てる。今度のテーマはモダンの対極にある。ワールドワイドな流行とも距離を置き、恐らくはこの国の伝統に強くインスパイアされている。アイデアは昭和どころか、もっと遙かに昔、平安時代にまで遡って求めたのだろう。令和の元号が万葉集から採られたように、彼らは平安文化の象徴である枯山水に着目した。広い空間に、その調和を乱すかのように無造作に置き石をする、あの独特の美意識を再発見したんだ。そう考えれば、この飛躍のありすぎるデザインにも納得がいく。胸ポケの取付を通常の糸縫製ではなく、ゴロつき感のない圧着式にした意図もはっきりしてくる。それはアップリケのような人工物ではなく、あくまでそっとその場所に配置された自然物だ。いいか?寅壱は俺たちを置き去りにして前進しすぎたのではなく、俺たちを見守るようにずっと後ろに下がってみた。そしてその位置から、時代を俯瞰しようとしているんだ。肌に触れるとヒンヤリ心地よい接触冷感の夏モデル。サイドボディーは通気性を確保し、爽やかな着用感を約束するメッシュ仕立て。脇下は腕の上げ下げがスムースなトリカット仕様。
■ メーカー:寅壱
■ 型番:5974
※"寅壱"の特集1 2 3 4 5 6 7 8 9 10